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凸凹夫婦

嫁とは出会って3ヶ月で結婚したから、正直相手のことはそこまでよくわかってなかった。

2人とも「金持ち父さん 貧乏父さん」が愛読書で、ちょっと人とはずれた笑いツボの持ち主で、気が合うとは思っていた。

でも結婚してしばらくして、相手のことがわかってきた。

僕たちは、凸凹夫婦だ。

育った環境が違う

僕と嫁は国際結婚だ。

僕は仙台生まれ、仙台育ち。嫁はベトナムのホーチミン生まれ、ホーチミン育ちだ。

ベトナムは今でこそ発展してきたけど、嫁が子供だった頃は家に冷蔵庫がなかったし、写真は全部白黒だった。

僕たちが5歳の頃の写真を並べると、まったく違う時代の写真に見える。

昔の嫁の家は食べ物にいつも困っていたから、カエルを採りに行かされたり、飼っていたペットのウサギがある日食卓に並んだなんて話が普通にあったらしい。

僕が仙台でビックリマンシールに夢中になったり、ミニ四駆で遊んでいた時の話だ。

まさにパラレルワールド。

これだけ育った環境が違うと、色々なところで根本的に感覚が違っていることがある。

僕はわりと他人を信用しやすい人間だけど、嫁は簡単には他人を信用しない。

僕がお小遣い制なのは、その辺に事情がありそうだ。

味覚が合わない

嫁とのニ回目のデートは、ニューヨークの焼鳥大将だった。

嫁のチョイスだ。

「何で焼鳥屋さんなの?」 

と聞いたら、

「焼きおにぎりとタコわさがあるから」

と教えてくれた。

焼鳥屋じゃなくてもあるんじゃないかと思いながらも、日本食が好きなら上手くいくかもしれないと期待した。

僕らは結婚するまでに数えられるくらいしかデートしなかったけど、一度だけ彼女が僕の家で手料理を作ってくれた。

チキンサラダとグラスヌードルスープだった。

僕が食べたことがない料理だったけど、どっちも美味しかった。

うかつにも、この子と結婚しても美味しい手料理が食べられるに違いないと期待してしまった。

結婚して一緒に住み始めて、これが大きな間違いだったことがわかった。

嫁は料理が得意じゃない。むしろ苦手な方だと思う。

チキンサラダは、彼女が作れる数少ない料理の中でも一番得意な料理だった。

今でも、たまに料理を作ってくれる時は、大抵チキンサラダだ。

美味しいから文句はない。

僕はわりと料理が好きな方だから、わが家の夕食は僕が作る。

でも、ちょっとでも味が自分好みじゃないと判断すると、味見すらしてくれない。

味の好みが全然違うようだ。

僕はカレーライスが好きでよく作るんだけど、日本のカレーライスはベトナム人の口に合わないらしい。

ベトナムにもカレーライスはある。

あるんだけど、かなりサラサラしたスープカレーみたいな料理だ。

ベトナム人には、日本のカレーのようにドロドロしたのはカレーに見えないらしい。

逆に僕が食べられないベトナム料理もたくさんある。

先ず料理じゃないけど、ドリアン。

ドリアンは人の頭くらいのトゲトゲした果物で、とにかく臭い。

切った瞬間に、腐っているような、ガスが漏れているような強烈な異臭が立ち込める。

東南アジアのどこかの国の地下鉄には、「ドリアン禁止」の注意書きがあると聞いたことがある。

それくらい強烈だ。

僕が初めてドリアンを体験したのは、最初のクリスマスに彼女の家に遊びに行った時だった。

ドリアンを包丁で割りながら振り返った彼女は、こう言った。

「ドリアンを食べれなければ、私たちの関係はお終いね」

僕は引きつった笑顔で二切れ食べた。

味は覚えてない。

そしてシュリンプペースト。

これも強烈な臭みがあるペースト状のソースだ。

これが入っている料理は、腐っているとしか思えない。

生活のリズムが合わない

僕は朝方、嫁は夜型だ。

僕が起きた時に嫁がまだ起きているなんてことがよくある。

生活のリズムがまったく合わない。

子供が生まれてから何度か朝方に切り替えてもらうべく説得を試みたけど、夜型の生活リズムはどうしても譲れないらしい。

話しあっても喧嘩にしかならないから、生活のリズムはアンタッチャブルになりつつある。

この頃ちょっとはマシになったけど、いまでもお互いの活動時間には日本とハワイくらいの時差がある。

考え方が全然違う

たぶん一番違うのは、考え方かもしれない。

僕は会計士でバリバリの論理タイプ。

嫁はマーケターで芸術肌の直感タイプ。

直感タイプと話していると、気づかないうちに話題が飛んでいて何を話しているのか分からなくなる。

たぶん本人の頭の中では筋道の通った会話が継続しているんだろうけど、聞いている方は5分おきくらいに何の話か確認しないと、置き去りにされる。

僕は、嫁が何の話をしているのか分からなくなったら、笑顔でうなずくようにしている。

こういう時は、無理にツッコまない方が無難だ。

大抵の場合、嫁はしばらく話してから満足して帰っていく。

論理タイプと直感タイプが議論をすると、必ず論理タイプが勝つ。

勝つんだけど、論理で直感タイプを動かすことはできない。

論理でゴリ押しして勝っても、何も得られるものはないということに最近気がついた。

未だに新しい発見がある

まぁこれだけ性格も趣向も違う二人だけど、今月末で結婚7年目だ。

結婚生活も最初の3年はまだハネムーン期間というか、基本的に喧嘩はしなかったし仲が良かった。

でも4年前に息子が産まれて、二人の関係はガラッと変わった。

子供が優先順位の上位を占めるようになったからかもしれない。

僕と嫁は、子供をどう育てていくかで、しょっちゅう衝突するようになった。

子供に関してはお互い譲れないところがあるから、今まで出なかった本音が出るわ出るわ。

この人こういう人だっけ?

と思いたくなるくらい、嫁の新しい一面に気づかされる。

向こうもきっと、僕の本性に多少驚いているはずだ。

最初の危機

ここ数週間の新型コロナの影響で、来月以降の嫁のビジネスの収入がゼロになることがわかった。

それでもビジネスの固定費は待ったなしだ。

家計に大きな負担がかかることがわかり、この状況が長引いた場合にわが家が自己破産するまでにどのくらい猶予があるのかを、真面目に計算してみた。

僕らにとっては、初めて経験する大きな危機だ。

こういう大きな問題を前にすると、お互いの性格の違いなんて些細な問題に思えてくる。

この危機をどうやって乗り越えるかを、何度も話し合った。

今回のコロナの問題を前にして、お互いの良い所がよく見えるようになったし、お互いをよく補完しているんだなということがよくわかった。

嫁は、とにかくメンタルが弱い。とくにお金が絡むストレスには脆弱だ。

僕はストレスには強くてちょっとのことでは動じない。

僕は半年後、一年後のシナリオを分析して大まかな方針や大胆な方向転換を決めるのが得意だ。

ポストコロナの混乱に備えるために、先ずは子供をホームスクールに切り替える決断をした。これで毎月10万円くらい生活費に余裕ができる。

この判断は僕がして、嫁を説得した。外出禁止令が出る前のことだ。

僕は細かな作業は得意じゃない。これは嫁の得意分野だ。

すぐに住宅ローンの支払いを遅らせる可能性について確認し、生命保険やホームエクイティローンからいくら現金を調達できるのかを確認してくれた。

本当に頼もしい。

今回の新型コロナによるロックダウンと不況は、僕らの結婚生活にとって最大のピンチだ。

このピンチを前に、結婚7年目の凸凹夫婦は、今日もお互いの新しい一面を発見している。

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