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ヘドロの創作 2024/8/11

 (承前)
 勇者キジ太郎一行は、猫の王の城にいた。何回も何回も取り次いでもらってどうにか王の謁見が叶った。そこで、魔族は知識がほしいのだ、と説明する。

「合同で大学を建てたらよいのではないだろうか。いま、余は貴族でなくても入れる大学の創設を考えていて、それを知恵を求める魔族――違う民族とともに設立できるなら、心強い」

 王は魔族のことを、「違う民族」と呼んだ。
 もう魔族は、敵でないのだ。

 このあとのことを大臣に任せ、キジ太郎たちはさらに南下した。南の、荒廃した荒野に、チャチビが囚われている魔族の荘園があるという。
 チャチビに会える。それだけでしっぽが真上に上がる。
 ミケ子がだいぶ猫らしくなった顔をまた野獣の顔にして、「うううう……」と唸った。風に微かに魔族の匂いが混じっている。南の、魔族の荘園は近い。
 やがて、荒野にあるにしてはずいぶん栄えている荘園が見えてきた。魔族が、いや違う民族が、知恵をもって栄えさせた荘園なのであろう。

 入り口の美しいバラのアーチをくぐり、キジ太郎は声を張り上げた。

「すみませぇん! どなたかいらっしゃいますかぁ!」

「はいはーい……」

 誰かが屋敷から出てきた。茶トラの若い猫だった。ミケ子が鼻にしわをよせて「ぐるるう……」と敵意をむき出しにする。
 この茶トラの青年は猫ではない。魔族なのだ。

「……チャチビか?」

「……父さん?」

「チャチビ、なんだな?」

「父さん!」

 キジ太郎は初めて刺身を食べたときのように、ぼろりと涙をこぼした。
 チャチビは涙こそなかったものの、表情を輝かせて、キジ太郎に飛びついた。

 ◇◇◇◇

「どあっぷ……」


 猫族とかつての魔族、いまの言葉でいう智族が和平を結んで、一年が経った。
 猫族の王が作った大学には、智族の学者たちがたくさん教師として勤めており、いまや智族を「魔族」と呼んで恐れるものはない。
 それは王の城の大臣たちの必死の根回しによるところが大きいのだが、それはともかく。

 智族の知恵は猫族の暮らしも変えた。小さな農村で、キジ太郎はふう、と肉球の裏の汗を手拭いで拭いた。
 クロ美は大学の魔法教師として働いており、シロベエはギムナジウムの若者に狩りを教えている。シャム蔵は王立寺院で智族に悟りの道を教授している。
 みんな出世したなか、キジ太郎は、田舎に帰って昔の生活をしているわけだが。

「えーっと。肥料……」

 智族の知恵で作られた最新の肥料の袋を開ける。砂のようにさらさらとしているが、ひとたび畑に撒けば葉も花も根も強健になるという素晴らしい肥料である。

「一人でやるにはしんどいな。ミケ子、チャチビ、ちょっと手伝って」

「はーい」

「わかりましたー」

 すっかり猫の暮らしに慣れたミケ子と、父親と信じるキジ太郎と暮らすことの許されたチャチビが、いまでは畑仕事を手伝っている。

 キジ太郎は幸せだった。それでよかった。自分が幸せなら猫族はみんな幸せなはずだ、とキジ太郎は猫らしい自己中心的なことを思ったが、それはだいたい本当のことだ。(おわり)

マスター、ブレンドコーヒーひとつ。


 ◇◇◇◇
  おまけ

 きのう聡太くんに足を激しくガリガリされて流血したのだが、どうも聡太くんは知らない人がくるとこういうことをやりがちだ。
 なのでお盆の間、おそらく2、3人くらいは人がくるだろうと思うので、厚手のハイソックスを履いておこうと思っている。いちいちガリガリされて流血するのはいやだ。
 ついでにいうとなぜ我が家の親戚は猫嫌いばかりなのだろう。誰か「かわいいね」ぐらい言ってくれたらいいなあと思っている。

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