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『約束の猫』

『約束の猫』
これは村山早紀さん+げみさん、お二人の本のタイトル。
猫と人との不思議な運命の出会いと別れが綴られている。
短編と中編、読みやすくそれぞれがとても優しい物語。

家族はまだ誰も帰っていない時間、愛猫と二人きりでこたつに入りながらこの本を読んだ。読み終わり本を閉じて家族が帰って来るまでのほんの少しの間だけ仮眠…と愛猫と同じようにこたつにごろんと寝転がった。それなのに目を瞑ると、眠るどころか今まで一緒に暮らした猫たちの事を思い出し、眠れなくなってしまった。


子供の頃から今まで、人生の四分の三は猫と一緒に暮らしてきた。故郷は田舎なので猫か犬がいる家は多く、実家にも犬がいた時もあったけれど、父が無類の猫好きだったため猫といる事が多かった。いずれも知り合いや親戚からもらうという感じで。

その昔、母と結婚した父は一度は実家を出ていたのだが、祖母が一人暮らしになったため一家で父の故郷の家に帰り同居する事になった。その時に最初の猫と出会った…のだろうけれど、私はまだ一歳くらいだったらしく、初めて会った日の記憶はない。真っ白くて頭の良い猫で、父はその猫をとても可愛がっていた。
小学一年生の時にその猫が亡くなり、言葉にこそ出さないが心優しい父が悲しんでいるのは子供心にも良くわかった。

それからも実家にいる間にいくつもの猫と出会い、見送った。結婚するまで一緒に暮らし、結婚し実家を出てから亡くなった猫もいた。田舎という事もあるし、当時はまだ完全室内などとそれほど言われていない時代だったので、猫は基本、家の中も外も行き来は自由。なので近所の猫との接触による感染症や交通事故などが原因で亡くなった猫もいた。数日、家に帰って来ないなぁと思っていると「猫は自分の命が短い事を知ると、家族に死んだ姿を見せないために姿を隠す事がある」などと大人たちは言っていたが、それには”猫は具合いが悪いと感じた時、一人で静かに休める場所を探し、そうしているうちにどんどん具合いが悪くなって動けなくなり、そこで命を終えるのだ”という説もある。私はそちらを信じている。

家の猫が亡くなると私はいつまででも泣いていた。それを見かねた母は「いつまで泣いていても猫が帰って来る訳ではない」と言った。そんな事は言われなくてもわかっていたけれど、何も出来なかった事を謝りたい気持ちと、寂しさと悲しさでひたすら泣いた。

結婚して暫くは猫と暮らせる環境になかった。猫と一緒ではない時間が一番長い期間。猫は好きだが一緒に暮らせる環境にない以上、無責任な事は出来ないと考えていた。そんなある日、突然の出会いが。以前ここに「長男猫の事」というタイトルで書かせて頂いた猫である。

里親探しをしたが見つからず、結局、長男猫と私たちは家族になった。その後、一緒に暮らせる環境を整え21年間という時間を共に過ごし、6年ほど前に老衰で亡くした。長男猫を亡くした喪失感は子供の頃のそれより大きく、私は大人になっても相変わらず泣いていた。けれど夫は「いつまでも泣くな」とは言わなかった。私が泣き過ぎたので、娘には泣く事を我慢させてしまったかもしれない。私の胸で泣かせてあげられなくてごめんね。

それからは夫も私も、この先、猫の子と暮らす事はないだろうと考えていた。私はもう泣きたくなかったし、夫には長男猫を亡くした寂しさと、いつまでも泣いている私の姿を見る事の辛さの両方があったのだろう。
それが長男猫を亡くしてから2年半後、次男猫と出会ってしまった。そして散々、悩んで悩んで悩んだ末に、娘が言ったある一言で我が家の家族に。現在進行形、今年4歳になる悪ガキである。

長男猫は自立心が強く賢くてシャイだったのに対して、次男猫はかなりの甘え上手で自分の言いたい事ははっきり言うタイプ。顔も性格も何もかもが全く似ていないと言うより正反対。だから次男猫は長男猫の生まれ変わりではなくあくまでも次男猫。

次男猫が下部尿路の病気になりやすい体質とわかってからは(ここ一年は検査で良い結果を頂いています)何かと忙しく、長男猫を想って泣く時間は減った。かと言って家族で長男猫の事を話さない日はない。泣きながらではなく、毎日、笑顔で話している。

長男猫の時もそうだったけれど、今までこちらから積極的に猫を家族にしようと思った事はない。いなくなった時の寂しさをいやというほど知っているから。
家族とは長男猫の時のように運命か縁か、もし何かがあればまた猫と出会う事もあるかもしれないと話していたが、こちらから求めて行かない限りそんな事はそうそうないと思っていた。けれど次男猫との出会いは、人が猫を選ぶのではなく、猫の方が家族としての人を選び、人はそのように導かれているに過ぎないという事を私たちに信じさせた。
長男猫も次男猫も、きっと前世からの繋がり、出会う運命だったのだと。


『約束の猫』
今までこうしていくつもの猫と出会い別れて来たけれど「また生まれ変わったら私のところに来てね」と約束した猫はいない。もちろん会いたいのだけれど、次に会えるとしたら、お互い、記憶も何もない来世ではないかなという気がしている。
でも、もし今までに生まれ変わって会いに来てくれた猫の子がいたのだとしたら、鈍感なせいで気付かなくてごめんね。


過去に出会い、一緒に暮らした猫たちを忘れてしまう事はないけれど、『約束の猫』は改めて猫たちを想い、切なくも幸せな時間をくれた。
読後、ゆっくりじんわりと心に沁みて来る素敵な物語。

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