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ヘドロの創作 2024/4/21

 勇者キジ太郎はキジシロの猫であった。きんっきんに尖った爪と、美しく並んだ鋭い歯、精悍な尖ったマズルを持った、男前の猫であった。
 キジ太郎は貧しいマタタビ農家の息子であったが、マタタビ畑を襲う魔族とステゴロで戦ううちに、どんな魔族とも対等に渡り合える強いものとなった。

 ある日キジ太郎は商人にマタタビを売るべく荷車を引いて王都に向かった。マタタビを売ったあと、なにやら城の前が盛り上がっていることに気づいて、野次馬根性でそれを見にいった。
 剣だ。英雄の資質のあるものにしか抜けない剣だという。歴代の王が王子のころに挑戦し失敗、いまちょうど第一王子のサバ郎王子が挑戦して失敗したところだった。

「さあ、挑戦してみたいものはいないか」

 サバ郎王子は朗々とそう周りに声をかけた。たくさんの男たちが剣を引き抜こうとするが、誰が引っ張っても抜くことはできない。
 キジ太郎は「面白そうだな」と、剣に近寄ってみた。周りの人々は「あんなみすぼらしいなりの農民に抜けるわけがない」と小馬鹿にした顔をしていたし、キジ太郎も抜けるとは思っていなかった。
 しかし、キジ太郎が剣の柄に触れると、剣のほうから踊りあがるように抜けたのである。

 そうして、キジ太郎は勇者となり、魔王を打ち倒すべく冒険の旅に出ることになった。
 家に残した年老いた両親が心配だったが、それは弟や妹たちにお願いして、英雄の剣を腰に下げ、キジ太郎は旅に出た。

 魔王ははるか北の多島海にある島に、魔王城を置いて暮らしているという。
 キジ太郎は1人で魔王城に突っ込んでも勝てないと把握していたので、まずは仲間を探さなくてはならないと思った。
 王都近くの農村から北に進むと、キジ太郎は魔法使いが近くの洞窟に住んでいるという噂を耳にした。
 魔法使いがいたらきっと旅も安全になるに違いない。キジ太郎は洞窟を訪れた。

 洞窟に暮らしている魔法使いはメスの黒猫であった。しっぽの先が鍵のように曲がっている。相当な変わり者であるのが察された。

「僕は魔王を倒しにいく。あなたも来てくれないか」

「魔王を倒せば平和になる、なんて思っているの?」

 どうやらこの黒猫は魔王を倒せば平和になる、という思想を嫌っているらしい。

「世の中はそんなに単純じゃないのよ。あなた、きっと王に騙されているんだわ。英雄の剣が抜けたのだってたまたまよ」

 黒猫はササミを茹でた出汁を出してくれた。なかなか歓迎されているようだったが、しかし魔王を倒しにいく、という提案には反対されているようだった。キジ太郎は必死で魔法使いを口説き落とす。

「黒猫さん、僕はそういうふうに世の中や人々を疑いの目で見ることができません。だから、僕にその目線をください。そうすれば誰かに騙されることなく、旅ができるでしょう」

 黒猫は出汁をこくこく飲んだあと、黒くつやつやした鼻をすんと鳴らした。

「面白いことを言うのね。いい? あなたはよくも悪くも素直すぎるのよ。だからわたしもほだされているわけだけど」

 どうやら魔法使いは旅についてきてくれるようだった。魔法使いが言うには、もう少し歩いたところに孤高の戦士がいるらしい。彼を味方にすれば、魔王などらくらくと倒せるだろう、と黒猫の魔法使い、クロ美は言った。

「あたらしいつめとぎいた、かいてき!!」


(来週に続く)

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