怖いから腫れ物扱いしたんじゃない
なるべく大きなぶつかり合いは避けてきた。
現在中学2年生の娘、不安が強く、敏感で繊細な娘は、思春期真っ只中。
今のところ、私が恐れていた「荒れる思春期」というところにはまだ突入していないらしい。
振り返ると、ぴぃが小学校3年生の冬から4年生の夏頃までが一番荒れていた。
ぴぃが強迫性障害という病に侵され、強迫観念に囚われまくっていた時期。
病気が理解できず、どう対応していいかもわからなかった私に、「何もわかってくれない」と敵意を剥き出しにし、鋭い目つきで睨みつけるぴぃ。
わかってもらえない苛立ちと言葉にならない恐怖でパニックになり、泣きじゃくり、部屋中をぐちゃぐちゃにして暴れまわり、マンションの階段をかけ上げって行くぴぃを必死で追いかけたこともあった。
自分が汚れていると思い込むぴぃに、指一本触れることも許されず、抱きしめてやることもできなかった。
どうしたらぴぃに安心をあげられるのか、
どうしたら私たちは味方なんだとわかってもらえるのか、
どうしたら信頼を取り戻せるのか、
どうしたら抱きしめられるのか・・・
時間はかかったけど、なんとかぴぃの病気を理解し、まずはぴぃの気持ちを受け留めることで安心を与えようと努めてきた。
そのために、自分の中にあった「普通」とか「当たり前」とか、いわゆる一般的な感覚を全てを捨てる必要があった。
「こんなの怖くないよ」
「大丈夫、大丈夫」
「全然平気だよ」
「考えすぎ」
「みんなそうだよ」
「そんなことあるわけない」
こんな言葉たちを軽々しく並べようものなら、一瞬にしてぴぃは心を閉ざした。
ぴぃが「怖い」と言えば、怖いのだ。
「怖いんだよね」
「嫌だったよね」
「不安だよね」
「気持ち悪いよね」
「悲しいよね」
「疲れたよね」
そんな気持ちばっかり拾っていたら、いつしか、腫れ物に触るように接している自分に気づいた。
何か一つ間違うと、またあの頃のぴぃに戻ってしまう気がして怖かったのだ。
もうあんな思いはしたくない、もう敵だなんて思われたくないと必死だった。
ぴぃの言うことのほとんどを受け留め、共感し、肯定し、私は味方なんだと伝え続けた。
学校へ行けないことで、自分を責め続けているぴぃがいたからこそ、必要なことだと思い込んだ。
それが良かったのか悪かったのか、これまで、小さくぶつかることはあっても、大きくぶつかり合うことはほとんどなかった。
つい先日、
少し前にしたぴぃとの会話の内容を忘れて、また同じことを聞いた私にぴぃが激しく怒った時があった。
ぴぃ「もうやだ!!そういうとこだよ!!なんで同じことを何度も聞くの?!」
完全に忘れてしまっている私は、本当に思い出せなさすぎて、ぴぃがなぜそこまで怒っているか瞬時に理解できない。
そして「そういうとこだよ!」という言葉にとても引っかかってもいた。
ずっとずっと耐えてきたみたいな言い方・・・
「ママだって、ママだって、耐えてることいっぱいあるよ!!!」
とは言えない感情の揺れが反動のように発っせられた言葉は、
私「分かったよ!!もう聞かないよ!!」
これ以上ぶつかり合うことを避けるための言葉が、いつもより感情的だったことで気まずさが残った。
その後すぐに泣きながら部屋にこもってしまったぴぃ。
どうしよう・・・久しぶりにめちゃくちゃ怒ってたな・・・
大したことではなかったはずなんだけど・・・
何かすごく溜まってることがありそうだ・・・
どうにもならない思いで苦しんでるんだろうな・・・
結局は自分を責めて責めて・・・
めちゃくちゃ泣いて、頭をかきむしって、物にあたって・・・
怖い。
ぴぃが感情的になると、決まってあの頃の荒れたぴぃがフラッシュバックする。
しばらく経って、リビングにいる私に、自分の部屋にいるぴぃからLINEが届く。
さ
っ
き
は
ご
め
ん
な
さ
い
カラフルなひらがな絵文字が一文字ずつ送られてきた。
私も同じように、カラフルなひらがな絵文字で返す。
マ
マ
も
ご
め
ん
ね
(以降、同じやりとりで)
ぴぃ「いいすぎました」
私「いわせたのはママです」
ぴぃ「さいきんはパパもママもまえまでわらってはなしたことわすれててかなしかった」
私「わすれっぽくてごめん わすれられちゃうのはかなしいね」
ぴぃ「わすれちゃうのはしかたないけど それをどうはきだしていいかわからなかった」
私「ほんとだね わすれられちゃうんだもんね きょうみたいにはきだしてくれてせいかいかも」
ぴぃ「(涙の絵文字)」
私「わすれられちゃうの かなしいし はらたつもん ほんとごめんね」
ぴぃ「いやでも わすれるのはどうしようもないから」
私「ぴぃはやさしいね きをつけるね のうトレする」
ぴぃ「笑」
私「話してくれてありがとう」
ぴぃは怒ってるんじゃない、悲しかったんだ。
それがちゃんと伝わった。
こんなやりとりをしたのち、ぴぃの部屋へ行き、向き合って話をする。
私「縦文字は読みづらかったけど、ちゃんと伝わったよw」
ぴぃ「普通の文字で送ると暗くなるから、せめて気分が暗くなりすぎないようにと思ったから、この方法しかなかった。」
私「すごいテクニックだね。でも、ママも伝えやすかったし、確かに暗くなりすぎなかったね。」
・・・これが、これが、私が恐れた思春期の中2女子のなせる技かと思ったら、なんか感動した。
自分が悪かったと思う部分の非を認め、どうしてあの反応になってしまったのかという気持ちと、どうすれば明るい仲直りができるか、ちゃんと、冷静に、自分と対峙してるじゃないか・・・
そして、忘れてしまった私を責めない。
素直で、賢くて、かわいらしくて、優しいぴぃ。
ぶつかるのが怖いから腫れ物扱いしたんじゃない。
飲み込んできた思いと時間は、それぞれが「伝える力」と「受け留める力」を身につけるための鍛錬だったんだ。
そう思おう。
ぴぃの病院の先生には、病気に思春期が加わると大変なので覚悟するよう何度も言われてきた。
実はまだまだこれからなのかもしれないけど、ぴぃの心は紛れもなく成長していて、私の鍛錬も無駄じゃなかったはず。
これからは、怖がらず、信じて、
これからも、受け留めよう。
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