見出し画像

無印良品の戦略~差別化×コスト優位は両立するか~

無印良品(株式会社良品計画)といえば、シンプルでユニークな商品を駅ナカや都市部のショッピングモール内の小型店で販売している印象だが、最近は店舗で取扱う商品の7割程度が500円以下の新業態「無印良品 500」を展開したり、地方郊外で大型店の出店を拡大するなど従来の戦略から転換しているようだ。

2022年9月からスタートした中期経営計画(2022年8月期~24年8月期)の内容から、「第二創業」と位置付けている戦略転換のねらいを読み解いてみたい。

2030年ビジョン

中期経営計画を読む

同社の中期経営計画でまず目に付くのが資料の体裁。

冒頭に「良品計画が目指す未来」としていくつかの写真が掲載されている他には、全編を通じて文字のみ。
フォントサイズ、カラー等による強調も一切されていないという徹底ぶり。

内容は「企業理念の再定義」にはじまり、企業理念の実現に向けた「経営方針」、より具体的な「2030年に実現したいこと」、それを実現するための施策とロジカルに展開されていて、マッキンゼー出身でユニクロ社外取締役の経歴を持つ堂前社長のこだわりが表現されたものとなっている。

当社グループは、第二創業にあたり、「人と自然とモノの望ましい関係と心豊かな人間社会」を考えた商品、サービス、店舗、活動を通じて「感じ良い暮らしと社会」の実現に貢献することを企業理念と定め、2つの使命を果たすべく事業展開を行なってまいります。

中期経営計画(2022年8月期~24年8月期)

https://www.ryohin-keikaku.jp/balance/pdf/210721_management_plan.pdf

戦略

100年後のより良い未来の実現に向け、自然や社会との調和を意識した崇高な経営理念を掲げ、その実現に向けた経営方針として、オーナーシップを持った社員を事業活動の主役とし、事業活動が公益に寄与することを目指す「公益人本主義経営」を実践するとある。

これは、戦略のレイヤーでいうと「企業パーパス」とそれを実現するための「企業構想」にあたる。
(戦略のレイヤーについては以下記事参照)

また、事業モデルを
「生活の基本を支える、最強で最良の商品群、サービス群を、全て提供する。品質と同時に、誰もが手に取りやすい適正な価格を実現する。開発生産に踏み込んだ原価低減に加え、戦略的に粗利率の低減に踏み込む。」と定義し「品質」と「低価格」を両立させつつ、生活を支えるすべての商品・サービスを提供するという、かなり難易度の高い目標を掲げている。

明示的に記載はないが、これは競争戦略における3つの基本戦略(※1)の内、「差別化戦略」「コストのリーダーシップ戦略」2つの両立を目指すものだと考えられる。


(※1) 競争戦略における3つの基本戦略

1 コストのリーダーシップ
2 差別化
3 集中

2 競争の基本戦略/競争の戦略/M.E.ポーター

全体像を把握するために図で整理してみた。

筆者作成

数値目標

中期経営計画の中では2024年8月期、2030年8月期それぞれの具体的な数値目標も記載されている。

中期経営計画(2022年8月期~24年8月期)
中期経営計画(2022年8月期~24年8月期)

こちらもグラフがなく、理解しづらいので自分で作成。
(文字だけの資料もエッジが効いてかっこいいが、
 数字は表やグラフで示してもらいたい。。。)

筆者作成
筆者作成

2030年の目標値は店舗数は2,500(現状の2.5倍)、月坪売上(一坪あたりの月商)182千円(現状の118%)であり、店舗数をハイペースで増加させつつ販売効率も増加させるというかなりチャレンジングな目標であることが分かる。

考察

ここまで中期経営計画の戦略と数値目標を確認してきたが、同社の戦略ストーリーに無理はないか考えてみたい。

これまでの無印良品は、生活雑貨を中心として、環境に配慮したシンプルかつ割安な商品で、自社のブランドを確立してきた。

「品揃え」と「付加価値」の2軸で、同社のポジショニングを他社と比較してみた結果が以下の図。

筆者作成

衣食住全般を扱いながら高い粗利率を確保しており、独自のポジショニングを確立している。

一方、今後、大量出店による「コスト優位」と、地域への土着化による「差別化」を進めていく戦略の核となるのが、「個店経営」(※2)の推進だ。


(※2)個店経営
原則として店舗ごとに仕入れ・販売を行う体制のこと


地域ごとの特色に合わせた店舗レイアウトや品揃え、地域の生産者とのつながりによるサプライチェーンの構築などによって、無印良品のファンを獲得し付加価値向上を図るというストーリーについては違和感はない。

しかし、それと同時に大型店の出店を拡大し、生活に必要な日用品をすべて提供するとともに、「経営計画から販売計画・生産計画・調達計画までをSKU単位で完全連動させ欠品も過剰も撲滅する。」ことはかなり難しいのではないかと思う。

コスト優位の確立および大量出店を実現するには、標準化された店舗形態で、本部による一括仕入れ、販促活動等を行うことが王道だからだ。

「差別化」と「コスト優位」の二兎を追う戦略を実践した結果、大量出店によりこれまで築いてきたブランド価値を毀損し、競合との価格競争に陥る可能性もあるのではないかと思う。

筆者作成

おわりに

今回は、無印良品の中期経営計画か同社の戦略転換について確認してみた。「差別化」と「コスト優位」の双方を実現することは非常に困難な道のりだが、崇高な経営理念と高い数値目標を掲げるチャレンジングな姿勢には無印良品らしさを感じる。
この戦略がうまくいくかどうかは継続してウォッチしていきたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?