技能実習制度は今回の見直しでホワイトな制度に生まれ変われるのか?

30年の歴史をもつ日本の技能実習制度が大きな転換点を迎えようとしています。
劣悪な労働環境、低賃金、そして何よりも転職が許されないという制約により技能実習制度は長らく国内外から「ブラックな制度」として揶揄されてきました。これらの問題を踏まえ、政府の有識者会議が最終報告書で新制度についてのたたき台を公表しています。新制度では基本的に3年の育成期間を設け、特定技能1号の水準の人材に育成することが目標とされています。

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第12回)
https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/03_00001.html

そして何より注目されるのは、1年以上の勤務や、技能・日本語の能力等一定の条件をクリアすれば、同じ分野に限り転職が認められるという点です。
法務省の統計によると令和4年の失踪技能実習生の失踪総数は9,006名とされています。
筆者も、失踪中の外国人本人から、またその周囲の方から相談を受けたことが幾度かあり、これは長年にわたり非常に深刻な問題でした。
来日後の職場の労働環境が悪い、毎日のように罵倒される等の状況が続いた場合、通常であれば職場を変えることを選ぶのでしょうが、従来の技能実習制度ではそれが許されていませんでした。
この点において転職の選択肢が加わったということは大きな進歩であると考えます。

一方で新制度で転職が容易になった場合、地方の企業から都市部への人材流出が懸念されています。技能実習生として来日する者の多くは10代~20代前半の若者です。例えば、静岡県内の水産加工関連の仕事をする若者が、週末に東京で楽しそうに遊ぶ仲間のSNSを見て「自分も東京で働きたい」と考えるのは、ごくごく自然なことでしょう。

技能実習制度の根本的な狙いは、国内の労働市場だけでは対応しきれない産業で必要な人材を確保・育成することです。そして、これらの産業の多くは地方に集中しています。転籍がどのような条件で許されるかは、新制度の成功の鍵を握っているといえます。

政府の有識者会議の最終報告書は、技能実習制度を公平かつ人権を尊重する方向に進める可能性を示していると考えますが、人権の保護と制度の目的達成のバランスは微妙です。単純な解決策では対処できない複雑な課題が山積する中、この制度が真に「ホワイト」なものに近づくかどうかは、今後の詳細な議論と制度設計が決定的な要素となるでしょう。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?