ヘドロの創作 2024/6/23
(承前)
影の魔族にさらわれたチャチビを追いかけて、キジ太郎たちはなにやら不気味な渓谷にいた。空気がドンヨリと澱み、なにやら不穏な雰囲気で、血生臭い匂いが鼻を突く。
風が吹いて、一瞬霧が薄れた。霧の向こうには、不気味な塔が建っていた。
「どうすんだ、いくのかあれに」
シロベエが眉間に皺をよせた。
(ここでいかねば勇者ではない)
シャム蔵が真剣な顔をする。
「でも魔族の子供をそこまでして救いださねばならないの? 明らかに魔族がいる雰囲気じゃない」
クロ美が難しい顔をする。
「魔族……かあ。魔族を倒して魔族を助けるっていうのもおかしい感じはするな……とにかく行こう。手がかりだけでいいんだ、チャチビはいい魔族だと思うから……」
キジ太郎は悩んだようにそう言った。魔族にいい魔族も悪い魔族もないが、それでもキジ太郎はチャチビに善性があることを疑っていなかった。
ぎぎぎぎ……と扉を開けると、幼い子猫たちが泣き叫ぶのが聞こえた。
「ここは……なんだ?」
キジ太郎は辺りを見渡した。階段があるので恐る恐る登っていくと、チャチビをさらった影の魔族が、子猫たちを閉じ込めた檻の向こうで、どよどよと溜まっていた。
キジ太郎は剣を抜いた。影の魔族を一閃する。影の魔族は「おろろろろろ……」と声を発して、消えていった。
一同は子猫たちを解放する作業を始めた。子猫たちはみなまだ目が青く、本当なら親に守られる年ごろであった。なにせ数が多いので、キジ太郎とクロ美がそこに残り、シロベエとシャム蔵が近くの村に知らせに行った。
「クロ美はここをなんだと思う?」
「子猫を魔族にする工場だと思うわ。ねえ、みんなはなんでここに連れてこられたの?」
クロ美が子猫たちに尋ねると、子猫たちは「まぞくにするってゆわれた」「まぞくにしてねことたたかえーって」「まぞくになりたくないよう」などと口々に矢継ぎ早に話し、騒ぎ始めた。
やっぱりクロ美の想像通り、ここは魔族工場だったのである。
猫の子供を魔族にして、猫と戦わせているということは、いままで倒してきた魔族は子猫だったということか。
しばらくして、シロベエとシャム蔵が大人の猫を連れてきた。子猫たちは目をキラキラさせて、「おかーさん!」「おとーさん!」と、親にすがりついて泣き始めた。
「おう、おう、もう大丈夫だからな……」
「よかった、生きていたのね……」
親猫たちも泣いていた。子供たちはみな無事に、家に帰っていった。
「まさに英雄のやることね」
「おう。いっぱしの勇者だ」
(ただしいことをなしたな)
仲間たちはニコニコとそんなことを言ったが、キジ太郎は心ここにあらずでチャチビを探していた。いない。チャチビの姿がない。
「どうしよう、チャチビがいない。もう歩いてどこにでも行ける大きさではあったけど、自力で逃げ出したのかな」
「キジ太郎、チャチビは魔族よ。あんたがさっき斬ったのとおんなじ魔族よ」
「でも! チャチビを見捨てるなんてできないよ!」
キジ太郎は叫んだ。それは子猫を引き離された親猫の叫びだった。(つづく)
◇◇◇◇
おまけ
きのう聡太くんがナイトルーティーンのイヤイヤ期を始めた。ボールを投げても、拾っている間に元の場所に戻ってしまうのだ。何度ボールを投げてもそうなので、諦めて抱っこして物置から出た。抱っこされても嫌がりもしなかったのはさすがに草を禁じ得ない。なぜお前はそんなに人間が大好きなんだい……?
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