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ヘドロの創作 2024/7/28

 (承前)
 ミケ子を魔族から預けられたキジ太郎一行は、魔族との対話を求めて旅をしていた。魔族と出会うたびに、「敵ではない!」と言ったものの、問答無用で襲いかかってくる魔族も少なくなかった。
 ミケ子は猫として暮らし始めても、ちょっとしたことで毛を逆立て「フーッ!」と怒ることが多かった。それでも、ふつうの食べ物を与えられて食べるうちに、次第に猫の記憶を取り戻しはじめた。
 ミケ子は小さなころに魔族にさらわれて、魔族に仕立てられそうになったものの、それを強い精神力で跳ね返したのだという。しかし魔族と暮らした時間が長すぎて、猫としての意思を失ったようだった。
 ミケ子は美しかった。それはもう、王の城の寵姫のように美しかった。しかしこれだけ、猫としての常識や価値観を失ってしまうと、猫として暮らしていくのは難しそうだった。

「お、お、おなか……すいた」

 ミケ子が頑張ってしゃべった。まだ歩いている途中なので、キジ太郎が荷物から干した魚を取り出し、「ほら」と与えると、骨も頭もはらわたも、ぜんぶガリガリガリガリ食べてしまった。

「それはね、頭とはらわたをとって食べるのよ」

 クロ美が教えるもののミケ子はよくわからない顔をしている。そしてミケ子は「けぽ」と魚の骨を吐いた。

 ある晩、焚き火を囲んで夕食を食べ終え、野宿していると、ミケ子がひどくうなされる声で一同は目を覚ました。

「ぎゃああ……ぎゃあ……ああ……」

(なにか悪い夢を見ているようだな)

「そりゃあ……子猫のうちに魔族にさらわれたんだ。怖い目に遭っても仕方がない……そういうことを思い出しているんじゃないのか?」

「そこは分からないけど、可哀想に……」

 キジ太郎はしみじみと、うなされるミケ子を見た。クロ美がそっと毛布をかけてやると、ミケ子はやっとすうすうと穏やかな寝息を立てはじめた。
 次の朝、ミケ子はうなされていたことを覚えていないようで、けろりとした顔で目を覚ました。みんなで朝食のスープを飲んでいると、ミケ子はお腹が空いていたのかスープをぐいぐいと飲んだ。

 一行はまた歩きはじめた。昔キャットニップ畑だったと思われる荒地を進んでいくと、魔族の姿があった。その姿は猫によく似ていた。

「お待ちしておりました、勇者殿」

 猫の姿をした魔族はにまっと笑った。(つづく)

「ぶゆーでんってたべられる?」


 ◇◇◇◇
  おまけ

 きのう知り合いと会う用事があったので、いろいろ話をしてきたのだが、どうもわたしは聡太くんを自慢するとき「惣菜パンに噛みついた」「豆腐を盗んだ」「炊飯器のフタをなめた」と武勇伝を語ってしまう。知り合いはドン引きして「猫は飼えない……」と言っていた。
 次から武勇伝でなくかわいいところを言おう、と思って帰ってきて、夕飯のあと\ガタッ/と音がしたので見てみたら、聡太くんは炊飯器の蒸気が出るところを外して噛んでいた。あわてて取り上げて、炊飯器の中に隠したら、今度は炊飯器の蒸気の穴のところに顔を突っ込んでいた。香ばしい匂いでもしたのだろうか。
 このままでは炊飯器を壊されてしまう、と風呂敷で包んでみたら、頭でぐいぐい押して落とそうとするので、床に置いた。それ以上の悪さはしなかったが、まさか炊飯器を破壊しようとするとは思わなかった。
 武勇伝を語るのはほどほどにしようと思ったそばから新しい武勇伝をデンデン作るのはやめていただきたい。
 それと健康そうなUNKOを出したそうなので、明日はワクチンを打ちにいけるかもしれない。体重もいくらか増えているといいのだが。

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