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『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んで~宇宙、恐怖、謎に立ち向かえ!宇宙VS俺(+人類の叡智)なSF~

『面白いSFとはなにか』

尽きることのないテーマであります。
中には「こんなものはSFとは呼べない認めない」なんて言葉も飛び交うこともあります。
SFを読む、観る人それぞれが大事にしている、肝だと思っている要素が当然千差万別あるわけで
それをどこまで重要視するか、またはあまり気にしないかで評価もまた変わってくるわけです。

一端のSF読みの私ですが、これまでの経験からその評価軸を考えると
「科学的描写や考察が緻密であるか、リアリティがあるか」
「誰も想像だにしなかった、想像力を掻き立てるアイディアが盛り込まれているか」
「そもそも読んでてちゃんと楽しいのか」

この辺りがあげられるのではないかと思います。
個人的に一番大事だと思うのは3番目なんですが…

当然この三点をすべて満たす作品って限られてくると思うんですが、
この三点が極めて高水準で満たされている作品があるとしたら…?
それが今回読んだ アンディ・ウィアーの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』です。

この作品、とにかく一切のネタバレが隠避される作品なので
極力直接作品の内容には触れずにお話しできればと思います。

どんな作品なの?

宇宙を漂うロケットの中で、一人の青年が目を覚まします。
過去の記憶も、仲間も、そもそも自分が誰なのかもわからない、そんなたった一人の状況で
なぜ自分がこんな状況に立たされているのか、自分は何をすべきなのか。
徐々に明かされる過去の記憶と、科学の力を以てこの暗い宇宙を切り開いていく…
といったお話です。

このアンディ・ウィアーという作家さんは過去作が映画化されていまして、
それが『オデッセイ』(小説の原題は『火星の人』火星の王でも火星の後継者でもないよ)という映画。
これが近年のSF映画でも屈指の傑作映画で、
「火星にたった一人で取り残された宇宙飛行士が、ジャガイモをひたすら育てて食ってサバイバルする」
という話をめちゃくちゃ面白く熱く描き切った一作です。
これもめちゃ傑作なので観たり読んだりしてね。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B01EFL9VMM/ref=atv_dp_share_cu_r

なので、この『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が面白いのはすでに折り紙付きだったわけです。
そしてこの作品はその想像を軽く超えていきました。

どこが凄いの?


先に上げた三軸をもとに話していきましょう。

「科学的描写や考察が緻密であるか、リアリティがあるか」


この作品、とにかく実験の連続なんです。
分からない所にぶち当たる→実験して正体を突き止める→また先へ進んで謎をみつける→また実験
というループ。
既存の常識ではまったく考えられない問題に対しても、絶えず手元にある武器(知識)を総動員して立ち向かい
絶えず理解しよう、調べようという姿勢を止めません。
それがこの物語で起きる出来事のヤバさ、重大性を裏付けていくことでもあり、
尚且つ、この過程がまさしく「科学を以て宇宙の脅威に立ち向かう」ためのプロセスになっており
それがどんどんドラマを生んでいくわけです。

なんですが、この本の凄いところは、
そうした小難しい科学描写が、どういうわけか難なくスッと読めてしまうところです。
こうした実験・科学の説明フェイズのところって得てして難解になりがちで、こればっかり細かく正確にやろうとして話が面白くない…なんてこともあるんですが
この作品は長くなり過ぎず、何なら「こういうものだとわかってくれればいいです」みたいな線引きまでしてくれるところがあります。
著者の腕なのか、訳者の腕なのか、はたまた両方なのか
とにかくこの本は読みやすいです。ガンガン先に読み進められます。

「誰も想像だにしなかった、想像力を掻き立てるアイディアが盛り込まれているか」

これこそあまり突っ込むとネタバレになってしまうんですが、
存分に盛り込まれています。
「手垢の付いた要素やアイディアを、どううまく調理するか」という観点の評価も当然あってしかるべきで、それが面白いという作品も世には当然数多あります。
(ただそういう場合、「こういう解釈があったのか…」など何らかの新規性はあったりするんですが)

ただこの作品に限っては、「なんか見たことあるなぁ」という要素がほぼなかったかと。
まずこの物語の構造自体が非常に面白い形をしていて、読み進めていくうちに驚かされることばかりです。

前述したように、この作者さんがめちゃくちゃ頭いい人なので
出てくる問題やその解決策も「そんなんどうやって思いつくの!???」というもので溢れています。
ただそれも決して突飛なものでなくて、上記した科学・実験フェイズにて裏打ちされてきちんと説得力を持たせたものになっているのがニクいですね。

あとこの作品、「そのネタだけで一作品書けるでしょ!?」っていう要素をこの一作にどんどん突っ込んできます。
ただ、脱線しているのかというとまったくそんなことはなく、全部が最終目的のために必要な要素で非常に綺麗にまとめられているのが凄いところ。

「そもそも読んでてちゃんと楽しいのか」

間違いないです。
ストーリーの流れも間違いなく熱くて美しい。
当初から謎に満ちたお話なのですが、
「宇宙の謎、自分にまつわる謎を、いろんな思いを抱えながら科学と知識の力で打倒する」
という軸は徹頭徹尾貫かれていてわかりやすい。
それを上記した二要素が綺麗に補強し彩ってくれます。
めちゃくちゃに危険な状況に身を置かれるわけなんですが、
主人公が非常にポジティブで、前に進むことをやめようとしません。
(あるいは、「そうあろう」と強制的に思おうとしているのかもしれませんが…)
あと語り口がとにかく軽妙です。

物語は基本的にこのポジティブな主人公の一人称で進んでいくのですが、
襲い来る恐怖や問題に、時にべそかきながら悪態付きながら、
非常に軽妙な語り口で物語を進めていきます。
この辺も読みやすさに繋がっているのかもしれません。

まとめ

私個人の持論として、
「難しい問題に当たったら、それを易しい問題に細かく分けて一つ一つ潰していけばいい」
というのがあって。
この作品はそれを地で行ってくれているのが好感持てる点なのかな、と思っています。
(実際劇中でもそういう言い回しがあったと思います)

そしてそれは、細かい描写やその精緻さを抜きにしても
「人類の叡智を以て、一人の人間が脅威に立ち向かっていく」
という、この物語の”熱さ”のもとになっているのではないかと。
この”熱さ”を描くために、これまで上げてきた要素が高水準で仕上げられている。
それがこの作品の凄さなのではないかなと思っています。

早い話が、
「難しい話してるっぽいけど、話が面白いからなんか読めちゃう」
という感じですね。

また、タイトルにある「ヘイル・メアリー」とは、主人公が乗っていた宇宙船の名前です。ただしこれはアメフト用語でもあり、劣勢のチームが勝負の流れを変えるために投げる「神頼み」のロングパスのことを指すそうです。
「祈り」というニュアンスも含まれるのでしょうか。
この名前が付けられた意味とは…?

おすすめのめちゃ熱い一作です。

これは雑な感想なんですけど
ポケモンSVやった後にこの本読むと
とある強引なキャラクターがオモダカチャンピオンで再生されてしまって仕方ないんですけど
どう思います?

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