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ミュージカル『ジプシーローズ』大竹しのぶ インタビュー ①

本日(2023/04/09)開演します『ミュージカル『GYPSY(ジプシー)』の大竹しのぶさんのインタビューの一端を紹介します。


その前に、宮沢りえさんとの秘めた交流の事を見つけましたので、貼っておきます。

2023/4/9 の記事

女優・大竹しのぶによる朝日新聞人気連載を書籍化したエッセイ「母との食卓 まあいいか3」。新生活がスタートした今、日常の些細なことに宿る大切なことを思い起こさせ、元気をくれるエッセイ3本を本書から一部抜粋してお届けする。2本目は女優・宮沢りえから贈られたピンクのカードケースと、舞台上での秘密の時間について。
※初出は朝日新聞夕刊 連載「まあいいか」2017年9月1日~2021年3月19日付け

大事すぎて、大切すぎて

息子が私の還暦のお祝いに、大枚をはたいて買ってくれたであろう赤いお財布。嬉しくて、嬉しくて、すぐには使えず2年間も飾っていた。 時々「今日こそおろして使ってみようか」と決心するものの、大切なこのお財布を汚したらどうしようと思い、彼の父親の写真や、娘の成人式の写真が飾ってある場所にまた戻すということを数回繰り返してきた。 そして今日やっぱり、また元の場所に戻してしまった。「使わなくちゃ意味ないじゃん」と息子。 もう一つ同じように使えなかった可愛いピンクのカードケース。これは女優の宮沢りえちゃんから、1年前に頂いたものだ。 昨年9月、母を亡くした月、私は舞台に立っていた。亡くなった日も、お通夜である前夜祭の日も、お別れの日も。想像以上にしんどく、苦しい日々が続いていたある日。芝居を観に来てくれたりえちゃんが、母のことには触れずに、楽屋で手渡してくれたプレゼント。 「元気が出るビタミンカラーを選んでみました」と一言。私たちは何も言わずに抱き合った。5年前、りえちゃんのお母様が亡くなった時、私たちは一緒に舞台に立っていた。稽古中はずっと看病もあっただろう、一人でまだ幼いお嬢さんを抱えて、どんなに不安だっただろうか。私は何も分かっていなかった。 そして幕が開き、お母様との別れがあった日も彼女は堂々と舞台に立ち、芝居をしていた。ラスト近くでのシーン、舞台上で私たち二人だけでほんの何秒かの暗転がある。私はりえちゃんの手をギュッと握りしめる、彼女はその私の手をギュッと握り返す。二人だけにわかるやりとり。「どんなことがあっても、良い芝居をしようね。頑張れりえちゃん」「はい、頑張ります」。それは千秋楽まで続いた私たちだけの秘密の時間だった。 わかり合えたと思っていたのだが、実際にその時の彼女と同じ立場になって私は、彼女の苦しみや悲しみを初めて理解することができた。あんな風に手を繋いでいても、その悲しみの10分の1も理解してあげてなかったことがわかった。そんなりえちゃんからのプレゼント。 あれから1年が過ぎ、やっと使えるようになったビタミンカラー。その度に、あの時の手のぬくもりを思い出すのはいうまでもない。あ、そう言えば私が海外のお土産に買ってきたお財布、母も使わずしまい込んでいた。 今も残っているピカピカのお財布。 「使わないと意味ないよ」 息子と同じことを言っていたのを思い出す。


大竹しのぶ流コミュニケーション術。「私、スマホを見ている人にも平気で話しかけちゃいます(笑)」

LEON 2023/4/1(土)

ブロードウェイ・ミュージカルの名作『GIPSY』(ジプシー)でローズ役に挑戦する大竹しのぶさんに、お芝居にかける思いと、家族との関係、そして世代を超えた人々との付き合い方についてもお話を伺いまし

卓越した演技力と絶対的な存在感で、もはや説明不要の日本を代表する女優・大竹しのぶさんが、この春、新たな大役、ミュージカル『GYPSY』(ジプシー)のローズ役に挑みます。同作は実在した“バーレスクの女王”、ジプシー・ローズ・リーの回顧録を基に製作されたブロードウェイ・ミュージカル。 彼女の母親で、自分の夢を娘に託し、娘をスターにしようと躍起になる“究極のショー・ビジネス・マザー“であるローズ(※)を中心に物語は展開されていきます。自らも母親である大竹さんに役柄のことはもちろん、ご自身の家族や若い世代の人々との付き合い方についても話を伺いました。 ※ジプシー・ローズ・リーの本名はルイーズ。母の名前を芸名の一部にした。

「生意気を言うな」とよく怒られていました(笑)

── 世界でも名だたる女優が演じてきたローズ役を、大竹さんが演じると聞き、「ぴったり!」と思った人は多いと思います。大竹さんご自身は、オファーがあった時はどう思われましたか? 大竹しのぶさん(以下、大竹) 私、鳳蘭さんと宮沢りえちゃんで上演した『GYPSY』を観ているんです。ローズが夢を持って生きていきたいと歌う「Some People」という楽曲が素敵で、いつかやれたらいいなとは漠然と思っていた役柄であり作品だったので、夢が叶いました。 ── ミュージカルに携わる世界中の女優が演じたいと切望する、ローズという役柄についてはどう解釈されていますか。 大竹 ローズは心で思ったことがそのまま口をついて出てしまう人。私もおかしいと思ったことはそのままにできず、若い時から、脚本家の先生などに「これ、違うと思います」と言って、プロデューサーに「そんなこと言っちゃダメ」とよく怒られていました(笑)。 ── 大竹さんらしいエピソードです(笑)。 大竹 私はパワフルな女性を演ることが多いのですが、ローズはとりわけパワフルです。ビッグスターになる夢を2人の子どもに託し、わき目もふらず突き進んでいるのですが、ある日、突然、娘のひとりが母親の前から去ってしまいます。 でも、そんな状況でも次のことを考える。どんな時もエネルギーに溢れているローズという役柄を精いっぱい楽しみたいなと思っています。観ている方が、「うぉ~っ」と叫びたくなるような、「やるぜ!」と思ってもらえるようなエネルギーを受け取ってもらえる作品にしたいです。


── ローズは究極のステージママとも称される人物ですが、大竹さんが芸能界入りする時の親御さんの反応はどうだったのでしょう?  大竹 反対はされませんでしたが、すごく心配だったと思います。初めて映画に出ることになり、撮影で九州に行くことになった時のことは今でも覚えています。父が駅まで送ってくれて、ホームで私の顔を見ずに、「お父さんは芸能界のことはよくわからないけれど、自分をしっかり持って頑張ってきなさい」と言ってくれました。 ── 大竹さんご自身にとってはショービジネスの世界は最初から居心地のいい場所でしたか。外から見ていると「怖いところなんじゃないかな」とつい勘ぐってしまいます(笑)。 大竹 ぜんぜん怖くないですよ~。確かに最初はちょっと怖かったけれど、すぐにみんなが一生懸命に働いている場所なんだとわかりました。1920年代のヴォードヴィルの世界を舞台にした『GYPSY』とは違い、日本の芸能界は全然煌びやかなんかじゃないですけど(笑)。 ── きっと大竹さんはデビュー当時からずっとお芝居が大好きだったのでしょうね。 大竹 そうなんです。お芝居することが楽しくて仕方ない。若い頃からお稽古が大好きでした。(稽古が)長くても厳しくても全然大丈夫。たくさんのダメ出しに、「きゃ~」と思うこともあるけれど、それ以上に「このダメ出しを早くやりたい!」って思うんです。今度はこういう風にやるから観てねって。一生懸命やって、演出家やスタッフの期待に応えたい、褒めてもらいたいという気持ちもあります。

日常の何気ない出来事をより大切していきたい

── 今のお仕事をしていて、特に喜びを感じるのはどんな時ですか。 大竹 初日の幕が上がる時です。よく、「変わってるね」って言われますが(笑)、1、2カ月かけて、みんなで一生懸命作ってきたものを、ようやく観てもらえると思うとうれしくて。稽古場で芝居を作り上げ、劇場に入って、装置や照明が完成し、私たち役者が舞台に立ち、そこにお客さんが入るということが、とてもうれしいんです。 ── 憑依系の女優と言われることも多いですが、役にのめり込んで日常生活に影響を及ぼすこともあるんでしょうか……。 大竹 若い頃はそんなこともあったかもしれませんが、結婚して、子どもを産んでからは、(役に)とりつかれる時間がなくなってしまいました。どんなに役に入り込んでも、幕が下りた瞬間に母親に戻らなきゃならないので(笑)。 ── 大竹さんは、ローズに負けず劣らずパワフルですが、そうは言ってもお疲れになることもあると思います。どんな風にしてエネルギーをチャージしているのでしょう? 大竹 よく食べますね。休みの日は、リビングでだらだらお茶飲みながらNetflixを見て、一緒に住んでいる息子の食事を作ったりして過ごします。で、妹や友達と、「まただらだら過ごしちゃった!」などとくだらない話をするの。それが楽しいんです(笑)。 このあいだの休日も、何もする気になれなくて、家でだらだらしていたら、急に友人一家が我が家に来ることになったんです。人が来るとなると、何かやろうと思うものですね。お魚を焼いて、丁寧に出汁をとってお味噌汁を作り、お鍋でごはんを炊いたのですが、そのどうってことない食事をとても美味しく感じたんです。そんな風に、些細なことで喜びを感じています(笑)。


── ご家庭のこともきちんとされているんですね。お芝居をされている時のエネルギッシュな大竹さんとのギャップが激しすぎます! 大竹 ちゃんとかどうかはわからないけれど、コロナ禍で、日常の何気ない出来事をより大切していきたいと思うようになりました。例えば先日、段ボールをゴミ捨て場に置きにいったんです。そうしたら積み上げられていたものが少し崩れてしまったんです。一応なんとなくまとめていたのですが、回収の人もやり難いだろうなと思って、部屋から紐を持ってきてくくりました。こういったことも体力づくりのひとつになっているかもしれないですしね(笑)。 ── 一事が万事。些細なことでも大切にしていらっしゃるんですね。 大竹 2018年に他界した私の母は、夜、キッチンの片付けが終わると、「今日も1日終わりました」とつぶやいていました。私は、「疲れているなら明日片付ければいいじゃない」なんて言っていたのですが、母は必ずその日のうちに片付けていました。今は、私が母と同じことをしています。その日のうちに片付ける心地よさがわかるようになってきたんです(笑)。私、今、母と同じことをしているんだなあ、それを娘や息子が見ているんだなあとしみじみ思います。


子育てでは普通の感覚を持たせるように意識しました

── お子さんの話が出ましたが、長女のIMALUさんが芸能界に入ることについてはどう思われました? 反対はされなかった? 大竹 娘はもともと音楽に携わる仕事をしたいと言っていたのですが、私も娘も知らない間にどんどん話が大きくなってしまい、結局、何がなんだかわからないままに、芸能界入りすることになってしまいました。(明石家)さんまさんと私の娘というだけで、娘には苦労をかけてしまいましたが、最近は、「どう生きていけばいいか見極められるようになって、ようやく楽になれた」なんて話もしていました。


── 子育てに関しては教育方針みたいなものはあったのでしょうか。 大竹 私自身もそうだったのですが、「普通でいなきゃ」という思いが強かったです。芸能界にいると金銭感覚が違ったりするのは、そのひとつですね。だからこそ、普通の感覚を持たせるように意識しました。 笑い話なんですけどね、さんまさんと結婚していた頃は、旅行で飛行機に乗る際は、家族全員でファーストクラスに乗っていました。離婚後に、子どもと一緒にエコノミーに乗ろうとすると、息子が、「前はあっちの席だったよね?」と言うので、「子どもなんだからこっち(エコノミー)でいいの。あっちの席に行きたければ、自分で働いて自分のお金で乗りなさい」って(笑)。お小遣いも、クラスで2番目だか3番目に少なかったみたいです。 ── 教育の効果はありましたか? 大竹 はい。30歳を過ぎた今も2人とも物欲があまりなくて、張り合いがありません(笑)。ただ、一緒に暮らしている息子は少し甘やかしてしまっているかもしれません。これくらい自分でやらせなきゃと思いながら、ついやってあげてしまうんです。


スタッフの方の名前を覚えるところから始まった

── ところで大竹さんは、スタッフさんとのコミュニケーションをとても大切にされているそうですね。 大竹 スタッフさんは一緒に作品を作る仲間。しっかりコミュニケーションを取るのは当然のことです。映画デビュー作の『青春の門』(1975年)の時、「スタッフの名前はきちんと覚えなさい」と教えていただき、出番がない日も、毎日、学校帰りに撮影所に通っていました。本当に素晴らしいことを教えていただきました。毎日、撮影所に行っていると、スタッフの方の名前も自然と覚えますし、みなさんが可愛いがってくださいます。昔と今とでは映画の作り方は違いますが、そういった昔の映画の作り方を経験できて本当に良かったと思っています。 ── 若い俳優さんとは、どんな風にコミュニケーションを取っていますか。LEONの読者には世代の違う部下の扱い方に悩んでいる人も多く、ぜひアドバイスをお願いできればと(笑)。 大竹 最近は個人主義ですよね。自分の出番が終わったら自分の居場所に戻ったり、スマホを見たり……。でも私、スマホを見ている人にも平気で話しかけちゃいます(笑)。舞台って、本番の前にお稽古期間があるので一緒にいる時間が長いんですよ。舞台の期間中は、家族以上に長い時間を共有するので、関係が築きやすく、だんだんと悩みなども相談してくれるようになります。 私も、「昔はね、出番を待っている間もずっと現場にいて、スタッフさんとお話したりしていたんだよ」「ロケでは大広間でみんなで食事をして先輩からいろいろなお話を聞いたのよ」なんて昔話をしたりして(笑)。今回の『GYPSY』でも、スタッフや共演者のみなさんとなんでも言い合える関係を作っていきたいです。

── なんでも言い合える関係、素敵です。ところで、大竹さんは若い俳優には積極的にアドバイスするほうですか。 大竹 言いたいことを言える関係を作ったうえで、芝居のことを中心に基本的なことは伝えます。だから、みんな私にいろいろなことを聞きにくるんです(笑)。芝居が終わると、若い俳優さんが楽屋に「今日はどうでしたか」って聞きに来たり、あとは悩み相談だったり……。だから私がいつも楽屋を出るのが最後。でもうれしいし、楽しいです。 先日、ある舞台作品で、ある女優さんが、若い俳優さんに、「あなたはまだ素人みたいなものだ」と少しキツいことを言ったんです。すると翌朝、その俳優さんが、ストレッチのときに膝を抱えていたんです。まずいな~と思って、「でもさ、言ってもらえて良かったね」と声をかけたら、その子、パッと顔をあげて、「そうなんです。本当に良かったです。今ここで頑張らなければ、僕の未来はないですよね」なんて言って、かわいいなあって(笑)。 その日の本番は第一声から違いました。こんな風に若い俳優さんの成長を目の当たりにできるのはとてもうれしいことだし、舞台には言いたいことを言い合って仲間になれる雰囲気があります。 ── 最後に、ちょっとLEON的な質問をさせてください。“カッコいい大人”というキーワードは、LEONが掲げる大切なテーマのひとつですが、大竹さんが考える“カッコいい大人”とは? 大竹 ちゃらちゃらしている人よりも必死な人が好きです。一生懸命やっている人は、外見にかかわらずカッコいいです。もちろん、一生懸命で、ハンサムでお洒落でお金持ちだったら言うことないですけどね(笑)。 ── なるほど(笑)。大竹さんご自身は、これからどんな風に生きていきたいですか。 大竹 正直でありたいです。そして、何事も好奇心を持ってやっていきたいですね。いろいろな世代の、魅力的な人と出会っていけたらいいなって思います。とにかく、楽しく生きていきたいです。



終わり

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