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専門家の研究協力者(防音設計の場合)

私が独立開業した頃、大学(建築学科)の先輩から次のように指摘されました。「建築業界は普通の建築設計を行う建築士など専門家は沢山居て、飽和状態だけど、住宅や音楽室の防音設計の専門家は非常に少ない。なので、自分で道を切り拓いていかなければならないという難しさがあるよね。」
「だから、貴方は良いところに目をつけたね。」

先日も電話で大学の恩師に「今の世の中、隙間産業のような特殊な仕事が丁度いいんだよ。他の人と同じことやったって、仕事は来ない・笑。」と、笑いながら言われたのですが、自分の仕事は採算性の厳しい、まさに隙間のような仕事だなと。自営業だから、現在の見積水準で提案書・担当作業の経費を設定できるのですが、これが大手業者なら無理です。

ただし、弱点もあります。それは個人だから研究協力者が身近に居ないので、取引先メーカー各社および提携先建築会社、契約者へのヒアリングが凄く重要になります。自前の実験室・モデルルームを持っていないので、取引先の防音材などの試験データを特別に提供していただくようにお願いをしながら、自分が検証した成果を担当者に情報提供するという地道なやり取りが必要でした。他の専門家が短期間で検証できる内容も、私の場合は地道に積み重ねて行くしかなかったんです。

それがようやく、5年前くらいから花開いてきました。やっとこの歳になって検証できた事もあるんです。研究協力者というのは、どんな分野でも不可欠であることを痛感してきました。

木造・木材の相乗効果は検証するのが難しい

木造の防音設計そのものがマニュアルとして存在していないこと、東京での地元及び近傍での依頼が少ないため事例検証するのが時間がかかるため、なかなか仕様書・工法として確立することが難しかったです。

他の専門業者には「木造や木材が防音室に有効だなんて、あり得ない」と言われ、それを真に受けた依頼者から契約を断られたこともありました。
研究協力者が提携先に居れば、一緒に事例研究や情報収集などを手分けしてやれるのですが、私には同業者の協力者は居なかった。むしろ、私の邪魔をするだけの存在でした。

そのような状況で、私のモチベを維持できたのは依頼者からの体験報告でした。生の声を聞くことで相乗効果を検証することが出来たのです。
いくつかの依頼者の声を、以下に簡単にご紹介します。※他の投稿記事と一部重複します。

ピアノ配置がギリギリだった木造音楽教室の先生からの続報では
「匠の技ではの、究極のピアノ配置でしたが、たくさんの方々がご検討される、分かりやすい前例となりますこと、嬉しく思います。 杉の木の床、棚、木造家屋と木に囲まれ、毎日幸せです。 今後、何かありましたら、防音職人さんへご相談をさせていただきます。」というコメントを最近いただきました。木材・木製品の相乗効果や音響効果を身をもって体験されているピアニストからのご報告は、とても貴重な検証資料となります。

また、地元国立市内のプロピアニストからは
「新築の計画段階で、色々な専門業者に見積りや提案を依頼しましたが、どこの業者も天井や床・壁が驚くほど分厚くなる設計で、とても受け入れることができませんでした。それに遮音性能はD-50ということで、夜遅くのピアノ演奏は無理でした。
しかも、床をコンクリートで造るなんて、木造の新築なのに意味が分かりません。(床下換気をつぶすと建物の寿命が短くなることを、あとで防音職人さんや大工さんにお聞きして、驚きました。)
そして、木造の長所を生かした薄型防音の提案に目から鱗のような感じで、石膏ボードを使わない構造や今まで提案されたことのない防音材を含めて、他の専門業者とは全く違う設計内容に驚きました。」

このように、私の主な研究協力者は「依頼者(契約者)」自身と言えると思います。依頼者の生の声が重要な情報源となっているのです。
もちろん、異分野を含めた専門書などの諸資料をチェックすることも大事な作業です。そして、現場担当の木造が得意な職人の声を聞きながら一緒に工法を検討することが、机上の理論を補正する手がかりとなっています。

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