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荀子 巻第十一彊国篇第十六 6 #1

応侯、孫卿子に問いて曰わく、秦に入りて何を見たると。孫卿子曰わく、其の固塞は険に、形埶(勢)は便に、山林川谷は美にして、天材の利の多きは、是れ形勝なるなり。境に入りて其の風俗を観るに、其の百姓は樸、其の声楽は流ならず、其の服は挑(姚)ならず、甚だ有司を畏れて順なるは、いにしえの民なり。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

形勢→①物事のありさま。様子。なりゆき。
便→②都合がよい。やりやすい。また、ついで。てだて。
天材→②天然の物産。
形勝→①風景がすぐれていること。また、その土地。景勝。
樸→②ありのまま。飾り気がない。
声楽→音楽。
有司→役人。官吏。
拙訳です。
『秦国の宰相応侯が、荀子に次のように質問した。「秦に入国して何を見たか。」荀子が答える。「秦国の守りは固く険しく、物事のありさまは便利で、山林渓谷は美しく、天然の良い物産が多く、景勝の地であります。国境を入りその風俗を見ますと、民衆は朴直で、音楽は乱れておらず、服は美しいものではなく質素で、非常に役人を恐れて従順なのは古き良き民のありようです。」』

都邑の官府にいた(至)るに、其の百吏は粛然しゅくぜんとして恭倹とん敬忠信にして不楛ふこならざることきは、古えの吏なり。其の国に入りて其の士大夫を観るに、其の門よりずれば公門に入り、公門より出ずれば其の家に帰りて私事あることなく、比周せず朋党せず、倜然てきぜんとして明通して公ならざること莫きは、古えの士大夫なり。其の朝廷を観るに、甚だ閒(閑)にして聴決し百事留まらず、恬然てんぜんとして治[事]なき者の如きは、古えの朝[廷]なり。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

都邑→みやことむら。また、みやこ。都会。
恭倹→人に対してはうやうやしく、自分自身は慎み深く振る舞うこと。また、そのさま。
敦敬→心あつくつつしみ深い。
忠信→忠実と信義。まごころを尽くし、うそ偽りのないこと。
不楛→(注より)楛は器物が悪くて堅牢でないこと、従って不楛とは堅牢で善良なもので、つまり粗悪品を作らないこと。
士大夫→中国で、士と大夫。のち、知識階級や科挙に合格して官職にある者をさした。
比周→②よくない目的で仲間を作ること。徒党を組むこと。
朋党→主義や利害を共通にする仲間。徒党。
倜→①拘束されないさま。
明通→明達。明達→聡明で道理をわきまえていること。また、そのさま。
聴決→訴訟を裁決する。
恬然→静かでやすらかなさま。物事にこだわらないでのんびりしたさま。
治事→政務を執る。
拙訳です。
『「町や村の官庁に来れば、多くの官吏が粛然として人には恭しく自分は慎み深く嘘がなく全員が善良であるというのは、古き良き官吏のありようです。都に入ってから官職者を見ますと、自宅を出れば公舎の門に入り、公舎の門を出れば自宅に帰り個人の事がなく、良くない徒党を組むことをせず、拘りがなく聡明で道理をわきまえ、公務に専念しているのは、古き良き官職者のありようです。政庁を見れば、非常に静かで、訴訟を次々に留まらせること無く裁決し、安らかで政務を執るものがいないようであるのは、古き良き政庁のありようです。」』

秦国の宰相応侯(范雎はんしょ)が、秦国に来た荀子に「我が国をどう見ましたか。」と問い、荀子はここまで、秦国は形勝で、民・吏・士大夫・朝廷すべて古き良き時代のようだと褒める回答をしています。

またも宮城谷昌光の本の宣伝になりますが、「青雲はるかに」が今回登場している范雎はんしょを主人公にした小説です。勿論面白くお勧めです。
続きは次回とします。

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