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75. 危険な胸痛とは?

ミュージカル好き救急医の独白 vol.75
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

危険な頭痛, 危険な腰痛は今まで取り上げました. まだ読んでいない方は是非読んでみて下さい. 今回は胸痛に関してです.
みなさんの中で胸が痛くなった事がある方はいるでしょうか?もしかしたら, 胸が痛くなり受診し, 狭心症や心筋梗塞であった経験がある方がいるかもしれません.
救急外来には, 毎日の様に胸痛を主訴に多くの患者さんが受診します. その全て心臓由来の痛みという訳ではありませんが, 常に意識して対応しなければならないのは事実です. 特に高齢者では危険な胸痛疾患が複数存在するため要注意なのです. 今回は, そんな恐い胸痛ですが, その中でも特に恐い胸痛疾患にはどのようなものが存在するのかを頭にいれておきましょう.

今回のミュージカル

デスノート
デスノートをマンガで読んだことがある人は多いでしょう. ミュージカル化されているのはご存じでしょうか?腕時計のデスノートモデルが発売され, 例のノートの切れ端を忍ばせることができる仕掛けがついているものが発売されたという記事をみて, 何に使うのだと思いながらも, また鹿賀丈史さんの夜神総一郎を観たいと思った今日この頃…

デスノートには以下の様な記載がある.
・このノートに名前を書かれた人間は死ぬ.
・書く物の顔が頭に入っていないと効果はない. ゆえに同姓同名の人物に一遍に効果は得られない.
・名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くと, その通りになる.
・死因を書かなければ全てが心臓麻痺となる.
・死因を書くと更に6分40秒, 詳しい死の状況を記載する時間が与えられる.
・〜

心臓麻痺という言葉は実際の現場では使用しませんが, これは心筋梗塞などの際に認められる致死的な不整脈, 要は心臓が突然機能しなくなる(麻痺してしまう) 状態を指しているのでしょう. 今日はこの辺りのお話を.

救急外来あるある

74歳男性(ASさん)が, 自宅で食事中に胸の痛みを自覚し救急外来を受診しました. 奥さんに連れられ, 歩行はなんとかできますが冷や汗をかき辛そうです.

Dr.S:「今日はどうされたのですか?」
Pt.AS:「胸が苦しくなって.」
Dr.S:「今は大丈夫ですか?」
Pt.AS:「家にいるときよりかはいくらか.」
Dr.S:「何をしているときに痛くなったのですか?」
Pt.AS:「食事食べてて, TVのチャンネル替えようかと思ったら急に痛くなって…」
Dr.S:「なるほど. このような痛みは初めてですか?」
Pt.AS:「そうだね. いまもなんか変な感じだよ…」


恐い胸痛とは?

救急外来では, 胸が痛い, 胸が苦しい患者さんが来院したら10分以内に心電図をとることが推奨されています. これは心筋梗塞に代表される心臓の病気をより早くピックアップするためです.
心筋梗塞や狭心症は聞いたことがあると思いますが, それ以外に恐い胸痛の原因にはどのようなものがあるのでしょうか?以下の5つが, 5 chest killer painとして救急本にはよく載っています. 1つ1つの病気はどこかでいずれ取り上げますが, これらはどれも迅速に対応しなければ命を落としかねない重篤な病気であり, その多くが胸の痛みを訴えます.

①急性冠症候群(心筋梗塞や狭心症のことです)
②急性大動脈解離(大事な大動脈が裂けてしまう病気です)
③肺血栓塞栓症(昔, エコノミークラス症候群と呼ばれていたアレです)
④緊張性気胸(気胸といって肺が破けてしまい, その影響でショックとなります)
⑤食道破裂(稀ですが, 救急外来では頭の片隅にれています)

その他, 肺炎も頻度が高いですが, 多くの場合には息苦しさを伴うことが多く, 発症の仕方も突然というよりは, 数時間〜数日の経過で症状が悪化し自覚するため, 上の5つとは異なるのが一般的です.

冷や汗は危険なサイン

「冷や汗をかいている患者をみたら焦りなさい」というのが救急外来での鉄則です. 冷や汗は心筋梗塞や低血糖など急を要する疾患の危険なサインであるため, 患者さんの肌を触りじとっとしている場合には, マズいと認識し迅速に対応します.
みなさんも痛みや調子が悪いなど状態が悪いときに冷や汗かきますよね? 胸痛に関わらず, なんらかの痛みを認めた際に冷や汗を伴う場合には, 無理せず受診した方がよいですよ.



♪もしもあの子が キラだとしたら
 貫けるのか 正義を
 あの子の嘘が この胸を打ち抜いたら♬

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