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小澤征爾さんの思い出④ 東京での最後の公演となったオペラシティ

さらに過去書いたものの再掲です。
私にとっても小澤征爾さんの指揮する正式なコンサートを聴いたのは、この一連の水戸室内管弦楽団のコンサートがラストとなりました。公式に観客を入れたものとしても、これが最後になってしまったものと思います。
そのコンサートの興奮を書いた記事を再掲します。

(以下再掲)
2019年5月24日
音楽会と言う名の歴史的瞬間を見たのかもしれない

私は小澤征爾さんの熱狂的なファンとして、長いこと彼の演奏を追いかけてきました。
初めて生の演奏に接したのが忘れもしない1995年1月。
それ以来かれこれ24年になります。

これまで小澤征爾さんの人生に残るであろういくつかの重要な演奏会を
本当に幸せなことにいくつも共有させていただきました。

昨日その集大成とも言える演奏会が、東京オペラシティで開かれました。
別府アルゲリッチ音楽祭のプログラムとして、水戸室内管弦楽団、そして世界最高峰のピアニスト、マルタ・アルゲリッチのピアノで、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番が演奏され、全楽章を小澤征爾さんが指揮をしました。30分のしっかりとした曲を全曲指揮したのは、数年ぶりです。

前半は指揮者なしで水戸室内管弦楽団の驚異とも言うべき名手の技が光る2曲。
ハイドンの交響曲第6番、そしてウェーベルンの弦楽のための5つの断章。
水戸室内管弦楽団は指揮者のいない時に、メンバーがそれぞれ聴き合って弾いている感じが本当に好きです。

その前半の興奮冷めやらぬ中、上皇上皇后ご夫妻が2階席にお越しになり、
会場はさらに熱気に包まれました。
その後、いつも通り楽団員に混じってアルゲリッチに支えられるようにして小澤さんが登場。
会場は上皇ご夫妻をお迎えする時よりもさらに大きな拍手で、そしてほとんど総立ちで迎えます。曲が始まる前に総立ちとなるコンサートは今まで初めてのことでした。

ここ数年座っていた簡易的な椅子ではなく、今回はフカフカのクッションを敷いた椅子に腰をかけ、一段と痩せて指が細くなってしまった小澤さんが、おもむろに腕を小さく振り降ろすと、水戸室内管弦楽団が名手の集団から、名楽団へと生まれ変わります。そこに入ってくるアルゲリッチのピアノのなんという美しさ。音の球がそのまま転がりだしてこちらに向かってくるような、そんな音との競演です。
一音も聞き漏らしたくない思いから、変に気が急いていて、音楽が思ったよりも早く進んでいる感じすら受けました。この時間をしっかりと楽しみたいという思いが強くなりすぎて、音楽に集中できない自分がいました。興奮しすぎてちょっと失敗です。

上皇ご夫妻は意外と近くにお座りだったので、たまに様子を伺っていると、
2楽章のあたりで上皇様がうとうととされ始めました。あれだけ美しくて全く角のない音楽を聞けば、妙な緊張をなさる必要のない陛下がうとうとするのは至極当然です。
時々美智子さまが膝にそっと手をやって起こしているのですが、なかなか起きず、微笑ましい光景が続きました。

いや、そこじゃない!
小澤征爾さんとアルゲリッチが、とんでもない競演を続けています。
なにやら機にするものが多すぎて、さらに緊張も相まっておかしな気分になっていたようです。

あっという間の30分。
どうしてもここだけは指揮を見たいと集中していた3楽章のハンガリー風のメロディのところ、かつての映像にルドルフ・ゼルキンとのやりとりが残されていますが、腕の動きは5分の1ですが、その想いは今も変わっていないような演奏でした。
最後の音が響くと一気に観客が総立ちとなり、上皇ご夫妻も立ち上がっての大スタンディングオベーションとなりました。興奮で涙ぐむ観客もちらほら。それでも、立ち上がって観客に答える小澤さんの背中が大きく曲がってしまって、なんとも言えず痛々しさも垣間見てしまい、無理をして欲しくないと言う気持ちが強くなります。

アンコールに応えて、アルゲリッチが弾いたのは続けて2曲。
シューマンの子供の情景から見知らぬ国の人々、そしてバッハのイギリス組曲からガボット。どちらもこれまた神の演奏。聞き惚れてしまいました。

さらにスタンディングオベーションがつづき、
上皇ご夫妻がホールを後にするところと重なって、拍手はステージなのか客席なのかどちらにしたらいいのかわからない混乱の極み。
陛下は最後までいらっしゃるつもりなので、きちんとステージの拍手を終わらせてから、ご退出していただく段取りにすればよかったと思うが・・・

そんなこんなで手がおかしくなるほどの拍手を重ねて終演。
いったい何に感動したのか、何を味わったのか、わからないくらい盛り沢山な音楽会。ご退位されて初めてのコンサート鑑賞だったと言うニュースがいち早く流れていましたが、今回の音楽会はそこじゃない!
ご夫妻もいらっしゃったことで楽団、小澤さん、アルゲリッチ、観客すべてが、最高の場で音楽を楽しむのだというマインドが完全に一つになった結果、あのなにかを超越した音楽と場が生まれたんだと思います。
きっと中にいた人はみんな同じことを味わったはず。

そんな音楽会、なにかの歴史の1ページに記載されるものではないかもしれないけれど、そこにいた人たちにとって歴史的瞬間であったことは、疑いようがないことと感じました。そんな場を多くの人たちと共有できたこと、それがなによりだったと思い余韻に浸っています

水戸室内管弦楽団は、水戸芸術館のコンサートホールでさらに輝きを増します。26、28と水戸でのコンサートが予定されています。
今度は純粋な音楽の感動を味わいに水戸まで行ってきます。
(その後)小澤征爾さんがこのコンサートの疲労が回復せず、本当に残念ながら26日はキャンセルとなりました。
それでも小澤さんの作った音楽をあのメンバーは必ず再現、もしくは昇華してくれるはずです。そして指揮者なしでのさらなるアルゲリッチとの闘い、
本当に楽しみです。

(以上再掲)

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