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ヘドロの創作 2024/5/26

 キジ太郎一行は、実際に魔族の被害に遭ったという街道から少し離れた街を訪れていた。
 そこは旧時代にたいそう栄えたという都市だった。旧時代はこの都市に街道が通っていて、交易で栄えていたという。
 しかしその都市はいまでは廃墟であった。猫の姿はない。かつてこの都市では魔族が猫を蹂躙し、猫はこの都市を捨てたのだ。だから街道は別のルートとなり、この都市は忘れ去られた。

(おかしい)

 シャム蔵が呟く。

「おかしいって何がだい?」

 キジ太郎が素直にそう尋ねると、シャム蔵はほっそりした首を動かして目線で遠くを示した。

(魔族の手によって滅ぼされたにしては、ずいぶんと猫の仕業くさい)

「猫の仕業」

 シロベエがオウム返しして、シャム蔵が示すあたりを見つめた。
 そこにはがれきの山があった。爪でガリガリとひっかいた跡がある。

「確かにあれは猫の仕業ね……」

「いちど滅びたあとによその猫が略奪に来たんじゃないのか?」

 シロベエがそう言うのだが、シャム蔵は首を横に振った。

(のちに略奪に来たのなら、がれきをひっくり返してものを奪うはずだ。それにしてはいちどにひっくり返されたように見える)

「うーむ……」

 キジ太郎は香箱座りの要領で腕を組んだ。
 他の面々もそんな感じである。

 クロ美が口を開いた。

「どう考えても猫同士で争って略奪された。シャム蔵の考えとしてはそうなのね? でも猫が略奪なんてするかしら?」

(それは考えづらいところだ。オスが単身、他人の縄張りに突っ込んでいって争うことならありえる。しかしながらモノ目当てで争うというなら、こういうことにはならないはずだ)

 そうなのだ、この街の様子は明らかにおかしい。そして本当はいったいなにがあってこうなったのか、もはや語れるものはどこにもいないのだ。
 街じゅうを探索し、なにか手掛かりはないかと探し回ったが、誰かが爪で残したメッセージ、のようなものは一つも見つからなかった。
 戦争によって突然襲われたのではないか、とキジ太郎は思った。戦争、あるいは高貴な猫の死によって、街の住民も墓所の周りに埋めるために殉死させられたか。

「それはそれとして魔族はいるんだよなあ」

 キジ太郎はぼんやりとそう呟いた。ここまでの道中、何度か魔族と戦った。魔族はいるのだ、間違いなく。
 しかしこの都市は魔族に滅ぼされたのではなく、猫の手で滅ぼされた。この都市は、いったいなんのために、猫によって滅ぼされたというのか。
 猫という種族は共存共栄で生きている種族である。困ったら助け合うし、闘争するにしてもタイマンのステゴロが基本である。やばいと思ったらそこで勝負がつく。殺しあったりはしない。
 しかしこの忘れられた都市にあるのは、猫が猫と戦った、という痕跡だった。

「魔王っていうのは、猫と猫を戦わせるものなんじゃないかな?」

 キジ太郎はそうつぶやいた。シャム蔵が深く頷いた。クロ美は鼻をぴすーと鳴らした。シロベエは「違いない」と答えた。(つづく)

「まぶしい……」


 ◇◇◇◇
 おまけ

 きのう聡太くんは我々が買い物に行っているあいだ、父氏が目を離した隙におつまみのおかきの袋を破って少し食べた。夜も眠そうにしていて元気がなかったので、これは月曜日に動物病院に行って「おかきを食べてしまってお腹の調子がおかしいのでお薬を出してほしいのですが」コースではないだろうか……と思ったのだが、今朝すこぶる健康なUNKOを出したらしい。
 なんなんだきみは。明日も健康なのを出してほしいところである。

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