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よしなしごとをそこはかとなく

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アンチワクチン・<真理>・装う権力

はじめに「命を救え!」「ワクチン反対!」 日比谷公園から放たれた声は、道を挟んで向かい側にあるビルに衝突し、アスファルトで熱せられた空気とともに上昇する。 彼らが主張するのは、ワクチンへの反対だけでなく、それを通じた信念体系への挑戦である。アンチワクチンの議論は往々にして陰謀論に結びついており、その特徴として、信念体系が単一論理で説明可能であることが挙げられる(注1)。その信念体系の中において、アンチワクチンはひとつの「真理」なのだ。 彼らと僕らを区別するのは簡単ではな

    • 亡霊とともに生きること

      私の抱えているマモちゃんへの執着の正体とは、一体何なのだろう。これは、もはや恋ではない。きっと愛でもない。(映画「愛がなんだ」山田テルコの独白より) 映画「愛がなんだ」は、山田テルコと田中マモル(マモちゃん)の間の奇妙な、しかしどこか既視感のある関係をめぐる物語である。テルコの世界は、マモちゃんと出会い恋に落ちたその時から、マモちゃん一色に染まっていく。深夜に突然マモちゃんの家から追い出されても、マモちゃんが遠因となり会社をクビになっても、マモちゃんに「もう好きじゃなくなっ

      • 常に既にあるデモクラシー

        1.システム・共同性・連帯『後期資本主義における正統化の諸問題』においてユルゲン・ハーバーマスは、国家(政治システム)と市場(経済システム)の分離が建前である自由主義的資本主義から、市場の失敗を回避すべく国家が積極的に市場に関わることが期待される後期資本主義への変遷を主張する。国家と市場は一体となって複雑なシステムを形成し、それに大きな影響力を持つ権力者や資本家、あるいはその部下であるテクノクラートがシステムを運用する一方、市民は政治から疎外され、脱政治化されていく。 その

        • 脱臼したことばの先に -千種創一『千夜曳獏』-

          まずものがあり、それを表すためにことばがある。そんな素朴な直感をひっくり返したのが言語論的転回である。言語論的転回についてここでは詳述しないが、とても大雑把に言えば、まずことばがあり、それが表す先にものがあるという考え方だ。 この考え方はすごく窮屈に思える。ことばという、あまりにも限定された地面の上でしか僕らは踊れない。それは考えることの無限性を信じたい人間にとって、時に残酷にも響きうる。まるで檻の中に閉じ込められているように、首と胸のあいだあたりが苦しくなる。 では、な

        アンチワクチン・<真理>・装う権力

          茶番にコミットする -デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』-

          色々とあると思うんだけど、なんかすごい悲しくなったんだよね。私の立場に寄り添ってくれている体裁をしているだけで、実は社会人としてどういう風に振る舞って、どう言う風に落とし所を作ればいいのかと思っているだけで。今分かった気がするのはさ、なんであのとき哀しかったのかはさ、私が期待してたのは、人と人としての関係を信頼して普通に会話して、共有したかったんだと思うんだよね。でも実際のあの場で、この人たちは社会側に寝返ったんだって思わなくちゃいけなかったことが私を哀しくさせたんだなあって

          茶番にコミットする -デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』-