ヘドロの創作 2024/5/19
キジ太郎たちは小さな農村を訪れていた。農村は平和そのもので、キジ太郎は自分の暮らしていた村を思い出していた。
畑で働く村人、村猫? たちは忙しそうで、子供たちは読み書きを教える手習い場から元気よく出てきては川遊びをしている。果たして、この村も魔族の害を受けているのだろうか。
一同は村長の家を訪れた。村長はだいぶ毛が抜けてボロボロになった、年老いたハチワレであった。
「これはこれは勇者どの……周りの方はお仲間ですか?」
「ええ、そうです。この村も魔族に脅かされているのですか?」
「幸いこの村は魔族に襲われることはいままでありませなんだ。畑も家畜も村のみんなも、平和に暮らしております」
「……フム」
シロベエが考え込む。
「さあ、ささやかながら宴の席を用意しました。こんな小さな村でできるもてなしですから本当にささやかですけれど、とにかく楽しんでいってください」
村長がもてなしてくれるというので、一同は素直にもてなしを受けることにした。
宴の席には鶏肉や魚、マタタビや猫草が供され、シロベエはマタタビですっかり酔っ払い、クロ美はもぐもぐとご馳走を食べ、シャム蔵は静かに猫草を食べている。
キジ太郎も食事やマタタビを食べながら、なにかがおかしい……と思っていた。
自分が魔族だったら、守りの手薄な農村を狙うだろう。しかしこの農村は魔族に襲われたことはないという。
王は嘘をついているのではないか。
以前シャム蔵は「魔族は我らを猫たらしめるもの」と言っていた。つまり正反対の存在ということだ。
光があれば影が射す。自分たちは光に照らされた存在で、その影が魔族なのではないか。だとしたら魔族と戦うことは愚かしいことではないのか。
和平。
いや、それは考えられない。王は魔王を倒せと言った。それに逆らえば命はない。和平を進言したら許されないだろう。
キジ太郎は村長に尋ねた。
「魔王というのは、どのようなものだと思いますか?」
すこし酔っ払った村長が答える。
「そりゃあもう、わしらの生活を脅かす、ただただ恐ろしい魔族の王さまでしょう。勇者どのはどう思われるので?」
「それがよく分からないのです」
「勇者どの、そのようなことを言うと王さまからお叱りを受けるのでは?」
「……その通りです」
宴会のあと、一同は村の宿屋でぐうすか寝た。次の朝にはみんな機嫌よく村を出ることになった。
「勇者どの、どうぞお気をつけて」
「ありがとう。それでは」
村の門を出て野原を踏みしめてゆく。
(……して。魔王の正体に目星はついたのか?)
「いや。うすぼんやりと想像がついただけだ。果たして合っているかも分からないが……魔族は、魔王は、僕たち猫の影なんじゃないか?」
「光がなくては闇はない、ということ?」
クロ美の問いかけに、キジ太郎は頷いた。
「まずは具体的に、魔族の害を受けている村や街を探そう。そこを足がかりにして、魔王の正体を突き止めるんだ」
一同はそれで納得し、旅を続けることにした。魔王が何者で、なぜそれと戦わなくてはいけないのか、それを突き止めるために。(つづく)
◇◇◇◇
おまけ
きのう人間は夕飯に肉巻きアスパラを食べたのだが、それを焼いたフライパンを逆さにして流しに置いたところ、聡太くんはフライパンの下に手を突っ込んで脂のついた手をしゃぶっていた。何をしているんだきみは。
今朝はゆで卵とツナ缶を食べたかったらしく人間の朝食の支度を邪魔するのでケージに入れた。猫の楽しみは食べることだから仕方がないのだが……。
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