ヘドロの創作 2024/5/12
多島海を離れて、キジ太郎たちは草原地帯を歩いていた。風が吹いており、少し寒い。
シャム蔵が歩きながらずっと考えているのにシロベエが気づいて声をかけた。
「なぁに難しい顔してんだ?」
(……うむ。魔王というのは、われわれを猫たらしめている存在なのではないか? と思ってな)
「どういうことだ? 俺にゃさっぱりわからないぞ」
(正義の反対は別の正義だ。魔族が魔族としているから我々は猫でいられる。魔族の正義というのはいったいなんであろうな……)
なかなか難解なことを考えている。それはまさに禅であった。
広い草原を進んでいく。遠くに王都の城壁が見える。戻ることはおそらく許されない。
「王都とは違う方向にいこうと思う」
キジ太郎はそう宣言した。
「まあそれが妥当ね。うっかり王都に踏み入って、仕事を放り出して逃げてきたと思われたら終わりよ」
「うん。王族は農民ひとり死んだところでどうとも思わないだろう。僕が戻れば『勇者が仕事を放り出して逃げてきた』と思われる。そうなったらどうなるかわからない」
「魔王のいどころを突き止めなきゃなんない、か。王がバカなばっかりに」
(魔王というのは、そもそも存在するのだろうか)
「まぁたシャム蔵が難しいこと考え始めたぞ」
(魔王というのは、われわれ猫がそう呼んでいるだけで、実際は魔族の王なんて存在しないのではないか? ……と、私は思うのだが)
「どうしてだい?」
(そもそも、王を頂に据えたシステムを魔族がとるだろうか。魔族には魔族のシステムがあるのではなかろうか?)
「そういう可能性も捨てきれないわね」
(魔族は我々猫をいじめる存在だ。しかし殺されたという話は聞いたことがない。魔族は、脅威であると捏造された存在なのではないか?)
「そうか!」
キジ太郎はピンクの鼻を鳴らした。
「つまり王は、魔王に率いられた魔族が猫を脅かすと主張して、国民の目が自分に向かないようにしたんだ」
キジ太郎がそう言うと、一同は一瞬ギョッとした顔をしたものの、しかしそれもある意味あり得ることだ、と納得した。
正義を捏造し、それとともにそれに対抗する悪も捏造し、人々が自分のほうを向かないようにする。そして勇者を仕立てて、自分を偉大に見せる。その勇者は貧しい家の若者であれば、途中でのたれ死んでもだれにも恨まれない。
「でもそれはうがちすぎじゃない? 単に、多島海の魔族が嘘をついてるだけなんじゃないの?」
「まあそれもありえることではあるけど……」
「じゃあそう思っていたほうが楽なんじゃないの?」
クロ美の主張に、キジ太郎は空を見上げて考える。
「楽な方向に逃げちゃいけない、と僕は思う」
(その心意気は正しい、若者よ)
「わかった。でもいちおう、魔王の居城を探しているていで旅をしましょう。とりあえず、あっちの村のほうに行ってみましょうか」
クロ美が指差した先には、谷間の小さな集落があった。4人は、そこに向けて歩き始めた。魔王の実在を疑いながら。(つづく)
◇◇◇◇
おまけ
どうも聡太くんのお腹の調子がよくない。食べすぎているとは思えないのだが、食べすぎたときのお腹の調子である。いつもの動物病院がやっていたらただお腹の薬を出してもらうのだが。
明日はフィラリアの予防のために、設備のすごい動物病院にいく。本当はいつもの動物病院がいちばん気楽でいいのだが……。
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