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荀子 巻第七王覇篇第十一 8

百里の地にても以て天下を取るべしとは是れ虚[欺]ならず。其の難きことは人主のこれを知ることに在るなり。天下を取るとは其の土地をせおいてこれに従わしむるとのことには非ず。道以て人を壱にするに足るのみ。の其の人の苟くも壱ならば則ち其の土地は且奚はたなんぞ我れを去りて它(他)にかん。故に百里の地にても其の等位爵服は以て天下の賢士をるるに足り、其の官職事業は以て天下の能士を容るるに足り、其の旧法に循がい其の善者を択びてつと(勉)めてこれを用うれば以て好利の人を順服せしむるに足る。

(「荀子」岩波文庫 金谷治訳注)

いやしくも→①仮にも。かりそめにも。
且奚はたなんぞ→はた→⑧否定・疑問・感動などの表現を強める語。まったく。いったい。なんぞ→②反語の意を表す。どうして…か、いや、そうではない。
等位→くらい。等級。官等位階。
爵服→爵位とそれに相当する衣服。
順服→素直に従うこと。また、つき従わせること。
拙訳です。
『百里程度の小国であっても天下をとりなさい、というのは虚言ではない。天下を取ることが難しいというのは君主が天下を取ることが難しいということを知る事に在る。天下を取るというのは土地を背負わせて服従させるというものではない。道を用いて人を一つにまとめるだけで十分である。あの国の人が仮にも我が国と一つにまとまっていれば、その土地はいったいどうして自分を離れて他に行くであろうか、行かないのである。だから百里の小国でも位階は天下の賢人を就かせるのに十分あり、業務は天下の有能者に務めさせるのに十分あり、古法に従ってその良いところを選び正しくこれを用いれば利を優先する人をも十分素直に従わせられるのである。』

賢士は一となり能士は官し好利の人は服す、三者のそなわりて天下尽く是れより外のこと有るなし。故に百里の地にても以て[天下の]埶をつくすに足り、忠信を致し仁義をあらわせば以て人を竭すに足る。[埶と人と]両者合して天下は取られ諸侯の後れてあつまるものは先ず危うし。詩に、西よりし東よりし、南よりし北よりして、服さざるは無し、と曰えるは人を一にするの謂なり。

(同)

尽く→問題にしているもの全部。残らず。すべて。みな。
埶→②いきおい。
つくす→①あるかぎり出す。 全部出しきる。 つきるまでする。 ② その極まで達する。
致す→③全力で事を行う。心を尽くす。
著→②あらわれる。いちじるしい。目立つ。あきらか。
する→②㋐ある事・動作・行為などを行う。
拙訳です。
『賢者は一つとなり有能者は官職に就き利を好む者は服従する、三者が揃うことで天下の人すべてでありこれより他はない。百里の小国であっても天下にその勢いの極みまでを示すことができ、忠信を全力で行い仁義を明らかにすれば人をその極みまで達するようにさせることが出来る。勢いと人を合わせて天下を取ることができ、諸侯の内遅れた来たものはまず危うくなる。詩に「西より来東より来、南より来北より来て、服さない者はいない」というのは人を一つにすることである。』

小国であっても、人心を一つにまとめれば天下を取れるという話です。
が、驚いたのは世の中には、「賢者」と「有能者」と「好利」の三種類の人しかいないという断定です。言われてみれば、賢者でも有能者でもない人は、もれなく「好利」の人かもしれません。ご多分に漏れず僕も好利の一人です。お恥ずかしい。
「道以て人を壱にするに足るのみ。」
遠く長い道ですが、一歩ずつ、前進していきたい思います。

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