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ヘドロの創作 2024/4/14

 大魔王を倒して王都に戻ってきた猫の英雄に、猫の王は言った。

「きみの手柄を我が息子に譲る気はないか」

「……え?」

 猫の王はでっぷりしたマズルをフクフクと揺らして、猫の英雄に金色の瞳を向けた。

「きみはいま英雄だが、実家は貧しいマタタビ農家だと聞いた。両親やきょうだいと、裕福に暮らせることを保証する。だから、きみの手柄を我が息子に譲ってほしい」

 猫の英雄の緑の目が、ぱちぱちと瞬きされる。キジシロの毛並みの英雄は、ヒゲを震わせて、小さく俯いた。
 猫の英雄の家は王が言ったとおり貧しいマタタビ農家だ。両親はボロボロになるほど働き、きょうだいたちもそれを手伝ってボロボロになっている。英雄はそんな家族を守りたい一心で、魔物と戦ううちに強くなり、英雄となったのである。
 しかし王都に戻ってきても猫の英雄を褒め称える声は聞こえず、王に大魔王を倒したと報告しても凱旋パレードなどは行われなかった。
 本当に、猫の王は英雄の手柄をネコババして、自分の息子に与えようと思っているのだ。まるで手柄など農民にはふさわしくない、とでもいうように。
 英雄はなにか言いたかった、しかし王はその特徴的なマズルをモフモフと動かしながら、英雄にずばずばと言葉を突きつける。

「裕福に暮らせるだけが嫌なら、朕の後宮から美しいミケトラを差し出そうではないか。どうだね」

「しかし陛下、」

「朕の言葉が聞こえないのかね」

 裕福な暮らしとミケトラ美女は、完全に決定事項であるようだった。
 こんなのおかしいと猫の英雄は思った。

「手柄では食べていかれないだろう。英雄になっても、毎日うまいお刺身にありつく生活に直接は結びつかない。食べていかれない手柄を追いかけるより、裕福に平穏な生活を望んではどうかね?」

 王がそう言ってフレーメン反応のような笑顔を浮かべる。

「父上?」

 部屋に猫の王子が入ってきた。ふさふさした毛並みの、たいそう美しい猫だ。体つきもがっしりと大きく、まさに英雄を名乗るのにふさわしかろう。

「おおサバ郎。どうした?」

「父上のお話をさきほどから聞いておりますれば、英雄のキジ太郎殿に無礼なことを申されていらっしゃるように感じます」

「農民に手柄など不要ではないか」

 サバトラの王子は鼻をピスーと鳴らした。

「農民だからこそ手柄という誇れるものが必要なのではありませんか? 僕は人からネコババした手柄などいりません」

 王子は父親と違って賢明であった。王子はさらさらと、思ったことを述べる。

「このキジ太郎殿の手柄は、キジ太郎殿に与えられるべきです。父上は狭量だ。キジ太郎殿には手柄を認めるだけでなく、さきほど父上が述べられたような褒美も与えられるべきです。凱旋パレードもいたしましょう」

「ウヌッ。ぐうの音も出ないほどの正論!」

 こののち、英雄は大掛かりに王都に凱旋し、そのパレードでサバトラの王子、サバ郎は英雄にマタタビの冠を与え、彫像を作らせ、そして親友として、即位後もずっとキジ太郎と仲良くしたという。

「あかるいところがすきなんですよ〜」


 ◇◇◇◇
 【おまけ】

 聡太くんはどうやらお腹が落ち着いてきたらしく、きょうは元気いっぱい暴れ回っていた。カーテンにも登った。人間の手をガリガリもした。
 やはり春はソワソワするものなのだと思う。そして暴れ回る聡太くんをなんとかしようとしているうちに「サバ郎」という新しい呼び方が爆誕したが、本人は「サバ郎」と呼ばれても自分のことだと思わないようだ。

いっぱい咲いた!

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