見出し画像

114. 破傷風を予防するためには?

ミュージカル好き救急医の独白 vol.114
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

今回も破傷風(はしょうふう)のお話. 映画『震える舌』は観ましたか?
破傷風は発症してしまうと死亡率10%という怖ろしい病気ですが, ワクチンでほぼ100%予防可能な病気でもあります. 救急外来では, 破傷風の患者さんは年間1例診るか診ないかですが, 破傷風の予防をする患者さんは毎日の様に来院します. 今日は破傷風の予防のお話を.

救急外来あるある

74歳女性(CEさん)が, 農作業中に誤って, 鎌で足を切ってしまい救急外来を受診しました.

Dr.S:「今日はどうされたのですか?」
Pt.CE:「足切っちゃってね. すいません, こんなことで.」
Dr.S:「いえいえ. あ, ここですね. 血は止まっていますね.」
Pt.CE:「大丈夫ですよね?」
Dr.S:「傷自体はそれほど深くはなさそうですね. ちなみに最近, 破傷風のワクチンは打った記憶はありますか?」
Pt.CE:「破傷風?いえ, ないです.」

破傷風を予防するためには

破傷風のワクチンは四種混合(DPT-IPV)ワクチン, 三種混合(DPT)ワクチン(Diphtheria, Pertussis, Tetanus)など, 現在は基本的には皆が打っています. しかし, このワクチンが開始となったのは1968年から, そして1975年2月から1981年3月は接種が一時中止されていたという歴史があります. 2020年現在, 52歳以上, または39〜45歳の方は打っていない可能性があります. ワクチンを接種したのか, いつ接種したのかは普通は覚えていませんよね. 一度確認してみてください. 私は現在40歳ですが...接種していました.
しかし, 接種していたからといって安心してはいけません. 小学校高学年を最後に, 接種していないことがほとんどだと思いますが, このワクチンがいつまでも有効かというとそんなことはありません. え?ってことはCEさんの様に高齢者の方はもちろん, 私自身がケガをした場合にも, なにか処置が必要なの?

効果は10年

ワクチンの効果は絶大です. きちんと打っていれば破傷風は100%防げるのです. しかし, ワクチンによって基礎免疫がついていたとしても(現在のワクチンを子どもの頃にきちんとうっていたとしても), 10年間は予防可能で, それ以降は免疫を維持するためには10年毎に追加接種が必要なのです(追加免疫).
必ずしも全ての人が10年毎に接種する必要はないと思いますが, 救急外来などへ怪我を認め来院する患者さんに対しては, そこからの感染のリスクを考え, 原則として最終の接種から10年以上(傷の程度によっては5年のことも)経過していれば, 破傷風トキソイドを打つようにしています. その他, 実際にはいろいろと考えることもあるのですが, みなさんが怪我をして救急外来を受診し, 「破傷風の予防をしておきましょう」と言われたら, 今回の傷から破傷風になる可能性が低かったとしても, 今後同じように怪我をして破傷風のリスクを抱えることはあるかもしれませんから, これを機会にきちんと予防しておこうと考え, 接種していくことをお勧めします. いままでに一度も接種を受けたことがない場合には, その場で1回, それ以降2回の接種(初回から4週間前後と6〜12ヶ月後)が必要になりますが, きちんと接種すればほぼ100%予防できるのでお付き合い下さい.

この記事が参加している募集

#習慣にしていること

130,825件

ミュージカル好き救急医から, 知っているとチョコッと役立つ知識を少しずつお届けします. ぜひ!