小説『人間きょうふ症』24

 「点呼取ります。」
 世界史の先生はそう言って、教卓に高そうなシルバーの時計をそっと置き、名前を次々と呼び始める。
 私の名前につくと、
 「あなたが佐藤さんですね。はじめまして。」
 と一言放った。私は無言で頭を傾けた。あまり話したくない気分だったから。
 出席を取り終わり、すぐに話の本筋に入る先生は、立て板に水のごとく話しているだけで、去年の世界史の授業と比べると、クラス内は静かだった。だから落ち着いて授業を受けることができた。
 今日の授業はほとんどこのような感じで、何か嫌なことが起きることもなく終わった。帰りに、K先生とお話しする約束があったので、さっきの忌まわしい感覚は勘違いだったのかもしれないと考えながらすぐに職員室へ向かった。
 「佐藤さん、そんなに急いでどうしたんですの?」
 「あ、A花さん。特に何もないけど…。」
 「そうですか。では、わたくしもついて行ってもよいですの?」
 「それは、、。」
 「佐藤さん。ここで何しているのですか?」
 声をかけたのは、K先生だった。私が普段学校に来て一緒に話すときよりも、背筋が凍りつくような声と目をしていた。これはきっと何かのサインだ。それを察して、これから怒られるかのように振る舞った。
 「百合園さん、これから佐藤さんと用があるので、後でいらしてくれますか?」
 A花さんは気を悪くしたような顔で先生にいう。
 「あら、先に一緒になったわたくしを合理的なことに徹していらっしゃること。」
 「すみませんね。大事なことなので。佐藤さん行きましょう。」
 A花さんがどんなことを言おうと、先生はブレずにその場から私を脱出してくれることに成功した。
 「この教室なら、百合園さんが来ることもないかもね。」
 人気のない教室に二人で入って、先生は言った。

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