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2020年上半期、今良い音、新しい音


こんにちは。
Studio massマスタリングエンジニアの水野です。

最近はコロナによって数の減ったお仕事をしつつ専ら勉強と研究に勤しんでおり、
活動再開時に良い結果が残せそうな手応えがあります。
Qujakuのヨーロッパツアーも無しになって、来年だって出来るか分からないし、お仕事捗らせるしかないよね!というマインド。

もちろん現在もお仕事受け付けておりますので、
マスタリングやその他音の相談などいつでもお声をおかけくださいね。
コロナによる資金難でマスタリングが出来なくなってしまった、などのご相談も、是非お受けしたいです。
一緒に良い作品作りましょう。

今記事のテーマは新しい音について。
前にこんな事を呟いたりしてたのですが、


(後述しますが居ました)

今日はそんな、現実の音より現実的みたいなホログラフィックな音の作品を集めていきたいと思います。
(個人的には心の中でネオナチュラルと呼んでる)

!あくまでも自分が聞くジャンル内での個人的な感覚なので大目に見てね!

近年(2010年代中盤あたりから)の作品の作曲上の特徴と言えばリスナーの新しい聞き方を意識した音の要素の少なさ、1つ1つの音の強さ、タイトさ、ドライさ(近さ)、曲の短さなどが挙げられると思いますが、
2019年後半頃からそれらの作曲要素を更に際立たせる為の処理が行われているものが多くなってきた感覚がありました。
具体的には曇りの一切無く分離感が強く、クリアで抜けが良く情報量の多い音、コントロールされたダイナミクスによる強い躍動感、超高品質な録音環境やノイズ処理が一般的になった事による?圧倒的なS/N比感、音の引き感など。

感覚的にはBilly Eilishの台頭あたりから気配があったと思うのですが、
もう既にBad Guyの音像が遠く感じるくらい近くなってきてる気がします。

エンジニアリング的に見ても楽器の数や音数は少なく、1つ1つの情報量が多く濃く、タイトな方が曲全体として良い音だと思える結果に辿り着くのは早くなります。
電子音の方が制御し易いですが、近年では生楽器でも色々して電子楽器と同じように処理出来るようにする手法が広まっています。
ネット経由の音楽再生が一般的になり、再生システムが変わり、音楽の聞き方/聞きどころが変わり、それらに作曲、編集技術、編集機材が追いついた結果が今の音に繋がっているのではないかと思います。

キーワードはVR感、
作曲とエンジニアリングの一体化、
テクノロジーと音楽の相互感化など。
そう思い始めたら思い込みでそういう風に聞こえ始めちゃうみたいな先入観も伴ってるかもしれませんが、
どうぞお付き合いください。

1.Arca-kick i


6/26に配信、ダウンロード販売が開始されたばかりのアルバム。
正直コレを聞く前までだいぶ3D感ある音増えてきたな〜これからはこの感じか〜と思ってたのですが、
コレ聞いてまだ上回ってくるのか...!とぶったまげた。
曲も音も相まってまるで脳に直接音楽を流し込んでるような。
こんなのもうエンジニアリングと作曲の垣根なんて存在してなくて、
Arcaのやりたい事=エンジニアのする事レベルで連携が取れてなきゃ無理なのでは?
全部凄いけど特に分かりやすく3D感あるのは3.Mequetrefe, 8.KLK, 9.Rip the Slit 。

2.Tom Misch, Yussef Dayes - What Kinda Music


ドラムが鬼。比較的温かめで加工も強めな音なのに実在感が超強力。
3.Nightriderの0:29〜ベースの蠢きよ....!ウォォォォォ
7.Lift Off はロックのエッセンスが絶妙に詰まって居て最高。コレを全ての木造でビールっ腹のおっさんがワイン樽テーブルでガハハと笑ってるパブで流して欲しい。皆でイェーイってなりたい。

3.Floating Points - Crush



随分前にサカナクション山口さんが紹介していたArp3にやられて以来大ファンのFloating Points。
相変わらずタイトで美味しいビートに組み合わせるポリリズムがちなシーケンスシンセが最高なんですけども、
音が現代化した事によって没入感が倍増してる気がします。
ベースシンセのハイのざらつき、11.Apoptose,pt1などの細かいシーケンスフレーズの粒立ちと音の引き。
7.Bias、高揚感を最大限に味わうために是非最初からゆったり聞いて欲しい。


4.TYCHO - Simulcast



TYCHOは分かりやすく時代に寄ってきた例ではないかと思います。
彼らは基本的な楽器構成に殆ど変化が無いまま、2019年以前までのアルバムでは全てが心地よくリバーブの膜に覆われているような感触が強かったのですが、
2019年のアルバムEpochからはそれまでと比べるドラムがグっとドライにクリスピーな粒立ちが目立つようになり、空間表現はその他ギターやシンセサイザー、ボーカルに任せルような音像に変化。
広さ、膜の位置や構成の仕方が変化したようなイメージです。


5.Yaeji-WHAT WE DREW



今年4月に発売され、それまで何となくホログラフィックな音の傾向を感じていた自分の感覚に確信を持った1枚。
シンセ、歌、リズム、そんなに脳内に直接響かせてくる!?ってくらいセクション毎に明確に役割分担して耳に迫ってきます。
もはやグルーヴのあるASMR。
コレALL MUSIC見ても本人しかクレジットされてないのですが、マスタリングはHeba Kadry。
ミックスYaeji本人がやってるんだとしたら、狙ってやってるんじゃないかと思います。
音楽性、個性、技術的な進化が時代性とマッチして爆発してるような例。
顕著なのは4.WHEN I GROW UPのボーカル、2WHAT WE DREW中盤のシンセなど。


6.Dua Lipa-Future Nostalgia



どメジャーでもこんな音になってる案件。
音楽性的にはDaft Punk-Get Luckyなどの延長上にある、80's、90'sへの多大なリスペクトを感じるハウス、テクノポップなどを軸に、
新時代の音作りを施した感覚(なんかもっと詳しいバックグラウンド語れる方いらっしゃいましたらコメントください!)なのですが、
タイトル通り楽譜的には伝統的な音楽をやってるのに出音としてはもはや2025年みたいな感触になってる。
Random Access Memoriesといいアルバムタイトルがそのままやってる事の凄さを表してるのカッコ良すぎるでしょ。ズルい。
全部良いけどやっぱり2.Don't Start Nowのドラムと歌、
あとは9.Break My HeartのブレイクのキレからのハイハットとかHeart〜のあとのブレスの耳へのタッチ感が至高。


7.小袋成彬-piercing



冒頭で書いた日本人クリエイター人を中心に今の音を作ってる例。
もうアレンジ段階から音を削いで削いでとやってると思うのですが、
それをより際立たせてるミックスは小森雅仁さん。
マスタリングはBernie Grundman Mastering、山崎翼さん。
もう分かりやすすぎるくらい派手にタッチ感のある音で、最初から目指すべきゴールを全員で共有してた感を凄く感じる。
9.Down The Line 1:30あたりのベースソロとか、その後のカリカリしたハイハット的なものとか、
1. Night Outのスネアとか、
10. Tohji's trackのイントロ、曲の単調さと短さ、
6. In The Endのシンセ、キックとは別でずっと鳴ってる鼓動のような音とか最高。

記事のテーマ上音の話ばかりしてますが、
何より歌を中心として全てが圧倒的な情感、質感と真に迫るリアリティを纏っていて、聞いていてずっとグっと涙を堪えているような気持ちにさせられる。
その上で新しい音が鳴ってるから凄いと思います。
この作品を作り上げたチーム全員にリスペクトを捧げたいです。


番外編.Lucrecia Dalt-Congost


何故か配信では聞けない...日本では聞けない設定になってる?
1曲目のAraが一番分かりやすいんですけど。
気になった方は是非調べて聞いてみてください。

最後に2010年発売にも関わらず音数の少なさ、各音の生々しさなどからなんかちょうど今感が出ちゃってる例。
普遍的な音、と言うべきなんでしょうか。
個人的に好きすぎる音楽なので親バカみたいなものの可能性も否定出来ません。

帯域の被る音は絶対に同じ場所に置かないというポリシーを守った結果か曲によってはスネアが目一杯右にいたり、キックやベースが右にいたり。
結果超今な抜けのある音ではなくても各音の分離感が確保されてます。
音楽的にもバキバキな音出す音楽じゃないですしね。

音の処理的にもこの年代では当たり前だった思い切り潰した音では全くなく、
上記の曲ではキックのダイナミクスがとても気持ち良いです。
後半のシンセのツブツブ感も最高。
このミックスで今のマスタリングするだけでかなり今の音に近づきそう。

現在の技術がなくてもアレンジ面やアイディア、音感覚次第でここまで出来る、という例になるのでは。


終わりに

いかがでしたでしょうか。
かなり主観的な趣味嗜好を元にした傾向分析でただの音フェチが最近聞いた好きな曲みたいになっちゃったかもと思っておりますが、
同じように感じてた方、確かになと思った方が居たら嬉しいです。
他にもこのアルバムに似た傾向を感じるとか、
別の切り口からこういう傾向あるんじゃないかとかあったらめちゃくちゃ聞きたいので是非コメントください!

また、もしもマスタリングエンジニアを探している方が読んでくださっていれば、
こういう音が得意/好きなんだなと判断して頂いて構いません。
実際普段聞いてる曲や音がエンジニアリングのセンスに関わってくる部分は大きいと思います。
ご趣味の合う方は勇んでご依頼頂ければ幸いです!!!

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