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72. 痛みで目が覚めたら要注意!

ミュージカル好き救急医の独白 vol.72
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

みなさん何らかの痛みを自覚したことはあると思います. 頭痛, 胸痛, 腹痛を認め病院を受診したことがある方もいるでしょう. 常に膝や腰, 肩が痛い方もいるかもしれません. 頭痛, 腰痛に関しては, これまでに危険なサインにはどのようなものがあるかまとめてあるので読んで見て下さい(Cf. ㊸危険な頭痛とは?, 60.危険な腰痛とは?).
今回は, どのような痛みであっても, 寝ている時に目が覚めてしまう程の痛みであった場合には注意しましょうというお話. そんな経験あった方いますか?

今回のミュージカル話

ミュージカルが好きだと話すと, しばしば受ける質問, それが「なんでミュージカルって突然歌い出すの?」です. おそらくミュージカル好きの方は一度は友人などに聞かれたことがあるのではないでしょうか. ミュージカルのタイプによって, 全編歌のものもあれば, 台詞が多く含まれるものもありますが, 素晴らしいミュージカルは違和感なく台詞から歌へと繋がっているように感じます. 私はどちらかというと歌満載の舞台が好きではあります.
私の好きなミュージカルtop3は①ジキルとハイド, ②エリザベート, ③デスノートですからねぇ(どうでもいいですね). ノートルダムの鐘やアラジンもいいですね. 1789もミス・サイゴンもダンスオブヴァンパイアも…
突然歌い出したっていいじゃない, 素晴らしいのだから. ってことで今日は”突然”がポイントです.

救急外来あるある

71歳男性(APさん)が就寝中の23時に胸痛を自覚し救急搬送となりました. 来院時には痛みのピークは過ぎていましたが, 冷や汗をかいていたようです.

Dr.S:「今日はどうされたのですか?」
Pt.AP:「胸が痛くて. 」
Dr.S:「遅い時間ですが, 寝ている時に自覚したのですか?」
Pt.AP:「はい. 22時過ぎには寝ましたが, なんか胸苦しくて起きてしまいました.」
Dr.S:「トイレに行こうと思った際に自覚したのではなくて, 痛みで目が覚めたのですね?」
Pt.AP:「そうです. 」
Dr.S:「なるほど…」

突然発症は危険

痛みを訴える患者さんを診察する際には, その痛みがどのような痛みなのかを詳しく確認します. いつどのように始まったのか, 痛みは強くなっているのか, 症状を増悪または緩和させる行動はあるか, その痛み以外に伴う症状はあるのか, 前にも同様の症状を認めたことがあるかなどなど, いろいろと確認するべきことがあるのですが, この中で, 救急外来で特に意識して聴取しているのが発症様式です.
みなさんも痛みを自覚することはあると思いますが, 安静にしていて突然ドンと痛みを感じることは通常ありませんよね. 重い物を持ち上げたときに腰の痛みを自覚した, 滑って転んで手足や腰の痛み, 頭痛が生じたということはあるかもしれませんが, そうでもない限り突然痛みが生じることはなかなかありません.
例えば以前に取り上げた頭痛では, なんとなく朝から頭痛を認め, それが徐々に増悪ないし寛解していくことが多いでしょう. それに対して, ある瞬間からドンと痛くなったのであれば, その頭痛はクモ膜下出血等の危険な頭痛のサインでしたね. 血管などが破ける, 捻れる, 避ける等する際に突然の痛みを自覚しますので, マズい状態な訳です.

突然発症を見抜く問診

救急外来で発症様式を確認する際には, 「痛みは急に始まったのですか?」や「痛みは突然始まったのですか?」とは聞きません. このように聞くと, 痛みで苦しんでいる患者さんは, 「はい, 急に始まりました. 」, 「突然です」とそのまま返答があることが多く, 重要である突然か否かは適切に判断できないのです. そのため, 以下の様に問診します.
「痛みが出たときには何をしていたのですか?」
このように聞いて, 頭に痛みが生じた際の情景が浮かぶような, 再現ドラマが再生される場合には突然発症と判断します.
「城田トートが闇が広がるを歌っているときに」, 「中川ヴォルフガングがコロレド大司教とやりあっているときに」などは間違いなく突然発症です. あ, わかりづらい方のために通常ver.だと, 「出かけようと思い靴紐を結んでいるときに」, 「夕食を作っていて, 食材を冷蔵庫から取り出したときに」などです.

APさんの様に入眠中に痛みを生じるというのは, 痛みの観点からもそれ程強い痛みであることが予想されるためマズいサイン, そして発症様式から突然発症が示唆されるため, Wで危険なサインを持ち合わせているということになります. APさんは大動脈解離という急を要する病気でした.

痛みが治まったとしても, 安静時に突然痛みが生じた場合には要注意と覚えておきましょう.

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