見出し画像

たけのこニョッキ

「たけのこニョッキってなに?」
「知らないの?」
「知らない」
「1ニョッキ、2ニョッキってやるやつ。飲み会とかで」
「知らない怖いなにそれ」
「まず、一番最初の人が、1ニョッキって、で、次の人が、次の人ってか、次になりたい人が、2ニョッキってつづいて、3ニョッキ、4ニョッキって、で、最後まで残ったらだめで、数が」
「待って待って、全然わかんない」
「電話じゃ無理だよ、伝えられないよ。ネットで調べてよ」
「伝えてよ、ちゃんと。最近そういう感じじゃん。私に対して全然頑張ってくれない」
「たけのこニョッキを?」
「うん。たけのこニョッキってやつを」
「まず」
「うん」
「まず、一番最初の人が、1ニョッキって言う」
「一番最初の人?」
「うーんと、このゲームのルールとしてはまず、数を積み上げていくのね。1ニョッキ、2ニョッキ、3ニョッキってな感じで」
「うん」
「で、最初の1ニョッキを、まず言いたい人が、1ニョッキって言う」
「ん? うん。誰が言ってもいいの?」
「うん、誰が言ってもいい。このゲームは、誰がどの数字を言ってもいい。ただその代わり、かぶっちゃったらダメなの」
「かぶったらってなに」
「1ニョッキ、2ニョッキ、3ニョッキ、って数を上げていくんだけど、その、1ニョッキ、とか2ニョッキ、とか言うタイミングは自由な代わりに、同じタイミングで複数の人が言ったらアウトなの。ここまではわかる?」
「わかんない」
「うん。たとえば5人でやるとするでしょ」
「うん」
「で、1ニョッキ、が最初なのね。たけのこニョッキ、ニョッキッキ、って合図があって、すぐに1ニョッキって言ってもいいし、待ってもいい」
「合図かわいいね」
「で、1ニョッキって言って、他の人が言わなかったら、一抜け。次は2ニョッキで、同じことの繰り返し」
「全然わかんない」
「えっと、まずこのゲームは、連番なのね。1ニョッキ、2ニョッキ、3ニョッキって、なってくの。で、誰がどの数字を言ってもよくて、で、最後まで取り残された人が負け。で、かぶった人も負け」
「うーん、結局なにをしたら負けで、なにをしたら勝ちなの」
「だから、最後までのこった人が負けで、かぶらないで早抜けした人が勝ち」
「怒らないでよ」
「いや怒ってないよ」
「待って待って、えっと、ちょっと待って、まずどうやったら勝ちなの」
「勝ちなのは、だから早く抜けた人」
「早く抜けた人ってのは、1ニョッキ、2ニョッキ、って、他の人よりも先に言った人だよね」
「うん、そう、かぶったら意味ないんだけど」
「かぶったら意味ない、うん」
「意味ないというか、かぶったら負け」
「うん。で、負けってのは、もうひとつあって、それが最後まで残った人」
「うん」
「だから、1ニョッキ、2ニョッキ、ってずっと言わないで待ってて、最後になっちゃった人だよね」
「そう」
「ということは、えっと、なるべく待ってたほうがいいのか」
「ん?」
「だから、1ニョッキ、2ニョッキ、て言うからかぶって負ける可能性があるわけで、言わなければ、勝手に相手が自滅することがあるってことでしょ」
「ん? うん、でも最後まで残ったら負けだから」
「いやそうだけど、だって、なんとかニョッキって言わなかったら、かぶることがないわけじゃん。たとえば5人でやるとして」
「うん」
「1ニョッキ、2ニョッキ、3ニョッキ、4ニョッキ、これは全部かぶる可能性があるんでしょ」
「うん」
「で、ニョッキの数が増えていくごとに、ゲームに残ってる人数が減っていくんでしょ」
「ん? うん」
「てことはさ、1ニョッキより、4ニョッキのほうが、かぶる確率が低いわけじゃん」
「ん? まあ」
「てことは、最後まで待ってたほうが、負ける確率が低いってことにならない?」
「ん? え、いやあ。でも、このゲームって、平等だから」
「え、なんで?」
「たけのこニョッキはふつうに平等」
「てゆうかあれじゃん、参加人数が多ければ多いほど、最後まで待ってたほうが有利じゃん」
「いやいや、だからたとえば5人でやるとするでしょ」
「うん」
「えっと、5ニョッキまで残ってた人が負けで」
「うん」
「1ニョッキを言おうとする人と、4ニョッキを言おうとする人の、確率が違うよねって話だよね」
「うん、負けのね」
「負けの。だから、1ニョッキって言うときは5人いて、4ニョッキって言うときは、最後だから、えっと2人残ってて、だから2人のときのほうが負けないじゃんてことでしょ、でも1ニョッキで抜けたほうが、早く勝てるじゃん」
「早く勝てる?」
「えっとふつうに1ニョッキで上がったらもう勝ちなわけで、2ニョッキ、3ニョッキって、残っていくと、どんどん5ニョッキに近づいて負ける確率が上がっていくじゃん」
「ん?」
「残れば残るほど、危ないじゃん」
「でもそれはかぶる確率を考慮してなくない?」
「え?」
「1ニョッキでいこうと思ってる人と、4ニョッキでいこうと思ってる人がいて、単純に1ニョッキのほうが残ってる人が多いからかぶりやすいよね、って話で」
「え、でもあれじゃん、そっちは5ニョッキに近づいて負ける確率を考慮してないじゃん」
「5ニョッキに近づいて負ける確率ってなに」
「だから要は、1ニョッキと4ニョッキで比較したらたしかにそうなんだけどね、逆に5ニョッキに近づくにつれて人数が減っていくから、5ニョッキってしなきゃいけない確率が上がってくんだよ、そう、そういうこと」
「でも5ニョッキって、存在しないんじゃないの?」
「はい?」
「だって、4ニョッキでかぶってもアウトだし、4ニョッキまで言われて残ってもアウトなんでしょ?」
「うん、まあ」
「存在しないじゃん、5ニョッキ」
「うーん」
「だから、1ニョッキから4ニョッキのどれを選択するかって話でしょ、このゲームは」
「うーん、なんかちょっと納得できないけど」
「独立してるじゃん、それぞれ」
「そういうのじゃないけど、このゲームは」
「でもありがと」
「は?」
「好き」
「なに、意味わかんねえけど」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?