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青森県で冬季湛水してみた

知り合いの田んぼにソーラーパネルをくっつけて、通年で水田に水を張る実験をしています。あと、3Dプリンティングで無動力ポンプも作りました。

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この田んぼの周囲には川がないので溜池から取水していますが、ちょっと水量が足りません。昔はエンジンポンプで田んぼの下にある溜池から汲み上げていたこともあったようですが、採算が合わないのでやめてしまったのだとか。

傾斜地にある4面の田んぼを挟んで上と下に溜池があるので、動力を使わずに上の池からサイフォンで吸い出して自然流下で水を引くこともできますが、上の溜池への注水は地下水がジワジワと染み出す分しかありません。そのため田んぼ2面しか使っていませんが、潅水するには水量が不足します。

下の池には小さな沢から常に水が注がれています。そのため、水源としては十分な水量を確保できますが、当然ながらポンプが必要になります。

というわけで、安くなったソーラーパネルを使って電動ポンプを動かし、下の池から田んぼに水を汲み上げつつ、余った分を上の池にチャージして、さらに夜間ソーラーポンプが停止している間は逆に上の池から水を自然流下させて、その水の運動エネルギーを使って無動力ポンプで下の池から田んぼへ水を汲み上げるシステムを作りました。せっかくなので無動力ポンプは3Dプリンティングで作りました。

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ソーラーパネルで発電した電気エネルギーを揚水発電のように水の位置エネルギーに変換して池にチャージするので、バッテリー要らずで24時間停止することなく田んぼに給水できます。

無動力ポンプは、早い話、流体の圧力を流量に変換する装置です。ノズルから噴射したジェット流により周囲の流体を巻き込んで出力するので、ノズルに入力した流量よりも出力の流量の方が多くなります。そのかわり出力側の吐出圧はノズルに入力した圧力よりも低くなります。

この無動力ポンプを使うことで、上の池から消費する水量を節約することができます。

このシステムで、エンジンポンプで揚水した場合との比較で損益分岐点は約3年になります。システムの寿命が来る前にばっちり元取れます。

◇ ◇ ◇

無動力ポンプの3Dモデルはこんな感じになってます。

・ジェットポンプ (消費水量40L/min, 吐出水量60~80L/min)

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・ジェットポンプのカットモデル

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・エダクターポンプ (消費水量10L/min, 発生真空圧≤-30kPa)

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・エダクターポンプのカットモデル

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構造から動作原理が直感的にお分かりいただけるかと思います。理科室でよく見るアスピレーターと同様に、螺旋流ジェットを発生させています。

以下の式をもとに構造をモデリングしました。

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D_1:ジェットノズル径
D_2:ホーン絞り径
H_1:ジェットノズル水頭圧
H_2:吐出水頭圧
V_0:ジェット初速
ρ:密度 (水なので1)
g_0:重力加速度 (9.8m/s^2)

田んぼ各面によって標高が異なるので、水頭圧も異なります。せっかく3Dプリンティングで作るので、各面それぞれにあった特性になるようにオーダーメイドでデザインしました。

地図上の標高データをもとに上記の式で計算して、田3用が D_1=10mm, D_2=17mm、田4用は D_1=8mm, D_2=14mm としました。

というわけで早速作出力。

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こんな感じに塩ビパイプに接続できます。一部鉄パイプなのはジェットポンプを沈めておくための錘も兼ねているためです。

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パネル設置はみんなでDIYすれば早いですね。

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架台は土手に単管を打ち込んで、L型ブラケットとアングルでパネルを固定しました。大雪が降った時にパネルの上に雪が積もって壊れる可能性があるので、クラッシャブルゾーンとして敢えてアングルが先に壊れてパネルへの強い応力を逃すようにしました。

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パネル方位角は真南に向け、緯度40°なので仰角を約50°に設定しました。なぜか土手の傾斜がそのぐらいだったので好都合です。

春分の日と秋分の日の太陽の南中高度は 90-40=50° ですが、地軸の傾きが23.4°なので、夏至の日の南中高度は 50+23.4=73.4°、冬至の日の南中高度は 50-23.4=26.6° となり、夏至と冬至の南中時の投影面積は cos(23.4°)≒0.9178 より、春分または秋分比で約1割減になります。

さらに、太陽高度が低いと通過大気層が厚くなるので、その分地表に到達するエネルギーもかなり減衰します。冬季に電力が不足する可能性もあるので、とりあえず2系統あるストリングに加えて、もう1系統拡張できるようにしておきました。

というわけで、まずは試しにソーラーポンプを動かしてみます。

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晴れていれば容易に1.5kWフルパワー出ます。

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多段ポンプはデリケートです。このまま無造作に池に投げ込んで使うとゴミが詰まってしまうので、ストレーナを作りました。

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農業用のメッシュコンテナに網戸用の網をステンレス番線で固定して出来上がり。

この中になら無造作に投げ込んでも問題ないでしょう。

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コンパネで蓋を作って、吐出口をホースに接続します。

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冬季のポンプ凍結防止のため夜間には水を少量ポンプに逆流させます。そのため、ポンプに内蔵されている逆止弁の弁体をステンレス番線で括って開きっぱなしにしておきます。

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このポンプの先に別付の逆止弁を設置し、その逆止弁をバイパスするようにグローブ弁をつけて、このグローブ弁の開度を冬季夜間の凍結防止に程よい流量(ちょろちょろ)になるように調節して逆流を行います。

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ちなみに、今時ソーラーパネルは安く、このシステムに用いた280Wパネルは1枚あたり¥11,500(税抜)でした。もちろん中古でなく新品です。ソーラーポンプ+制御装置は AliExpress で8万円代で売っています。

◇ ◇ ◇

続いて、上の池の周り。

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バルブユニット、オーバフロー管、サイフォン管、ストレーナ、そして浮きで構成されます。

ストレーナには漁具の浮き(オレンジ色の球体)をつけて、夏場は底の冷たい水を避け、逆に冬は水面付近よりも少し下が暖かいので、水面から50cm下という絶妙な位置にストレーナを設定しました。

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土手を越えるサイフォン管の頂上部には、手動の空気抜きポンプをつけて、サイフォンを起動させる時に使います。

バルブユニットとオーバフロー管はこんな構成になっています。

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この機構により、1台のソーラーポンプで田んぼに水を供給しつつ、上の池よりもさらに標高の高いハウスにも水を供給できます。

また、オーバーフローにより池の上限水位を設定できるので、ソーラーポンプで水を上げすぎても、池が溢れて周囲の大豆畑などを台無しにしてしまうことがありません。

もちろん余ったエネルギーは水の位置エネルギーとして上の池に貯めておくことができ、ソーラーポンプが止まった夜間にはこの池から水を自然流下させて無動力ポンプを駆動させます。

バルブ操作により以下のコマンドを設定できます。

・ノーマルモード
V1:開, V2:開, V3:開, V4:開, V5:開
昼:下の池からソーラーで全ての田んぼに供給、余ったら上の池にチャージ
夜:上の池から自然流下で全ての田んぼに供給
・ハウス供給モード1
V1:開, V2:開, V3:閉, V4:閉, V5:開
昼:下の池からソーラーで全ての田んぼとハウスに供給
夜:上の池から自然流下で全ての田んぼに供給
・ハウス供給モード2
V1:開, V2:開, V3:閉, V4:開, V5:閉

昼:下の池からソーラーで下2面とハウスに供給、上の池から自然流下で上2面に供給。
夜:上の池から自然流下で全ての田んぼに供給
・チャージオンリーモード
V1:開, V2:閉, V3:開, V4:閉, V5:開

昼:下の池からソーラーで全ての田んぼに供給、余ったら上の池にチャージ
夜:供給停止
・ハーフディスチャージモード
V1:開, V2:閉, V3:開, V4:開, V5:閉

昼:下の池からソーラーで全ての田んぼに供給、余ったら上の池にチャージ
夜:上の池から自然流下で上2面にのみ供給、下2面供給停止
・ディスチャージオンリーモード
V1:閉, V2:開, V3:開, V4:開, V5:開

昼:下の池からソーラーで全ての田んぼに供給、余ったらオーバーフローより流出
夜:上の池から自然流下で全ての田んぼに供給
・サイフォン起動モード
V1:閉, V2:閉, V3:任意, V4:任意, V5:任意
サイフォンを起動させるたのエア抜きの際にする操作
・ソーラーポンプ揚水モニタリング
V1:閉, V3:開

ソーラーポンプの揚水量をオーバーフローで確認する際の操作
・上2面を使わない場合
V4:, V5:

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田植えを始める時、水口にお供えをするそうですが、このシステムにおいてどこが水口に当たるのかよくわからないので、とりあえずジェットポンプの分岐バルブのところにお供えしておきました。

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私は参加できませんでしたが、みんなで手植。

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陸羽132という100年前の品種を無施肥無農薬で栽培します。

◇ ◇ ◇

上の池から下の池+ソーラーポンプまでの管路は約170m程の横引きと約11.6mの標高差があります。この主管路は太さ50mmのフラットホースで引き(みんなで頑張って藪を漕いで敷設しました)、途中で分岐して田んぼ各面のジェットポンプおよびエダクターポンプに供給されます。

下の池からジェットポンプで田んぼへ揚水している様子を動画に撮りました。舞い上がった泥が吸い込まれていくのが分かります。

田んぼの土手の下を流れる沢から、ジェットポンプで田んぼへ揚水している様子です。ちょっと分かりにくいですが、ジェットポンプのストレーナの周りに渦ができているのが観察できます。

吐出口はこんな感じ。(ちゃっかりパネル増えています)

上の池にも下の池にも魚が生息しています。沢水は近くから湧き出たものなので、ミネラルを含んでいます。無動力ポンプを稼働させることで、栄養分を含んだ池の水とミネラルを含んだ沢の水が混合して田んぼに供給されます。

◇ ◇ ◇

秋。

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収穫。

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私はシステムを設計しただけで農作業には参加できませんでしたが、沢山お米を分けていただきました! 初の収穫、目出度い🎉

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精米して実食。

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!!!!!!うまい!!!!!!

というわけで、このシステムで冬季湛水に挑戦してみます。

稲刈り後に再び水を張りました。

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雪が降ったらこうなりました。

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1年を通して水温がほぼ一定の沢と湧き水に比して、夏場は池の水温が高く冬は低くなります。栄養とミネラルのバランスのほか、水温についても池と沢を混合するのは都合が良いです。

吐出口の付近は雪が溶けています。

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普段水流があまりないオーバーフロー管の凍結がちょっと心配。

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来年が楽しみです...

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