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60.危険な腰痛とは?

ミュージカル好き救急医の独白 vol.60
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

腰痛持ちの人は多いですよね. 私も学生時代, 椎間板ヘルニアに苦しめられ, いまでも痛みで動けなくなることもあります. 救急外来へも毎日の様に腰痛患者は来院し, その多くが軽症であることが多いですが, 危険な腰痛のサインとはどのようなものでしょうか?以前の「㊸危険な頭痛とは?」と共に頭に入れておきましょう.

今回のミュージカル

レ・ミゼラブル
バルジャンがマリウスを担ぎ下水道を歩くシーンがあります. ライトが切り替わり, その都度, マリウスを肩に担ぐ, おんぶする, 両手を持って引きずるなど, バルジャンの姿勢が変わる演出が施されています. 鹿賀丈史さん, 滝田栄さんがバルジャンを演じていた時代, 普段ならば担ぐ所をマリウスの両手を持ち引きずる時間が長いことがありました. おそらくバルジャンも腰が痛くなって辛かったのだと思います(知りませんが). ってことで腰痛のお話.

救急外来あるある

3月のとある日, 75歳の男性(AEさん)が, 腰痛を主訴に救急外来を受診しました.

Dr.S:「今日はどうされたのですか?」
Pt.AE:「最近腰が痛くてね. まいっちゃうよ, 年のせいかね. 」
Dr.S:「いつから痛いのですか?」
Pt.AE:「1,2ヶ月前からかな. 年末頃からなんだか痛くてさ.」
Dr.S:「寝ている時は痛くないですか.」
Pt.AE:「動いた時の方が痛いけど, 寝ている時も痛いね.」
Dr.S:「なるほど…」


腰痛の原因は?

高齢者では腰痛はありふれた主訴であり, 65歳以上の高齢者のうち30%程度が腰痛を主訴に病院を受診すると言われています.
脊椎圧迫骨折, 椎間板ヘルニア, 脊柱管狭窄症, 脊椎すべり症などの脊椎・脊髄の病変が主であり, 鎮痛薬などで様子をみることが多いですが, 癌の転移や大動脈解離, 膵炎, 十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍なんてこともあります. 帯状疱疹も背中にできると以外と気付かないものです.

危険な腰痛のサインとは

いくつかのポイントがありますが, まずは以下の5点を頭に入れておきましょう.
①突然はじまった腰痛
例えば, 尻餅をついた後から腰が痛いとなれば, 圧迫骨折が最も考えやすいでしょう. それに対して, 転んでもいないのに突然背中が痛くなった場合には危険です. 大動脈解離などの血管病変を考えなければならず危険なサインです. 頭痛のときもそうでしたね.
②痛みが増悪する腰痛
痛みが増す場合には病状の進行を示唆するため, これも危険なサインです. 痛み止めなどで対応するのではなく, 一度は病院を受診した方がよいでしょう.
③発熱を伴う腰痛
感染が原因となって腰痛が生じることがあります. 痛みとともに発熱を認める場合には要注意です.
腰痛のために腰に注射をしている場合には特に注意が必要です.
④安静時でも認める腰痛
骨や筋肉が原因で腰痛を認めている場合には, 安静の状態では痛みは軽減ないし消失します. 横になるなど安静にしているにも関わらず, 痛みが改善しない場合には要注意です.
⑤体重減少を伴う腰痛
全身状態が悪く, 食事を美味しく食べられない状態の腰痛も要注意です. 前立腺癌など悪性腫瘍(癌)の骨転移を考えなければなりません. 特に癌の指摘を受けている場合には気をつけましょう.
⑥尿を出しづらい腰痛
尿を失禁してしまう, 出したい尿をうまく出せない, そのような場合には馬尾症候群といって注意が必要な状態です. 腰が痛いだけでなく, 排尿のトラブルがある場合には注意と覚えておきましょう.

腰痛は年齢と共に認めやすくなります. 突然, 増悪, 発熱, 安静時痛, 体重減少, 排尿の問題がある場合には病院を受診した方が良い状態と考えられるため, あまり無理せず病院を受診しましょう. 逆にこれらに該当しない場合には, あまり心配しなくてもよいでしょう.


♪この世は生き地獄さ 共食い 殺しあいだ
 神様みて みないふり 死んだら こいつと同じ
 天国見上げても 丸い月が 見下ろすだけ♬

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