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第1章#01 アイデア、グツグツ!?「スープ会議」って、なあに? 

「きょうは、スープ会議に行ってくるね」・・・のどかな里山に暮らす「ののさん」は、夕方になると車を走らせて、スープタウンの準備室に向かいます。日中はデイサービスとして使われているスマイリングの施設の一部が開放され、ここに月に1回ぐらいのペースで、松平や下山エリアに暮らしている方や、介護福祉の新しい取り組みに興味のある方たちが集まってきます。いろんなアイデアをグツグツ、コトコト。「会議」というかたくるしい雰囲気はまるでなくて、ゆるっと、あたたかい雰囲気。奥の方にあるキッチンからは美味しそうな匂いも漂ってきます。これって夜だけ開かれるスープ屋さんかなにか?「スープ会議」の実態は気になりまくりだけど、本丸に切り込む前に、参加されている方にお話をきくところから、スタートしてみましょう。

お昼間はデイサービスとして使われているひろ~いお部屋。
利用者さんのリハビリマシンや太鼓セットなども置いてあります。
「はじめまして」「どのあたりにお住まいですか?」
隣り合わせた人と少しずつ、スープな関係をつくっていきます。

スープタウンの住人「ののさん」
――ぼくは、10年ぐらい前に名古屋から豊田市の松平地区に引っ越してきました。小さな集落に家族で住んでいるので毎日のように、ご近所さんに野菜や卵をもらったり、こちらが何か作ったらお裾分けしたり。都市にいたころに比べたら、水を得た魚のように、のびのびと暮らしています。ちょっと体調を壊していた時期があったのですが、ぼくがやりたいことは超ローカルなことで、里づくりに興味があったし、時間もあったので、「スープ会議」のチラシがまわってきたとき、ヒントがいっぱいありそうだなとおもって参加しました。そこから、ほぼほぼ皆勤賞です。僕自身、ガラ紡という、この地域に伝わる伝統工芸を次代に紡いでいきたいという思いがあったのですが、スープ会議でいろんな人からの刺激をいただいているなかで、ついに起業!まだまだスタート地点ですが、できたばかりのガラ紡の糸をスープ会議でお披露目させてもらったりして。すてきなご縁をいただいています。スープ会議のいいところのひとつは、雑談とかをうだうだ続けてもいいところ。答えをすぐ求めなくてもいいところ。タイパ(※1)は悪いかもしれないけど、逆に雑談をやるなかで見えてくるものがあると思うんですよね。
※1 タイムパフォーマンス、の略

参加者の人数にあわせてグループに分かれ、
自分のやってきたことや、やってみたいことを話し合います。

スープタウンの住人「りんこさん」
――わたしは、豊田駅の近くに暮らしているんですが、社協(社会福祉協議会)で地域包括支援の仕事をしていて、担当エリアが「下山地区」です。毎日、車でいろんな高齢者さんのおうちを回っています。で、前の担当者がスープ会議に参加していて、引継ぎみたいな感じでわけもわからず参加するようになりました。ホントは、人見知りなんです。たくさんの人がいるところは苦手だけど、「スープ会議」にはいろんな人がいらして、次から次に、新しい人と出会えるのが面白い。はじめに大きな名札をもらって、そこにニックネームや、自分がやってみたいことなどを書いて自己紹介します。毎回、いろんなテーマで話し合うんですけど、正解がないところもいいなって。聞いているだけでも、ほっこり楽しいから。いつの間にか常連化している感じです。また、分科会の「調の会」にも参加してるんですが、そこではライフログといって、LINEのオープンチャットをつかって、この地域のちょっとした季節の変化などをみんなでログ(記録)する活動をしています。仕事中でもちょっと息抜きに、写真をアップしてみたり。みんなの投稿をみたりして。ゆるやかにつながってる感じが楽しいです。

スープ会議のスタートは自己紹介から(ひと見知りでもなんとかなります)
どんな人が、どんな思いをもって参加しているのかを知るチャンス。

スープタウンの住人「アゾーダクン」
――「農業」を学んでいる高校生です。親から「頭が悪くてもいいから、挨拶だけはしなさい」と育てられまして、いろんな大人と挨拶をしているうちに松平交流館の方やボランティアさんと仲良くなったりして、「スープ会議」に誘われました。はじめは「スープってなんだろう?」と思っていたけど、説明を聞いているうちに「ああ、確かにそうだな」と思うことが多くて。自分自身がいろんな人と出会ってきたこともひとつのスープなのかな?と思うようになりました。参加するたびに、教科書では学べない発見がたくさんあります。

スープタウンの住人「まさやさん」
――うちの父親がスマイリングの介護施設(下山のデイサービスとリハニティ)に週4ぐらいでお世話になっているんです。だから、介護士さんともよく話しますし、デイサービスでのケアの様子もわかっていたので、スマイリングがどんな新しいことをはじめるのか興味があって参加しました。いろんなことに長けている人が集まってきそうだなと。実際に参加してみると、人を大事にしながら、自分の大事にしたいものを持っておられる方が集まっているなと感じます。司会をしてくれる方や、リードしてくれる方がいい空気をつくってくれて、私のような年代のものが参加しても邪魔にはされない。いっしょにいてもいいんだよ~という感じで、安心しながら話していられます。こういう方たちが地域の未来をつくっていくんだな~っと。みんなでアイデアを考えた花見の会や、DJが音楽をかける中で流しそうめんを10種類のスープで食べるDISCO SOUPなどに参加させてもらいましたが、すごく楽しかったですよ。

(スープタウンの)敷地に昔からある桜の下、
高齢者から子どもまで、みんなで一緒に楽しみました。
流しそうめんの様子。地域にあるお寺が会場!

「スープ会議」に参加すると、受付でA5サイズぐらいの大きな「名札」をもらいます。よく見ると、イラストが寸胴鍋のかたちになっていて、そこに、Who?=「呼んでほしい名前」や、What do you do?=「職業・肩書き やっていること」、What is your コトコト or グツグツ?=「コトコトしていること アツアツなこと」を書きこめるような仕様に。コトコトというのは自分のなかで少しずつ温めている何か、やってみたいこと。「アツアツ」は自分がいま夢中になっていること、一生懸命に取り組んでいること」。この名札をおなじテーブルになった周りの人と見せ合いっこしながら、自己紹介をしていきます。仕事場で交わす、一般的な名刺交換ではなくて、はじめて出会った人とも社会的な肩書きをとっぱらって、「スープな関係」をつくっていくための仕掛けのひとつ、のようです。

A5サイズのでっかい名札。寸胴鍋をモチーフにしたイラストです。
これを首からぶらさげて、まわりの人とご挨拶。なにげに「紐」までおしゃれ。

ののさん
――はじめて参加した時に、あの大きな名札のウラ面に書いてあった「スープ会議のこころえ」を読んで、感動したんですよ。たしか、「ひとりは楽だけど、みんなでやると楽しい」とか、「煮詰まりそうになったら、外をふらふら」とか「アツアツのときは、フーフーも大切」とか・・・いろいろ10か条ぐらいあるんです。ぼくは、いつも、グツグツ熱くなってヤケドしてばかりww あ~普段の仕事でも、こんな感じでとりくんだらいいんだな、という風に思えるところがあって、しっくりきたんです。

でっかい名札のウラ面には「SOUP会議のこころえ」が12条。
下部は出席カード。参加した日はスープシールを貼ります。

「スープ会議のこころえ」(抜粋)
🥄アイデアはお持ち帰りOK!
🥄ひとりは楽だけど、みんなでやると楽しい。
🥄隣のスープは旨そうにみえても、焦るな。かならず自分の味があるから。
🥄好き嫌いがあってもいい、スープだもの。
🥄何もしないで、鍋に任せる。
🥄アツアツのときは、フーフーも大切。

などなど  (フルバージョンは、ぜひ参加して現物をチェックしてね)

い、いきなり、「アイデアはお持ち帰りOK!」だなんて太っ腹。「焦るな。かならず自分の味があるから」というのも納得です。仕事場でよくある「会議」って、新しいアイデアをひたすら求められるし、激論を交わすこともあるし、なにかしらの答えを急ぐことが多いけど。こうやって、さまざまな考えをもった人が、ひとつのスープ鍋に飛び込んで、アツアツ、フーフーしながら話し合いを続けていくのって楽しそう。「すぐに答えを求めなくてもいい」「正解はないし、聞いているだけでも楽しい」「年齢が高くても邪魔にされない、居てもいいんだなと思える」というお話が自然に出てくのは、やさしい未来に向かっていきたいという大きな目標のもと、参加する方みなさんが自主的にその場をあたたかい場にしようと、心がけているからなんですね。

スープな具材カード。好きな絵柄を選んではさみでチョキチョキ。
「どんなまちにしたいかな?」などアイデアを裏面に書いて、スープカップにぽいっ。
テーブルにかわいいランチョンマットやスープカップが並びます。
(写真は2021年7月20日、記念すべき第一回目のセッティング)

テーブルの上には、さまざまなスープのイラストが描かれた紙製のランチョンマットや、おもちゃのスープカップ、パンやスープの具材が印刷されたカードや、「本日のメニュー」と書かれたプログラムが用意されています。カラフルで可愛い!! 今日はどんなテーマで話し合うんだろう・・・席に着くだけで、「スープ会議」の世界感に引き込まれていいきます。

「スープ会議」がはじまる、定時の6時半になりました。「はじめまして」「ご無沙汰です」「久しぶりにきてみました」「あれ・・・背が高くなった?」・・・出会いや再会をくりかえして、だんだん顔なじみが増えていきます。ちょっと派手な柄の服を着ているPOTさんが登場して、司会進行をしてくださいます。テーマによって、世界各地のさまざまな未来づくりの取り組みを紹介してくださることも。話していくうちにスープ会議の本題に関係なく、「そういえば、こんなことがあってね・・・」とちょっとした困りごとやハプニングを話すと、ほかの誰かが経験談を話してくれたり、思わぬたのしげな解決策を提案してくれることも。スープ会議は、誰に強制されるものでもありません。自分で選んでいくんだから、楽しくなくちゃ続かない。それぞれに抱えている仕事や家庭の用事などを済ませて、スープタウンでどんな活動ができるかなどをあれこれ考える、あっという間でとってもスープな2時間、なのです。

「わあ~豊田市内にこんなユニークな人たちが暮らしていたの??」
「どうして今まで出会わなかったのかしら?」
さあ、ここからスープなご縁がはじまります。

「どなたでも参加OKですよ、いつでも連絡くださいね」・・・ショッキングピンクのパンツのPOTさんがにこやかに話しかけてくれました。よし、チャンスです。次回は、進行役のPOTさんに「スープ会議」のことをもっと、深く聞いちゃいましょう。

つづく

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