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徹夜明けの不健康大学生、大文字山に登る

秋風冷たき晩秋の朝、徹夜明けの不健康大学生は重いまぶたを必死に開きながら1限を受けていた。これが終わったらやっと眠れる。しかしそんなとき、誰かに誘われたわけでもなく悪魔的な考えが頭に浮かんだのである。
「大文字山に登ろう」
何を血迷ったか、自習室とネットカフェで一夜を明かした昼夜逆転大学生は、徹夜明けの体に鞭打って登山を敢行しようとしていたのである。


8月に撮影した、「大文字送り火」

京都・東山連峰の一角をなす大文字山は、毎年お盆に送り火が焚かれることで有名な、お手軽ハイキングスポットである。銀閣寺からおよそ30分で火床からの絶景にありつけるうえ、季節はスポーツの秋。慢性的に運動不足気味な理系大学生がこの山に登ろうと思い立つのは甚だ自然なことであった。徹夜明けであることを除けば。


銀閣寺道とその先に見える大文字山

今出川通りを東に進み、白川通との合流点、旅の記録は銀閣寺道バス停付近からつけることにした。自転車でここまで登ってくるのも結構きつい。眼前に見える大文字が、これからの道程の険しさを教えてくれた。


哲学の道


観光客で賑わう銀閣寺参道。結構坂。

何台もの観光バスやタクシーとすれ違いながらさらに東へと進むと、銀閣寺の参道へとたどり着く。コロナ禍も収束へと向かい、京の街にも観光客が戻ってきた。銀閣寺も例外ではなく、参道では土産屋の客引きの声が聞こえ、海外からのお客さんや修学旅行生が思い思いに楽しい旅を満喫していた。そこを駆け上がるのは、黒い服、黒いズボンに黒リュック、黒い靴履く黒い自転車である。そんな場違い野郎は参道の露店をガン無視して、銀閣寺の脇を左に曲がっていく。無論、義政公の美しき日本庭園などシカトである。

なんかなんかすごそうな観光地だなぁ、知らんけど


登山道の入口

しばらく登り、駐輪場で自転車ともおさらばすると、いよいよ登山口の看板が見える。ここからは本格的な山道。白川の源流である小川がつくった谷沿いの道を歩きながら見る森の景色は、大変美しいものである。


5分ほど歩くと小川を渡る橋が現れる。ここがつづら折りの階段の始まりである。面が水平ではなく、幅も不均一なこの階段は登りづらく、すれ違いのため石でできている部分に行こうとすると足を滑らせる危険もある。森の景色は春や夏に登った時と比べて少々薄暗いが、これは山の西側斜面を午前中に登っているせいもあるだろう。

尾根線上からの景色。少し薄暗い。

長い階段を登ると疲れがたまるが、登山道が尾根線に到達すると道は多少平坦になる。というわけでここにて小休憩。地面に目を落とすと、土の色が薄いように思えるが、これは大文字山が色の薄い花崗岩でできているからであり、それが風化した土が今見えているわけだと思う。(これは勘違いで、単純な腐葉土かもしれない)白川の名前の由来も、この白い砂が川底にたまっているからである。休憩を終え再び歩を前に進めると、お爺さんが階段に腰掛け煙草をふかしていた。これが日課なのだろうか。

崖崩れのため立ち入り禁止(落ちたら死)

大文字山の登山道の途中には、断崖絶壁の道があり、もし滑らせたら遭難確定という場所が途中にある。崖崩れの後も生々しい。

しばらくすると、一転開けた場所に出る。木々に光が差し込む様子が神々しいが、上ばかりをむくなかれ。実はここが登山道で一番転びやすいのである。地面の岩が非常に不安定なので慎重に登らないといけない。周りを見渡すと、トレッキングポールを持ったおじちゃんおばちゃんから遠足の幼稚園児までが登っていて、この山が地元の人々にいかに身近なのかがわかる。


千人塚

この石ころゾーンの一番上には千人塚というお地蔵さんがある。この山を登る幾千人もの人々や、送り火の列を見守ってきたのであろう。

心臓破りの階段

登山もいよいよ終盤に差し掛かるわけだが、最後の関門が待っている。それがこの、心臓破りの階段である。徹夜と登山の疲れがかなりキていたが、最後の力を振り絞り、ハイペースで攻略していく。しまいには写真のずっと奥に映っているおばちゃんに追いつくことができた。

紅葉の木の下で

息も絶え絶えになったが、ここを過ぎたら1段ずつ昇るのも1段飛ばしで昇るのもやりにくい地味な嫌がらせ階段の道を進むだけである。道端にはまだ色づいていない紅葉の木が植えられており、晩秋の折にはもう一度訪れたいと思わせる。


ゴールを前に

階段が終わるとついに、一気に視界が開ける。青空の下に小屋が一つ。あれが本日のゴール、大文字火床の弘法大師堂である。


火床からの景色・京都盆地を望む


中央右あたりに京都タワー、大阪は霞んで見にくい

まさに絶景。北は大原、比叡山、南は遥か大阪の高層ビル群まで、京都盆地を一望することができ、疲れが吹き飛ぶとはこのことだろう。火床からは御所をはじめ、平安神宮、二条城、五山送り火の左大文字や舟形、賀茂神社や京都タワーなどを見るこができるため、多くの登山客がそれら京都の名だたる観光地を指さし楽しんでいた。

火床からの景色をパノラマで

実は大文字山の頂上はここではなく、さらに20分ほど登ったところに三角点があるのだが、そこからの景色は火床に比べてはやや見劣りするので(山科盆地などを望むことはできるが)登らないことにする。何しろもう限界である。

火床の標高…
なんでや!阪神関係ないやろ!

ここからは余談だが、銀閣寺道沿いの哲学の道のあたりで、白川と琵琶湖第二疎水の二つの川が立体交差する珍しい光景が見られるので探してみるのがおすすめである。また、銀閣寺に来た貧乏学生にとっては参道の露店は少々高いと感じられるが、そんな時には今出川通りの坂を下って百万遍に行ってみるとよい。そこは学生街なので、安くておいしい飯にありつけるだろう。

2つの川の立体交差
白川の下を琵琶湖第二疏水がくぐる

最後まで読んでいただきありがとうございます!!
今後も長距離徒歩旅を中心に旅行記を書いていくのでフォローいただけると幸いです。

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