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プレイバックたまちゃん 2024/2/17

 きょうはたまちゃんの命日である。2年前の夜、たまちゃんは虹を渡っていってしまった。
 いまになって、もし完全栄養食タイプのエナジーちゅーるを弱り出したころに食べさせていたら……とか、もっと早く液体の栄養剤に切り替えていたら……とか、そういうことばかり考えてしまうのだが、きっとたまちゃんはわたしがそうやってうじうじ考えることを望まないだろう。
 たまちゃんは晩年ひどく痩せてしまい、体重は2.5キロまで減ってしまった。やはり食べられなくなったらどんな生き物でも弱っていく一方になるのだ。インスタで見かけるミケちゃん25歳はかくしゃくとしてトーストを盗もうとしていた。ドコノコで見つけたご長寿の猫ちゃんであるももちゃんだって歯がずらーっと揃っていて、ご飯のほかにお夜食をもらって食べている。
 たまちゃんは見事な歯抜けだった。だからチャンクイングレービータイプのキャットフードを汁だけなめて「いらなーい」とやっていた。やはり食べなければ生きて行かれないのだよなあ、と思う。

 たまちゃんが亡くなる少し前に、「アニメージュとジブリ展」というのが秋田市に来た。叔父上、つまり母氏の弟でアニメージュを創刊号から買ってきた古強者のオタクであるあの叔父上に連絡して、一緒に行きませんか、と誘い、前売り券をコンビニで買った。
 そして秋田市行きを約束したのはたまちゃんが亡くなって数日経った日だった。
 当時はもうたまちゃんが死んでしまったことを受け入れて、しかしテーブルの下を覗き込んで「ああ……」となるのをときどきやっていたころで、「たまちゃんは死んでしまった」ということは理性では受け入れていた。ただ感情が追いつかなかった。
 だからきっと、ジブリ展を見にいったら、ナウシカのテトとか魔女宅のジジを見てさぞかし泣くんだろうな……と思っていた。
 しかし一番泣かされたのは、テトでもジジでもなく、物販コーナーにいたトトロの「まっくろくろすけ」のぬいぐるみであった。
 黒い塊から目がのぞいている。どこからどう見てもたまちゃんだ。流石にぬいぐるみは高くて買えなかったし、まっくろくろすけのぬいぐるみを買ってきたら毎日メソメソしてしまうと思って我慢したのであった。

「せんぱーい! あとはぼくにまかせてくださーい!」


 たまちゃんと暮らしたあの日々は、思い出せば思い出すほどに幸せだった。なんなら最晩年、介護しているときも子猫の面倒を見ているようで楽しかった。
 そしてたまちゃんはわたしや家族に猫なしで生きていけない体になるおまじないをかけていった。そしておそらくたまちゃんはねこねこネットワークに聡太くんの派遣を依頼していったのだろう。「めちゃめちゃかむきょうぼうなやつをはけんしてくださる?」とお願いしたに違いない。
 動物を亡くしたら早いうちに次の動物を引き取ってこい、というのは、なんとなく冷たい感じもする。しかしそれでよかったのだ。そうしたから、毎日聡太くんに振り回される楽しい暮らしをしているのだ。
 マジで人間はいちど猫と暮らすと骨抜きにされてしまう。そして猫なしでは生きていけない体にされる。たまちゃんを拾ってくるまで、猫と暮らすなんて考えもしなかった我が家の人間は、いまみんな聡太くんが大好きだ。
 中学の夏休み、部活に行く途中でたまちゃんが親猫とはぐれてひとりぼっちになっていなかったら、わたしたち金澤家の人間は聡太くんと暮らすなんて考えもしなかったろう。たまちゃんは偉大な猫だ。ありがとうたまちゃん。いまでも愛しているよ。

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