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昼下がりの公園で私にちょっかいをだしてくる存在


ある梅雨の晴れた日に、珍しい梅雨晴れなのでせっかくの天候を無駄にしないために家の近所の公園にきた。その公園は高台にあって少しばかり、階段を登って息を切らせる必要がある。私は公園のベンチでスタンダールの「赤と黒」を読みながら、私の周りを徘徊する鳩を横目にちらちら見ていた。私の持ち合わせている少しばかり集中力を削いでくる鳩は大きい円を書いたり小さい円をかいたりしながら、私の様子をつぶさに監視している。斜め右の奥の方からは数人の男性が、仕事の問題について話している声が聞こえている。私は深く帽子を被っているので何人のどんな風貌の男性が、そこで話しているのかわからなかったが、私のイメージとしては2人の男性でミントブルーのチェックシャツに紺のチノパンを履いているとみた。さて、そろそろ気になってきたので視界を上げてみよう。私の目に映るのは自然のもたらす眼球を癒す植物と湿った土の茶色だけだった。姿が見えない、けれどどこかにいる。考えてみれば、誰がどんな話をしようが私の知ったことでは無いし、私には何の関係もないのに、どうして、目の前の本ではなく、他人の仕事話に集中してしまうのか。また、視界をあげる。男性のおでこが植物のおくから姿をちらちらとチラつかせていた。先ほどは鳩にちらちらと見られたが、今度は私が男性をちらちらと見る。男性はおでこをちらつかせている。なんてことない状況だ、読書に集中しなければいけない。せっかく植物が私を囲み癒してくれる場所に来たのに。読書に適した場所と時間のなかにいるのに。

でっぷりとして毛並みが荒っぽく、湿っている鳩が私に近づいてきた。少し視線をあげて、追い払うか見過ごすか考えていたら、近くに少しばかり体型のふくよかな30代の男性が携帯をいじりながらゆっくりと歩を踏んでいる。歩を踏みながらゆらゆらと少しずつ回転している。夕暮れ時の陽に照らされてゆらゆらと動く影のように、回転している。鳩も人間もぐるぐると動く。ゆるやかな回転は脱力とともに、意識を無意識へと移行させてくれる動作なのかもしれない。携帯をいじりながら体が無意識に動いている。

そして気づく。また、目の前の読書ではなく、何の関係もない存在に気を取られてしまう。

まいったなぁ、と心の中で思いながらこの文章を書いている。14時34分だった。

14時40分、またペンを持ってしまった。

どうも今日は頭に思うことが多い。

左側のミントブルーのチェックシャツを着た(実際に着ているかどうかはわからないが、私の頭の中では着ている)男性達の仕事話は白熱しているらしく、口から唾を垂らす勢いで話をしていた。

右側の回転男性については、仲間がやってきて
何かの話をしている。私の隣のベンチが空いているので座ればいいのにと思うが、座らずにゆらゆらと体を動かしながら話している。
私のベンチと隣のベンチは絶妙に距離が近いので、もしかしたら私の読書時間を邪魔しないように配慮しているのかもしれない。まぁ私は読書をしようという気持ちよりも、思っていることを書くために読書はしていないけれど。

14時56分、足に違和感がある。アリが私の足を山と見立てて登っているのを目撃した。左右の足にそれぞれアリが登山をしていた。急いで右手で払いのけたら、その隙に鳩が2匹近づいてきた。自然を享受できるのはありがたいことだが、アリにも鳩にも同時に好かれるのは寛大な私にも抵抗があった。アリが私の足を山と見立てて登山をするのを防ぐために、私は足を5センチばかり浮かしておく必要があるみたいだ。

残念なことに、私の読書における集中力を阻害してくる敵は四方八方からやってくる。

私の粗末な集中力じゃ男性にもアリにも鳩にも勝てない。

そんなことを考えていたら鳩が私の座っているベンチの端に乗ってきた。私は慌てて両手を上下に動かして追い払った。どうやら鳩は私のことを威嚇しているようだ。

やがて2匹の鳩は何かの合図があったのか勢いよく左右に別れて飛びだっていった。

あたりにはゆらゆらと揺れる男性達もいなくなり、鳩もいなくなり、私を阻害してくる存在は消え去った。

木々が揺れて歯が触れ合う音を聞いて、また書を開くとしよう。今は15時6分だ。




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