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W杯ドイツ代表が口を押さえて抗議


カタール・ワールドカップ2022初戦。
日本と対戦したドイツ男子代表が、スタート時にした「口押さえ」ジェスチャーの抗議が日本で話題になっていた。でもドイツ国内では代表選手の行動は大して評価されてない。
それは何故なのか。 

そもそも、今回のワールドカップは最初からあまり盛り上がってもいなかった。「カタールW杯をボイコット」の垂れ幕がドイツ中のスポーツバーやカフェで見受けられ、パブリックビューイングもない。移民労働者が劣悪な環境で働かされて作られたアレーナで、むりくり開催されるイベント。人権無視の国で開催される黒い金まみれのワールドカップを支持したくない……。
テレビ視聴率も最初から全くふるわなかった。(4年前のドイツ戦3回の視聴率平均が2500万人、グループ予選日独戦は約900万人)

この抗議はレインボーカラー のハートの中に1と描いた「One Love」腕章 (人権の尊重や女性の権利、そしてホモフォビア(同性愛嫌悪)や人種差別に反対し、寛容性や多様性のためのメッセージを送るためのキャプテンマーク)の着用を使用した場合、FIFAがなんらかの罰則処分をするとしたことに対するものである。

まず「One Love」腕章自体の問題がある。
この腕章はそもそもLGBTQ多様性支持を明確に表すレインボーカラーの腕章の使用にFIFAが難色を示したためにひねりだした代案であった。
9月、ドイツサッカー連盟はこの「One Love」腕章を着用することを発表。
ドイツ、イングランド、オランダ、ベルギー、スイス、ウェールズ、フランス、デンマークの7か国のチームが連帯することになっていた。代表GKマヌエル・ノイアーはそれに対し、こう語っている。

「どこから来たのか、どんな見た目なのか、誰を愛しているのかに関係なく、サッカーへの愛が私たち皆を結びつけている。サッカーは皆のために存在する。サッカーは、世界中で差別され、排除されていると感じている全ての人のために存在しなければならない。ほかの国のキャプテンたちと共に、このメッセージを送れることを誇りに思う」
Manuel Neuer am 21. September 2022

そして、FIFAのドタキャンの問題。
9月の時点でこの代案をスルーしたFIFAだったが、突然開催間近になってこの着用に罰則を出すようなことを匂わせた。
しかしFIFAのルール4によれば「政治的、宗教的、個人的なスローガンや画像」は禁止だが同ルールの中で「サッカー、リスペクトと清廉潔白を後押しする運動のエンブレム」は許可するとある。
さて、この「One Love」腕章はFIFAルールに引っかかるのだろうか?

FIFA会長のジャンニ・インファンティーノはワールドカップの開催の際に様々な言語で「サッカーを祝おう。何故ならサッカーは世界を結ぶからだ」と言っている。
その答えは明白である……はずだ。

しかし11月21日、その予想は見事にひっくりかえされる。
W杯2日目イングランド代表の試合の数時間前、FIFAから「One Love」腕章の着用に対し何らかの制裁がある(かも)ーという通達があったというのだ。イングランド代表はリスクを避け、腕章の使用を取りやめた。
タイミングといい、これはFIFAが欧州7か国のチームに対し、権力を見せつけたいがための行為だろう。

それを聞いたドイツサッカー連盟は、直接FIFAに抗議するでもなく腕章の使用をストップした。ドイツサッカー連盟のメディア担当は、ほかの国と連帯したい、即決しないといけなかったといいながら、その後、FIFAに降伏したと責められると「シンボルは失ったがその価値自体を失ったわけではない」と苦しい言い訳を展開した。

「だって、選手たちは4年もこのワールドカップのために練習してきた。彼らのキャリアの中でも最高点なのだ。」
イエローカードをもらうかもしれないリスクがあるのに腕章着用しろとはいえないよね、というわけだ。
「カタールでワールドカップが開催されることが決まった時は、選手の多くは子どもだった。彼らはどうしようもないじゃないか」

イングランドと対戦したイラン代表は、家族や自分たちの立場が危うくなる可能性を理解した上で、イラン国歌を歌わなかった。イラン国内での試合放映はストップし、反国家のプロパガンダとして選手が逮捕されたとAFPが報道している。
(イラン国内ではイラン代表はW杯スタートまで特に反対の意を表明するでもなかったため、そこまで評価されていない。「でもまあドイツ代表に比べれば・・・」
彼らとドイツ代表をどうしても比べてしまう。命がけでもないのに腕章のひとつもつけられないの・・・?度胸がないね!(Sie haben keine Eier)と、試合前に各所でネタにされていた。
例えば下記のドイツの虚構新聞Der Postillonの記事である。
Hoden sind für guten Fußball keine Voraussetzung. Das sieht man beispielsweise bei der Frauennationalmannschaft. って(笑

さてそんな背景を踏まえての、口の前を抑えるジェスチャーである。

キャプテンの腕章を通じて、私たちが代表として生きている価値観を示したかった。多様性とお互いをリスペクトすること。他の国々とともに声を上げる。政治的なメッセージではない。人権は交渉の余地がないというのはもう自明のことなはずだ。しかし残念ながらまだそうではない。だからこそ、このメッセージは私たちにとってもとても重要なのだ。
私たちに腕章の着用を禁止するということは、口を封じるということだ。

DFB-Team 11月23日のTwitter

人権や多様性を支持するメッセージというより、FIFAから腕章着用を止めろと言われたことに対するちょっとした抵抗って感じ?
うーん。
これまで、多様性を尊重すると大々的に表明してきた選手が多いのに、この程度?
これまでの活動も世相を読んでの表面的なキャンペーンだったのかな・・・と思われてもちょっと仕方ないかもしれない。

サッカー(スポーツ、文化などもそうかも)に政治を持ち込むな、という意見がある。
しかしサッカーに政治を持ち込んだのはFIFAでありDFBであり、選手たちだ。自分たちに都合がいい時だけ政治的なメッセージを使い、都合が悪くなるとスポーツと政治は切り離すべきだといい出す。そんな「政治」もないものだ。
欧州サッカー連盟(UEFA)のレインボー騒ぎを思い出す。

デンマークやフランスのチームからもFIFAから脱退すべきという声が上がっている。ほんとそこまでやったらいいと思う。

参照:Lage der Nation のPodcast 
「自分たちで口を抑えているので話せません!」のアピール?と言われてたけど。ほんと、そういう感じに思えてしまう。

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