見出し画像

サッカーと経済

はじめに

 サッカーと経済の関係について考える場合、サッカーチームの収益構造についての理解が欠かせない。ある一つのサッカーチームの経済の流れが分かれば、サッカー市場にどのようなお金が流れているのかを理解することができるからだ。Jリーグ設立以来、日本のサッカーの市場規模は大きくなってきている。しかし日本のサッカーの盛り上がりはヨーロッパほどのレベルではない。サッカーがより人気を獲得して経済的な影響力を強くする為にはヨーロッパサッカーから学ぶべきところがあるといえるだろう。
 また日本国内のスポーツに目を向ければ、野球の存在を無視することはできない。サッカーは野球と比較すると歴史が浅い。野球チームの多くはサッカーよりも歴史が長く大規模なスポンサーの獲得に成功しているといえるのだ。そしてサッカーと野球には共通点がある。それはスター選手の存在だ。一人イチローのようなスター選手が登場するだけで、経済は大きく動く。イチローはオリックスブルーウェーブから野球人生をスタートさせたわけだが著しい結果を残し、数々のテレビコマーシャルなどに起用されている。そして米国メジャーリーグへ活躍の場を移してからもイチローの活躍は続く。そして今なおイチローは数々の記録を更新し続けている。実はこの話題性そのものが、経済を考える時に非常に大きい。話題性がある選出が一人いるだけで、メディアに取り上げられる機会が増えるのだ。するとチームはスポンサーが付きやすくなる。つまり実力と人気、その両方を兼ね備えた選手がいるチームは利益を確保しやすいと考えられるのだ。
 このスター選手の存在が与えるチームへの影響はサッカーも共通している。本田圭佑や中田英寿など、スター選手がいることでサッカー業界全体が盛り上がるのだ。そしてスポンサーを獲得しやすくなる。しかしサッカービジネスはスター選手だけで支えられているわけではない。ではサッカーと経済は具体的にどのように結びついているのだろうか。
 今回はサッカーと経済の結びつきの詳細について言及していく。またその内容を踏まえた上で今後のあるべきサッカーのクラブチーム運営と経済の関係についても考察していく。

第1章 サッカーの歴史

1節 サッカーの始まりについて
 ワールドカップや企業のイメージアップなど現代のサッカーは資本主義社会と密接に関係している。ではそもそもサッカーの始まりはいつなのだろうか。球状の物体を蹴るという遊びは古くからあるものである。それは世界の一部の地域に限られたものではない。世界中で玉を蹴る遊びは存在していた。FIFAによれば中国では2000年以上前に玉を蹴る習慣があったとされている。また英国ではフットボールについての記述が12世紀頃の文献に残されている。このように考えれば玉を蹴る文化はサッカーが誕生した英国だけのものではないと考えられる。
 では現在のようなサッカーのスタイルが確立されたのはいつからなのだろうか。それは18世紀頃である。18世紀頃の上流階級の子供達が所属するスクールやクラブで教育の一環として導入されたのが始まりだ。しかしながら当時のサッカーは現在のように細かいルールが存在していたわけではない。ただボールを相手のゴールに入れることだけが決まっていて、フィールドの大きさやプレイヤーの人数が規定されているわけではなかったのだ。
 また当時のサッカーは腕を使ったプレーも許可されていた。現在のように足だけでボールを扱うというルールはなかったのだ。現在でいうところのラグビーとサッカーの境界が無いようなイメージだろうか。そして18世紀後半から少しずつルールが規定されていき、現在のサッカーに近いルールとなったのだ。


2節 サッカーが日本でスポーツとして定着した時期
 では日本人が現在のようにサッカーをスポーツとして楽しむようになったのはいつ頃からなのだろうか。それは明治時代になってからである。明治6年ある英国海軍共管が来日した。A.L.ダグラス少佐という人物である。この人物が日本人の海軍軍人に教えたことが日本におけるサッカーの始まりとされている。しかしこの当時サッカーはスポーツとして教えられたわけではない。あくまでも訓練の余暇、レジャーとして教えられた。その後余暇として日本に伝わったサッカーは学校の中に部活動として取り入れられることになる。最初に導入されたのは東京の高等師範学校である。その時はサッカーではなく、フートボール部という名称だった。その後神戸の学校にも蹴球部ができ徐々にサッカーは日本に定着することになる。そして現在では当たり前のように開催されている全国高校サッカー選手権の前身となる大会が開催され始めることとなる。それは1918年、当時はフートボール大会や蹴球大会など、サッカーという名称ではなかったが多くのサッカープレイヤーがその技術を競い合う舞台が用意され始めたのだ。そして1919年に英国から日本にFAシルバーカップが寄贈される。それをきっかけとして日本に日本サッカー協会の前身となる組織が設立された。そこからサッカー人気を少しずつ拡大していき、現在では様々なテレビ番組でも特集されるようなスポーツの定番として認識されている。しかし実は日本でサッカーがスポーツとして認識されてから、まだ100年程度しか経っていないのだ。


3節 サッカーボールが現在の形となった理由
 サッカーボールといえば六角形の白と黒が混ざり合ったボールを誰もがイメージするかもしれない。だがサッカーボールがこの形になったのは1966年以降である。それまでのサッカーボールは六角形と白と黒のコントラストが定番というわけではなかったのだ。では一体どのようにして現在のようなサッカーボールが誕生したのだろうか。その始まりはヨーロッパにある。日本に六角形のボールが入ってくる5年以上前の1960年前後、ヨーロッパでは六角形と五角形を取り入れたデザインのボールが流行した。さらに当時はテレビ放送が開始された時期でもある。当時のテレビは現在のようなカラーではなく白黒である。そのためテレビ鑑賞もしやすいという理由で白と黒のカラー、そして五角形と六角形の組み合わせをデザインされたボールがサッカーで用いられるようになったのだ。まずはヨーロッパで普及したものが、その後日本にも普及したのである。そして六角形のサッカーボールは1968年のメキシコオリンピックで初めて国際大会で正式に採用された。その2年後のFIFAワールドカップでも六角形がデザインされたサッカーボールが使われている。この頃からサッカーボールのデザインは六角形と五角形。そして色は白と黒、という認識が一般的になったと考えられるのだ。


4節 サッカーとフットボールの違いとは
 日本国内ではサッカーとフットボールが同じ意味で用いられることは少なくない。だがサッカーとフットボールは日本国内では厳密には違う意味を持っている。日本サッカー協会は日本サッカー協会である。日本フットボール協会ではない。このことからもサッカーはフットボールとは置換えることができない言葉だと分かる。しかしながら英語表記となるとそこにはフットボールという言葉が含まれる。また日本以外の国の表記に注目すれば実はサッカーではなくフットボールを正式名称としている国が少なくない。そのため日本国内ではサッカーについてはサッカーと表記すべきだが、国際的な場面ではその限りではないと考えられるのだ。

第2章 サッカーの利益はどのように生み出されるのか

1節 本田圭佑と経済
 野球におけるイチローと同じように、大きな経済性をもたらすスター選手はサッカー業界にいるのだろうか。それは本田圭佑である。活躍している期間はイチローの比ではないが、本田圭佑の人気と影響力はサッカーの本場ミランでも大きい。実際に本田圭佑はその実力だけでなく、日本代表という話題性や奇抜なルックスなどで広告塔として招かれた側面もある。
 そして実際に本田圭佑はミランに招かれたことで、すぐにではないが期待通りの活躍をした。本田圭佑がミランに移籍したことで、大きなお金が動き、その財務状況の厳しいチームを立て直すことに貢献したからだ。しかしながらどういう意図で本田圭佑の移籍が決まったのか、ということは実はファンの間ではシビアな問題でもある。なぜなら多くのサッカーファンは本田圭佑のテクニカルな面に魅力を感じて応援しているからだ。資本主義社会においてサッカーに限らずスポーツと経済は、切り離して考えることはできない。しかし話題性など経済優先で本田の移籍が決められたとしたら、サッカーファンの怒りや不満を買うことになりかねない。そのためスター選手の移籍については、確実に経済が絡むがそれを全面的には押し出せないというジレンマがあるのだ。ただ実際に本田圭佑はミラノに移籍してからすぐに結果を出せたわけではない。イタリアサッカーに慣れるまで本田圭佑は苦労を経験している。そのためサッカーファンの中には、本田圭佑をミランがスカウトした理由は、アジアへのマーケティング戦略だった考えるものが少なくなかったのである。実際に本田圭佑がミランへ移籍したことで、日本国内のサッカー事情だけではなくイタリアのサッカーに興味を持つ日本人が増える。イタリアサッカーからすれば本田圭佑の獲得は顧客をヨーロッパ圏だけでなくアジア圏まで広げることにもなったのだ。このようにサッカー選手と経済は切り離すことはできない。そして技術と経済性、どちらか片方だけではいけないのだ。では本田圭佑がミランに移籍したことで実際にどのような経済効果が生まれたのだろうか。それは次の通りだ。

・東洋ゴム工業(TOYO TIRES)がACミランのオフィシャルパートナーとなる
2014年4月に東洋ゴム工業株式会社がACミランのスポンサーとなっている。東洋ゴム工業株式会社のプレスリリースの中に本田圭佑の名前こそ出てきていないが、タイミングから考えても本田圭佑の影響があることは間違いない。ではなぜ一見サッカーとは無関係に思えるタイヤメーカーがサッカーチームのオフィシャルパートナーとなるのだろうか。その理由は単純である。企業のブランディングにとってプラスになると判断されたからだ。大阪市に本社を持つ東洋ゴム工業がビジネスの対象としているマーケットは日本だけではなく世界である。そのため世界的に人気を誇るチームのスポンサーとなるメリットが大きいと判断されたのだ。しかし東洋ゴム工業もサッカーチームであればどこでも良かったわけではない。世界最高峰のセリアAの中でも名門とされるACミランだからこそ、ブランディング効果があると判断したのだ。例えセリアA内のサッカーチームであったとしても、トップ争いに名前が出てこないチームのスポンサーとなったとしてもブランディングの効果は弱い。だがスポンサーとなったサッカーチームで強く、ブランド価値があればそれが企業イメージにスライドされる可能性もあるのだ。そしてサッカーチームのスポンサーとしてマーケティングを仕掛けるのであれば2014年というタイミングはぴったりだったと考えることができる。何故なら2014年といえばFIFAワールドカップの年である。ワールドカップの一年間は普段サッカーファンではない人もサッカーに夢中になる。つまりワールドカップのタイミングでACミランのスポンサーとなっていれば、平時よりもかなり高いマーケティング効果が見込めるのだ。ここで少し想像してみて欲しいのだが、海外で車を運転していて何かしらの事故で急遽タイヤを交換する必要が出てきたとしよう。その時に知らないタイヤメーカーのタイヤと知っているタイヤメーカーのタイヤがあったらどちらのタイヤを選ぶだろうか。ほとんどの人が知っているタイヤメーカーを選ぶはずだ。つまり知っているということは消費者の購買意欲につながるのである。そのためサッカーを用いてスポンサーとしてマーケティングを仕掛ける際はタイミングが大切なのだ。東洋ゴム工業株式会社がセリエAのスポンサーになったタイミングはワールドカップと本田圭佑の移籍が重なったタイミングである。そのため話題性は大きくマーケティング効果も大きかったと考えることができるのだ。また日本企業がACミランとプレミアムスポンサー契約を締結するのはこれが初めてである。ヨーロッパのサッカーチームのスポンサーとして知名度をブランディングする、という手法は東洋ゴム工業によって確立されたともいえるだろう。

・電通がACミランのオフィシャルパートナーとなる
本田圭佑がACミランに移籍したことで結果としてACミランは電通をスポンサーとして獲得することに成功した。これはACミランの一つ戦略だったと考えざるを得ない。何故ならサッカークラブにとってどれだけ優良なスポンサーを獲得できるかで運営状況が大きく変化するからだ。電通の影響力は日本国内に留まらない。ACミランは電通をスポンサーとしたことで運営資金とアジアマーケットの人気を獲得するチャンスを掴むことになったのだ。また電通としても世界的な一流のサッカークラブのスポンサーとなったことでブランディングとなる。本田が移籍したことでACミランと電通の間にはWIN・WINの関係が生まれたと考えられるのだ。

・富士通がACミランとスポンサー契約を締結する
本田圭佑の移籍によってACミランにもたらされたスポンサー契約は東洋ゴム工業と電通だけではない。富士通もACミランとスポンサー契約を締結したのだ。その際にACミランのフランコ・バレージ名誉会長は次のようにコメントしている。「富士通のマーケットは存在感も増すだろう」。そして富士通のマーケットにおける立ち位置が強固になることだけでなく、ACミランも日本における知名度と存在感を高めることに成功したのだ。

・ユニフォームの売上アップ(本田圭佑の背番号10番)
本田圭佑がACミランにもたらした利益はスポンサーによるものだけではない。ユニフォーム販売においてもACミランには大きな利益をもたらしたのだ。2015年から2016年にかけてACミランのユニフォームはクラブチーム別で第10位の売上である。これはイタリアの「カルチョメルカート.com」で発表された結果だが、本田圭佑のユニフォームはACミランのチーム内で最も良い売上を上げていたのだ。ではなぜ本田圭佑のユニフォームが他のメンバーよりも売れたのか。その理由の一つとしてアジア市場への訴求力があったことが考えられる。ACミランの中にも人気選手は何人も存在する。だがそれはあくまでもヨーロッパ市場での話である。アジア市場まで含めた世界規模で見た時に本田圭佑が最も大きな影響力を持つ存在になっていたのだ。クラブチームの運営にはグッズ販売による売り上げはスポンサー同様欠かせないものである。本田圭佑の存在は物販の売上アップにも貢献しているのだ。

・ACミランの日本マーケット参入成功
ACミランはヨーロッパでは一流のチームとして認識されている。しかしアジアにおける人気は一部のサッカーファンに限られているという現実があった。だが本田圭佑がACミランに移籍してきた結果、まず日本人にACミランというクラブチームの存在が広く認識されるようになった。そして前述した通り、ACミランは同時に複数の日本企業のスポンサーを獲得することに成功している。本田圭佑はACミランの日本マーケットの参入にも貢献したといえるだろう。


2節 Jリーグの歴史について
 サッカーの利益について考えるのであれば日本のサッカーを支えてきたJリーグの歴史について振り返ることが欠かせない。Jリーグは1993年から始まっている。だがそれ以前にも日本にはサッカーの実業団は存在していた。日本国内にサッカーの火種が無かったわけではないのだ。但しそれらは全てアマチュアレベルのものだったのだ。プロリーグは存在していなかったのだ。このように振り返ればJリーグができたことの意義はプロリーグができたことにあるとも考えられる。
 ではこのJリーグ設立時点でのサッカーの市場規模はどの程度だったのだろうか。書籍「Jリーグの経済学」の中では次のように述べられている。「市場規模はニッセイ基礎研究所のレポートよりも拡大して一四四四億円としている。(生方,1994,P177)」
 Jリーグ設立当初から既に1000億円を越える市場規模だったのだ。そしてJリーグ設立以降、日本のサッカー市場はどんどん盛り上がることになる。チーム数は増えていき、2015年時点ではJ1,J2,J3を合わせると47チームが存在している。ではそんなJリーグの収益はどのように成り立っているのだろうか。その一つが観客へのチケット販売である。観客へのチケット販売はどのスポーツでも収入源の要の一つである。単純に観客動員数が増えれば販売されるチケットの数も増えていく。ではどうすれば観客動員数は増えるのだろうか。そこには至って単純なロジックが働いている。それは強いことである。強いチームであれば、サポーターも盛り上がり、より応援したい気持ちになるのだ。実際に最下位のチームの観客席を見るとガラガラの場合が少なくない。そのためサッカーで試合に勝つことはただ嬉しい、悔しいという話ではないのだ。試合に負けることは、営業マンが商談で失敗するのと同じことである。契約が無ければ売上は発生しない。サッカー選手は試合に負ければサポーターが離れ、スポンサーにとっての印象も悪くなりかねない。サッカー選手にとって試合に勝つことは直接的に経済と結びついていると考えることもできるのだ。
 その為クラブチームの運営を成り立たせる為には、勝ち続けるチームづくりが欠かせない。では勝てるチームとはどのようなチームなのだろうか。それは強い選手がいるチームである。強い選手が一人いればチーム全体の士気を高めることにもなる。そこにスター性が備わっていれば文句無しである。スポンサーを引っ張ってこられる可能性もあるからだ。サッカー選手の移籍に大きなお金が動く理由はそこにもあるのだ。単純にチームが強くなればチームの経済的な価値が高くなる。そこに大企業のスポンサーが付けば予算が増えてさらに優秀な選手にオファーをかけることができるのだ。そして強いチームを作る為には、実力がある選手を獲得するだけではなく、育てることも必要である。有望な若手選手を早い段階で囲い込み、育てていくこともチームの価値を高める手段の一つだ。しかしこれらの手法は全て予算が必要になる。人を育てる為には、練習する場所を確保してコーチを雇用しなければならない。つまりサッカーチームを強くする為には資金に余裕を持つことが欠かせないのだ。これは逆に資金があれば、サッカーチームはいくらでも強くなる可能性があると考えることができる。お金があっても戦略が無ければ意味がないという意見もあるかもしれない。しかし資金があれば優秀な経営コンサルタントを屋と、もしくはサッカービジネスで実績がある社長を雇用することができる。つまり潤沢な資金があることを強いサッカーチームの条件の一つでもあると考えられるのだ。


3節 運営資金をスポンサーだけに頼る危険性
 サッカーチームが健全に運営される為にはスポンサーの存在が欠かせない。しかしスポンサーだけに頼り過ぎるべきではない。その理由は、スポンサーはたった一つの不祥事やチームの低迷で離れていくものだからだ。企業がスポンサーとして名乗りでる理由はそのほとんどがブランディングである。分かりやすく言い換えればイメージを良くする為だ。企業イメージを良くする為に高額なスポンサー料を支払っているのだ。つまりチームが弱い、もしくはチームの選手が不祥事を起こすようなことがあればそれは直接的に企業イメージ低下につながると判断されかねない。そうなると一瞬で契約が打ち切られる可能性があるのだ。このようなスポンサーの性質を考えると、サッカーチームは運営資金をスポンサーだけに頼るべきではないといえる。チームとして利益を生み出す仕組みづくりも必要なのだ。その為には様々な企業との業務提携やイベントの企画も欠かせない。サッカーチームの運営にはリスク管理を意識した経営手腕が必要なのだ。


4節 Jリーグクラブライセンス制度について
 Jリーグには実力だけでは勝ち残ることができないシビアな制度がある。それがJリーグクラブライセンス制度である。この制度が導入されたのは2013年である。ではJリーグクラブライセンス制度とはどのような制度なのだろうか。それは一言でいえばライセンス条件を満たすことがチームに課せられた制度である。どれだけ強くて人気があるチームでもライセンス条件を満たしていなければ、降格してしまうことになったのだ。そのライセンス条件にはインフラや資金など様々な条件がある。これは分かりやすい表現をすれば資金や資産が無いチームは降格するということでもある。実際に横浜フリューゲルスは強いチームではあったが、チーム自体は消滅している。横浜マリノスと合併されたので全ての選手が解雇されたわけではないが、横浜フリューゲルスというチームは無くなったのだ。

第3章 米国メジャーリーグサッカーについて

1節 メジャーリーグサッカーへの参戦で得られる経済的メリット
 サッカーと経済について考察するのであれば無視できない市場がある。それは米国のメジャーリーグサッカー(MLS)である。米国はヨーロッパの市場と比較しても大きなお金が動く市場なのだ。実際にヨーロッパで人気を博した選手が次の活躍の場としてメジャーリーグサッカーを目指すケースは少なくない。その理由には経済的メリットも含まれていると考えることができるのだ。しかしながらこの認識は一昔前のものだともいえる。なぜなら米国のサッカーのレベルは年々高くなってきているからだ。実際に経済的な利点だけではなく、競争力の高さに魅力を感じて移籍を決めたスター選手は少なくない。
 では米国のメジャーリーグサッカーはいつ始まったものなのだろうか。それは1996年である。日本のJリーグが設立されたのは1992年だ。実は日本のサッカーの歴史は米国よりも古いのだ。そんな米国のメジャーリーグサッカーは順風満帆な歴史を歩んできたわけではない。1994年米国はワールドカップを招致した。そのことでサッカーというスポーツそのものは盛り上がったわけだがメジャーリーグサッカーは設立されてから数年間、中々人気を確立することができなかったのだ。そしてクラブ数も10チームまで減少している。しかしこの流れはあるスター選手の移籍によって大きな変化を迎えることになる。それはデイヴィッド・ベッカムである。ヨーロッパリーグで圧倒的な人気を誇ったデイヴィッド・ベッカムがメジャーリーグサッカーへ参戦したのだ。移籍したチームはLAギャラクシーだが、その契約は特別なものだった。通常メジャーリーグサッカーではサラリーギャップ制が用いられる。サラリーギャップ制とはチームや選手の年棒の上限をリーグが決めるという制度だ。リーグが決めた枠の中でしか報酬を決定することはできないのだ。ところがデイヴィッド・ベッカムが移籍する際にはこのサラリーギャップ制が適用されず、特別指定選手という枠が設けられた。それによりサラリーギャップの枠を超えた年棒が提示されるようになったのだ。その結果メジャーリーグサッカーは有能な世界的なスター選手にオファーをかけることが可能になった。また移籍する選手にとっても現在よりも高いサラリーが受け取れることは魅力である。そして実際にデイヴィッド・ベッカムはこの特別指定選手制度を使ってLAギャラクシーに移籍している。デイヴィッド・ベッカムといえば当時は最も世界で名の知れたサッカー選手である。この移籍は世界的な話題となり、結果的にメジャーリーグサッカーに注目を集めることとなった。
 ではデイヴィッド・ベッカム以降、どのような選手がメジャーリーグサッカーへと参入したのだろうか。その一人がティエリ・アンリである。ティエリ・アンリとはフランス出身のサッカー選手でフランス代表を務めたこともある名プレイヤー。フォワードとしてアーセナル、バルセロナで活躍した。そんなアンリがメジャーリーグサッカーに参入したのだ。移籍したチームはニューヨーク・レッドブルズだがこの時にいわゆるベッカムと同じ特別指定選手として破格のサラリーを手にしている。そしてベッカムに続いてメジャーリーグサッカーに参入した選手としてはもう一人有名な選手がいる。それはアレッサンドロ・ネスタである。アレッサンドロ・ネスタはローマ出身のサッカー選手。ラツィオやミランでも活躍した経験がある名ディフェンダーである。1998年にはセリエAの最優秀選手としても選ばれている。ACミランに移籍する時に動いたお金は3000万ユーロ。この金額の大きさから、アレッサンドロ・ネスタのサッカー市場における価値がどれほどのものだったかを知ることができる。そして2012年にはメジャーリーグサッカーに参入している。移籍したチームはモントリオール・インパクト。アメリカではなくカナダの都市モントリオールを拠点とするクラブだ。アレッサンドロ・ネスタのメジャーリーグサッカーへの移籍となれば話題性も大きい。メジャーリーグサッカーは特別指定選手枠によってアレッサンドロ・ネスタを参入させることに成功したのだ。このように考えればサッカーがビジネスとして成功する為にはスター選手の存在が欠かせない。スター選手はサッカーという市場があることで大きな報酬を受け取ることができ、サッカーをビジネスとするクラブチームはスター選手がいることで、スポンサーの獲得やブランディングを推し進めることができるのだ。


2節 米国メジャーリーグサッカーの歴史
 米国メジャーリーグサッカーの歴史について考えるのであれば、1994年に開催されたワールドカップがその始まりとしても過言ではない。何故なら1994年のワールドカップではメジャーリーグサッカー設立前でありながら、米国はベスト16に進出しているからだ。そして2002年にはベスト8まで勝ち残っている。世界的に見ても米国のサッカーの実力は徐々に上がってきていると考えることができるのだ。また2014年のワールドカップでも米国はベスト16という結果を残している。今や米国は強豪国と呼べるレベルに達しているのだ。そして米国メジャーリーグサッカーの盛り上がりは観客動員数の盛り上がりを見ても明かである。2000年前後は1試合の平均動員数は15,000人程度である。しかし昨今では20,000人を上回るのは珍しいことではなくなっている。観客動員数が増えればチケット代だけでなく、各種グッズやレストランでも売上が発生する。観客動員数が増えることは直接的な利益増につながるのだ。
 ではなぜメジャーリーグサッカーはこのような盛り上がりを見せているのだろうか。その理由として考えられるのは、前述したスター選手の参入である。ヨーロッパで活躍するスター選手がメジャーリーグサッカーに参入したことで、まず確実に選手のファンはメジャーリーグサッカーに興味を持つ。これは本田圭佑がACミランに移籍したことで、多くの日本人がセリエAに関心を持ったのと同じ心理である。実際にサッカーを目的としてヨーロッパまで足を運んだ日本人は少なくないはずだ。またスター選手が参入したことによるメリットはそれだけではない。スター選手は競技技術の向上にも貢献している。良いプレーをする選手がいればそれに触発されてチームメイトの士気も高まる。スター選手の参入が結果としてメジャーリーグサッカー全体の技術の底上げにもつながっているのだ。
 メジャーリーグサッカーが盛り上がった要因はこれだけではない。スター選手の参入だけでなく、メジャーリーグサッカーの施策が上手くいったことも成功の要因の一つである。ではメジャーリーグサッカーはどのような施策を行ったのだろうか。それは次の通りだ。

・スタジアムの利便性を活かした
米国は元々スポーツ大国である。野球、バスケットボール、フットボール、ホッケーの4大スポーツに関しては世界でもトップクラスのリーグを有する。スポーツの人気を高める手法や顧客を酔わせる手法、利益を出すことについて群を抜いて長けているのだ。そしてこれらのスポーツで培ったリーグの運営ノウハウはメジャーリーグサッカーにも活かされることになる。観戦目的に来場した顧客に娯楽を提供し、ターゲティングなどのマーケティング戦略も徹底されていたのだ。

・マーケティング戦略がしっかりと構築されていた
米国で古くから存在する4大スポーツには高齢のファンも少なくない。そこでターゲットを明確に若年層に絞り、SNSなどネットを中心としたメディアを使い若年層を取り込んでいったのだ。またチケット販売に関しても、徹底した販売員への教育を取り入れることでチケットのセールスを成功させた。もちろんリピートを意識した飽きさせないイベントにも力を入れている。しっかりとしたマーケティング戦略が構築されたからこそ、メジャーリーグサッカーは現在の人気を獲得できたと考えることもできるのだ。


3節 現在のメジャーリーグサッカーについて
 現在の米国メジャーリーグサッカーは運営に成功していると考えることができる。その理由は前述した通りだが、メジャーリーグサッカーでは好循環が生まれているからだ。デイヴィッド・ベッカムの参入から観客数が増え、メジャーリーグサッカー全体の競争力が高くなった。それに応じて人気が高まり露出が増えることでスポンサーが獲得しやすくなっている。そしてスポンサーが付けば予算が大きく増えることになる。その予算でさらなるスター選手をメジャーリーグサッカーに招くことができるのだ。このような好循環が続くことで新しい動きが生まれ始めている。それはヨーロッパで活躍した選手が次の活躍の舞台として、メジャーリーグサッカーを検討し始めたことである。また米国出身でありながら、ヨーロッパリーグで活躍している選手は少なくない。そういった選手が祖国への里帰りも含めて米国内での活躍を希望するケースも増えてきたのだ。キエーヴォ・ヴェローナで活躍したマイケル・ブラッドリーもその一人である。ヨーロッパリーグで活躍して知名度と実力を身に着けた後、再びメジャーリーグサッカーに舞い戻ったのだ。ジョジー・アルティドールもマイケル・ブラッドリーと同じような動きをしている。ジョジー・アルティドールは元々米国のニュージャージー州出身である。そもそものデビューはメジャーリーグサッカーのニューヨーク・レッドブルズだ。そこからヨーロッパへ活躍の舞台を移している。しかし7年程度ヨーロッパで活躍した後、再びメジャーリーグサッカーに戻ってきているのだ。このように自国出身のサッカー選手が自国に戻って活躍したいと思うのは良い傾向である。何故ならずっと米国内で活躍してきた選手よりも世界的な知名度があり、またヨーロッパや海外からスポンサーを獲得するチャンスも高まるからだ。メジャーリーグサッカー運営の視点に立てば、海外進出を成功させた選手は金の卵とも考えられるのだ。
 しかしながらこのようなメジャーリーグサッカーの運営方針に対しては否定的な評価が下される場合もある。その一例が年金リーグとしての評価である。前述したように、ほとんどのスター選手は最もコンディションが良い時期はヨーロッパリーグで活躍する。ある程度年齢を重ねてパフォーマンスが落ちてきた段階でメジャーリーグサッカーに参入しているという実情もあるのだ。実情は不明だが、実際はヨーロッパリーグで通用しなくなってメジャーリーグサッカーに参入したとしても、提示される年棒はヨーロッパリーグに引けをとらない。数億円単位の年棒が提示されているのだ。ある程度の年数を活躍したサッカー選手であれば第二の人生を考える必要がある。その資金稼ぎとしてメジャーリーグサッカーが選ばれている、という見方もあるのだ。そして今後もメジャーリーグサッカーは伸びていくことが予想できる。その理由は米国の持つ経済力だ。米国は世界有数の経済大国である。軍事力においては他国よりも群を抜いて優れている。またエンターテインメントのレベルは世界一である。そういった大国で優雅な暮らしをすることは、ステータスにもなる。米国という環境がプライドの高いスター選手の自尊心をくすぐる可能性がある。そのため米国のメジャーリーグサッカーは今後も経済的に成長していくと考えられるのだ。


4節 メジャーリーグサッカーカップはビジネスチャンス
 メジャーリーグサッカーには毎年、年間王者を決定するためのイベントが行われる。それがメジャーリーグサッカーカップだ。メジャーリーグサッカーには20のクラブが存在する。この20のクラブが東と西に分かれて、まずはレギュラーシーズンを戦う。そして東と西からそれぞれ6位以上のチームがプレーオフを競うのだ。このメジャーリーグサッカーカップが面白いポイントはリーグ戦ではなく、トーナメント形式であるところだ。上位6チームでトーナメント戦を行い、西と東の王者をまずは決定するのだ。そして決勝戦は西と東の代表が対決する。このような順序で試合が開催されていくのだ。このような形式の試合は決勝に近づくほど、顧客を集めやすくなり、世間からの注目も集まりやすくなる。そうなると広告主を集めやすくなるというメリットもあるのだ。メジャーリーグサッカーカップはメジャーリーグサッカーにとってビジネスチャンスでもあるのだ。

第4章 地域経済の活性化とスポーツの関係

1節 サッカーは地域経済を活性化させる
 サッカーと経済の関係について考察するのであれば、今の日本社会では外せないことがある。それは地域活性化についてだ。実は人口減少に悩む地域を活性化させることに対してサッカーには効果的なリソースがいくつもある。その一つはスタジアムの存在だ。地方都市に一つ新しいサッカーチームとスタジアムができるだけで、その近隣エリアは経済的に潤う可能性が高い。スタジアム周辺に人の流れができるからだ。試合当日は当然だが、それ以外の平日でもスタジアムは利用される可能性が高い。サッカー以外の音楽イベントが催されるケースもある。仮に商店街の近くにサッカースタジアムが新設されたらどうだろうか。近くに大規模な商業施設が無ければサッカーの観客が訪れることが予想できる。そしてJリーグが1シーズンで動員する顧客数は約1000万人である。この数字はワールドカップなどが重なればより飛躍する可能性がある。このようにサッカーチームの存在は地域経済の活性化に密接に関係していると考えることができるのだ。


2節 経済を動かすスポーツは限られている
 サッカーが経済と密接に関係していることは前述した通りである。しかし経済を動かせるスポーツはそう多くはないことを忘れてはいけない。例えばオリンピックなどの世界大会で注目されるバレーボールについて考えてみよう。確かにバレーボールは国際大会では非常に盛り上がる。しかしVリーグはサッカーや野球ほどの盛り上がりを見せていない。テレビ放送の頻度やスポンサーの数、イベントの動員人数。そのどれをとってもサッカーや野球ほどのものではない。資本主義社会でスポーツがお金を生み出すルールはたった一つである。人気とスポンサーを獲得していることだ。そのどちらかだけではいけない。人気があるだけではお金にはならない。人気がブランディングやマーケティングとなることを企業に伝え、スポンサーとなってもらう必要があるのだ。そういった意味ではスポーツでどれだけお金を生み出すことができるのか、それは業界団体にかかっているとも考えられる。日本のサッカーを盛り上げるのはここのクラブチームだけではない。日本サッカー協会によるサッカーの普及が必要なのだ。このようなことから考えればスポーツが経済を動かす為に必要なのはスター選手だけではないことが分かる。ITを駆使したマーケティング、広告を活用した宣伝。そういったものが重なり初めてスポーツは経済を動かすことができるようになるのだ。


3節 女子サッカーが経済に与える影響
 男子サッカーはJリーグ発足以降、ある一定の人気を獲得し続けることに成功している。その要因はマーケティングの上手さとスター選手の存在である。またワールドカップが日韓合同で開催されるなど、Jリーグができてからの男子サッカーの歴史は比較的順調だったと考えることができる。そして実際にサッカーチームが動かす経済規模は大きい。それは選手に還元されている年棒の大きさからも予想できることである。しかし女子サッカーはそうではない。女子サッカー選手の年棒は極めて低い。日本代表に選ばれる選手ですら、アルバイトをしなければ生活できないほどのサラリーである。2015年に日本の女子サッカーはワールドカップで準優勝という成績を残している。それでも男子サッカーとの待遇の差は歴然なのだ。現在の女子サッカーがもたらす経済効果は、男子サッカーと比べれば小さいと考えざるをえない。では女子サッカーが今よりも経済を生み出す為にはどのようなことに取り組む必要があるのだろうか。それは選手自身ができることと、できないことがある。選手ができることとしては、マスコミへの売り込みがある。選手というブランド価値を活かして、自分をテレビや取材に使ってもらえるように売り込むのだ。これはかなりのセンスとユニークな個性が必要だが、それができればマスコミ関係から高額なフィーを獲得できる可能性が高い。経済を動かす為にもう一つ必要なことがある。それは各サッカー協会が女子サッカーのブランディングにもっと予算を費やすことである。スポーツをビジネスにする為にはイメージを売り込むことが欠かせない。そのためには新聞、テレビ、ネット媒体など、あらゆる心象操作ツールを使いこなす必要がある。ただし大規模なマーケティングをする為には大きなお金が必要になる。そういった意味ではサッカー協会は女子サッカーの収益性を高める為にも、より女子サッカーのブランディングが必要だと考えられるのだ。しかしワールドカップが終わったのは昨年20115年である。このタイミングで女子サッカーを盛り上げることは容易なことではない。そのためサッカー協会が女子サッカーのブランディングを仕掛けるなら、次のワールドカップに合わせてよりスポンサーの獲得を視野にいれたマーケティングに取り組む必要があるといえるだろう。


4節 ラグビーと経済から考えるマスコミの重要性
 近年スポーツがもたらした経済効果について考えるのであれば、ラグビーについても無視はできない。ワールドカップで日本が活躍したことで一時期マスコミがこぞって男子ラグビーを取り上げたからだ。しかしここでラグビーが盛り上がった本当の理由を理解していなければスポーツとビジネスを結びつけることはできない。ラグビーのスポンサー企業がブランディングに成功して、ラグビー選手がテレビ番組への出演でまとまったフィーを獲得できた理由はマスコミが取り上げたからである。仮にラグビーがワールドカップで前代未聞の快挙を成し遂げたとしても、新聞やマスコミ各社がピックアップしなければ誰にも知られることはない。ネットメディアによって小さな規模で扱われることはあるかもしれない。しかしそれだけでは経済に大きな影響を与える大企業の予算が動くことはないのだ。その点マスコミのスポンサーはそのほとんどが日本を代表する大企業や世界的な企業ばかりである。またGHQの日本人愚民化政策にとってスポーツは重要である。3S政策としてダグラスマッカーサーがスポーツを使うことを指導したのはあまりにも有名な話である。スポーツマスコミの力でスポーツに日本人を夢中にさせて愚民化することはマスコミ各社が代々受け継いできたミッションでもある。スポーツは経済を動かすだけではなく日本人を愚民化させるツールでもあるのだ。そのためスポーツを経済に結びつけることを考える際にマスコミの存在は無視できないものなのだ。

5節 サッカーワールドカップの経済効果
 サッカーと経済について考えるのであれば、無視できない大きなイベントがある。それはサッカーワールドカップである。ではワールドカップを開催することでもたらされる経済効果はどの程度のものなのだろうか。文部科学省が公表している「サッカーワールドカップの準備・開催による経済効果一覧」によれば2006年に開催されたドイツワールドカップの経済効果は次の通りである。

・直接効果だけで2,500億円
・生産波及効果は4,000億円
・経済効果は4,171億円

 ちなみに2002年に開催されたサッカーワールドカップの経済効果は3,690億円である。たった一度のサッカーワールドカップで3、000億円以上の経済効果があるのだ。他の日本国内で開催される国体は、経済効果のほとんどが数百億円規模である。そこから考えるとサッカーワールドカップがどれだけ大きな経済効果をもたらしているのかが分かる。


6節 サッカーチームがあることで地域にもたらす経済効果
 ではサッカーチームがあることで、地域にもたらす経済効果にはどのようなことがあるのだろうか。まずはサッカーチームにちなんだ関連商品が売れる可能性がある。それは何もサッカーチームが販売するグッズに限られた話ではない。例えばサッカーチームの拠点の近くに商店街があったとしよう。その商店街の中の洋食屋が「サッカー定食」といったニュアンスのサッカーチームを応援するようなメニューを開発したらどうなるだろうか。一般の顧客は興味を持たないかもしれないが、熱心なサポーターなら一度は注文するだろう。またその他にもチーム名をもじった商品やサービスを提供すれば購入される可能性がある。サッカーチームが地域にあるメリットはそれだけではない。それは観光客の増加である。遠方からサポ―ターが応援に来た場合、そのうちの一定数は宿泊して観光する。そうなると地域にもたらされる経済効果はより大きなものとなる。レンタカーを借りればレンタカー業者が儲かり、公共交通機関を使えば私鉄やバス会社に利益がもたらされる。観光客がただ移動するだけでも地域の経済は活性化していくのだ。その中でも特に大きな利益が見込めるのはホテルや旅館である。サポーターが集団で宿泊すればそれだけで満室になる可能性がある。満室になれば普段は空室になりがちなロイヤルスイートなどの高額な部屋も埋まりやすくなるのだ。また観光客が増加すれば、その観光客をターゲットにした新しい企業を地域に誘致できるかもしれない。つまりサッカーチームの運営は直接的に地域の経済活性につながると考えられるのだ。
 またサッカーは日本以外の紛争が起こるような政治状況が不安定な国においては、経済的な効果以外の影響を国民に与えるケースがある。それは希望である。国家の状況が不安定な時にワールドカップなどで自国の選手が活躍することで、人々はその姿に希望を見出すこともができるのだ。書籍「サッカーと独裁者」の中に次のような一文がある。「不安定な社会状況のなかで、彼らはジンバブエ国民が渇望していた、健全な精神と成功という結果をわずかではあっても与えてくれた。(スティーブ,2011,P278)」
 サッカーは国によっては強いチームが存在するだけで、国民の健全な精神を培うことに役立つ場合があるのだ。


7節 サッカーと教育ビジネス
 サッカーには教育ビジネスとしての側面も存在する。ワールドカップやスポーツニュースがマスコミに頻繁に取り上げられることで、それに感化されてサッカー選手を目指す子供は少なくない。または親が子供をサッカー選手にする為にサッカー教室に通わせるケースも存在するはずだ。さらにサッカー教室をビジネスとして成功させる為にはプロ選手の活用も効果的である。知名度がある選手がサッカー教室のイベントにやってくるとなれば、それだけでも話題性は充分である。興味本位でイベントに参加した子供がサッカー教室に参加したくなれば運営側としては狙い通りだ。そしてサッカー教室に通った生徒が実際にプロになればサッカー教室のブランディングにもなる。サッカー教室もサッカーチームの運営と同様にスター選手が必要なのだ。またサッカー教室がビジネスとして成立することで新たに生まれるビジネスがある。それはサッカー指導者を教育するというビジネスだ。実際に東京工学院専門学校ではサッカービジネスコースがある。専門学校でサッカー業界へ就職する方法、もしくはサッカーのコーチになる方法を守るのだ。こういった専門学校の学費はそのほとんどが私立の大学と同程度である。教育者を教育するというビジネスも存在しているのだ。
 そしてもう一つサッカーがビジネスとした成立する可能性があるマーケットが存在する。それはセラピーとしての側面である。日本では近年自殺者の増加が問題視されている。しかしサッカーが盛り上がれば自殺の抑制につながることがヨーロッパでは発見されているのだ。サイモン・クーパーとステファン・シマンスキーの書籍の中に次のような一文がある。「代表チームがワールドカップや欧州選手権を戦っているときには自殺者が少なくなっていることがわかった。(サイモン,2010,P273)」
 実はサッカーには自殺という社会問題の解決の糸口となる可能性があるのだ。もしこのサッカーの効果が日本でもより広く認識されたら、サッカーの新たな価値が生み出されると考えられるのだ。

考察、まとめ

 ここからは本論文の主題である、今後のあるべきサッカーのクラブチーム運営と経済の関係について考察していく。ここまでの内容を踏まえた上で、私が考える今後あるべきサッカークラブのチーム運営は次の通りだ。

・選手にもマーケティングの意識を持たせる
サッカーが今よりも社会に経済的な影響をもたらす為には選手にもビジネスセンスを身に着けさせる必要がある。その理由はただ試合に勝つだけでは観客を本当の意味で満足させることができているとは考えられないからだ。プロレスほど観客を意識する必要はないかもしれない。しかし少なくとも一人ひとりの選手が観客を満足させるという目的意識を持つことはこれからより求められることになる。観客を興奮させることができなければ、サッカー人気は衰退する可能性がある。インターネットが普及した昨今では人は自分が最も関心があるコンテンツを閲覧することに時間を費やす。そのためサッカー観戦がユニークなものでなければ、現在のサッカーファンも将来的には離れてしまうことが予想できるのだ。もちろんスター性がある選手はこのことを理解している。そのためゴールを決めた瞬間に話題になりそうなダンスを踊る、もしくはパフォーマンスをすることで観客を興奮させている。このようなパフォーマンスが全ての選手に必要なのだ。試合の勝ち負けだけではなく、試合に負けてもサポーターが満足するような試合をすることで、観客の動員人数を伸ばせる可能性があるのだ。

・プロを目指す子供にもマーケティングを学ばせる
サッカー業界がより多くの利益を確保する為には、プロを目指す子供や学生にもマーケティングを理解させる必要があると考えられる。その理由は将来的にプロ選手となったとしても、マーケティングやブランディングの視点が無ければ本当の意味でのチームの利益につながる貢献ができないからだ。基本的なブランディングの手法を理解しておけば、チームが意図しているイメージ戦略を崩さないような配慮ができるようになる。また自分自身をブランディングして選手としての価値を高めることもできる。サッカーを上達する為に基本的な身体能力を高めてボールコントコールのテクニックを身につけることは誰もが取り組むことである。サッカーで稼ぐことを考えるなら、それと同様にサッカー選手を目指す子供達も資本主義の構造やスポンサーからの出資や利益が出るポイントを理解する必要があると考えられるのだ。

・サッカーチームでメディア運営を始める
サッカーチームがしっかりとした利益を確保する為には、メディア運営も欠かせない。ネットインフラが整っていない時代はマスコミの報道に頼るしかなかったのかもしれない。だが動画配信やネットメディアを所有することが簡単になった昨今ではメディア運営は決して難しいものではない。そのためサッカーチームは今後メディア運営を主軸としたマーケティング戦略により力を入れていくことが欠かせない。ネットメディアで強固なものを築くことができれば、そこから広告収入やサポーターの募集、グッズの販売など様々なキャッシュポイントを構築できるようになる。そのため今後のサッカーチームの運営にはメディア運営が欠かせないと考えられるのだ。

 このようにサッカーをビジネスとしてより盛り上げていく為には、スポーツ選手にもビジネスマンとしてのマインドが必要になると考えられる。ただ試合に勝つだけで観客を満足させられるほど世の中は甘くはない。スポーツを純粋に楽しみたい場合、それはビジネスではない。しかしサッカーをビジネスとして取り組むのならそこに関わる一人ひとりがマーケティングの知識とサッカービジネスの利益の構造を深く理解する必要があると考えられるのだ。

参考文献一覧

・サッカーと独裁者 スティーヴ・ブルームフィールド 白水社(2011/12/15) 
・Jリーグの経済学 生方幸夫 朝日新聞社(1994/3/15) 
・基本論文一覧
https://www.reportsell.com/reportlist
・「ジャパン」はなぜ負けるのか 経済学が解明するサッカーの不条理 サイモン・クーパー,ステファン・シマンスキー 日本放送出版協会(2011/3/25)
・サッカーダイジェストウェブ 【連載】ミラン番記者の現地発・本田圭佑「本田がミランにもたらした経済効果を考えよう」
http://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=7005
・TOYO TIRES プレスリリース
http://www.toyo-rubber.co.jp/news/2014/140411.html
・フットボールチャンネル 本田、ユニフォーム販売で多大な貢献。ミランが世界売上ランクで10位に
https://www.footballchannel.jp/2016/07/26/post165760/
・公益財団法人 日本サッカー協会 サッカーはいつ始まったの?
http://www.jfa.or.jp/info/inquiry/2011/11/post.html
・SOCCER KING 【コラム】なぜ、スター選手がMLSに参戦するのか? “お金だけじゃない”魅力とは
https://www.soccer-king.jp/news/world/world_other/20161026/507520.html
・文部科学省 第2章 スポーツ大会等実施による経済効果
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/sports/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/12/08/1353860_3.pdf#search=%27%E3%82%B5%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC+%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%8A%B9%E6%9E%9C+%E7%B5%8C%E6%B8%88%E7%94%A3%E6%A5%AD%E7%9C%81%27

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?