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お金持ちに学ぶ家族運営

僕の会社のお客さんは、年商100億円から1000億円くらいのいわゆる中堅から大手企業が多い。このくらいの規模の会社だと、創業一族が経営している同族企業がけっこう多い。そして今まさに、初代社長から息子・娘の代に、もしくは二代目から孫の代に世代交代が起きている企業も多い。

同族企業の経営者達を見ていると、色々と興味深い。バトンタッチがうまくいっている創業一族は例外なく家族の結束が強い。そして、うまくいっていない同族企業は、創業一族の繋がりがゆるく、会社としても危ういなと思ってしまう。

今日は、お金と家族について少し話してみようと思う。

お金にまつわることわざ

英語のことわざに「Shirtsleeves to shirtsleeves in three generation」というのがある。直訳すると「三代でシャツの袖からシャツの袖へ」だ。「おじいさんの代がお金を稼ぎ、お父さんの代がそれを大きく育て、孫の代が浪費する」という意味の言葉で、富が三代以上続きにくいことを表したことわざだ。お父さんは、おじいさんが貧乏から這い上がってお金を稼いだことを知っているから、おじいさんの後を引き継いで頑張る。でも孫は生まれつきお金持ちだから、お金の価値がわからず浪費してしまう。孫の代で貧乏に逆戻りしてしまうのだ。

実は、世界中に似たようなことわざは、たくさんある。

「馬小屋からスターになり、また馬小屋へ」- イタリア

「三代でサンダルからサンダルへ」- イギリス

「富不過三代(富は三代続かず)」- 中国

日本にも同じようなことわざはあって、「長者三代」とか「長者に二代なし」などだ。逆に「三代続けば末代続く」なんてことわざもある。

つまり「お金持ちの資産が三代目以降まで引き継がれていくのは凄くまれだ」ということだ。

人を不幸にするには、お金と時間を与えればいい

普通の人は「お金さえあれば」とか「時間があれば」とよく言うが、実際にお金と時間が与えられて人生が狂った話はよくある。

例えば宝くじを当てた人のその後を追跡すると、当たったお金を使い果たして前よりもみじめな生活を送っていることがしばしばある。急に大金を手にすると、色々なことが起こる。お金目的で親戚や友達に騙されて人間不信になったり、時間を持て余して生きがいを失ったりする。そうこうしているうちに賞金を使い果たして人が離れていき、ただの孤独な人になってしまう。

大事なのは、お金と時間の正しい使い方を知ることだ。子供や孫がいるなら、小さいうちからきちんとお金と時間の価値を教えてあげてほしい。

ある程度の資産を持っている人ならなおさら、自分が死んだ後のことを真剣に考えなくてはいけない。子供や孫は、ある日突然宝くじの賞金よりはるかに大きな資産を受け継ぐわけだ。きちんとその準備をしてあげないと、自分の資産が愛する家族を不幸にすることもあり得る。

「ファミリーオフィス」という考え方

資産価値が100億円を超えている欧米の富裕層は、こういった問題にファミリーオフィスという仕組みで取り組んでいる。ファミリーオフィスは日本でいう資産管理会社みたいなものだが、その内容は資産の管理にとどまらない。

ファミリーオフィスは、主に以下のような様々な役割を果たす。

・使用人の管理
・旅行の手配
・物件管理
・会計と給与計算
・法務
・家族の管理
・家族のガバナンス
・財務と投資の教育
・慈善事業と財団の運営
・世代交代計画の策定と実行

まるで企業の事業内容を見ているようだ。欧米の富裕層は、起業経営のような合理的な考え方で家族運営をしているのだ。

この中で僕が特に面白いなと思うのが、ガバナンスとしての役割だ。企業にとってのガバナンスは、行動規範やビジョンといった大きな意味での会社の個性を規定して、それを効果的に運用するための仕組みづくりをすることだ。

この考え方を家族にあてはめると、その家族独特の個性や存在意義のようなものを言語化して、家族に徹底させる仕組みということになる。そう聞くと何か難しいことのようだが、その内容は意外となじみが深い。

たとえば、ご先祖様の生い立ちについて話したり、家系図を作ったり、紋付き袴を着たり、おじいちゃんの7回忌にみんなで集まったりするのだって立派なガバナンスだ。こういった作業を通じて、自分たち家族が何者であるのかを確認し、伝統を通して自分たちらしさを確立していくわけだ。

ファミリーオフィスには、こういった家族の結束を高めるような仕組みを、より強固で持続的なものに高める役割がある。

富裕層に限った話ではない

欧米のファミリーオフィスのような形ではなくても、古くから続く日本の名家は無意識に同じことをやっているケースが多い。僕の弟は、先祖代々山を所有している名家に婿入りした。この家族は本当に仲が良くて、心の底からうらやましい。お正月には一族全員で集まって初詣に出たり、一族経営の林業や小売業もうまくいっているようだ。とんでもないお金持ちではないが、先祖代々の土地を守っていくための仕組みづくりはうまくいっているようだ。

僕の両親は離婚していて、弟と父親も仲が悪い。兄妹弟は仲が良いが、夫婦と親子という側面では完全に家族として崩壊した状態だ。父は一代でわりと大きな会計事務所を立ち上げたが、結局次の代へは続かなかった。継がなかった自分が言うのもなんだが、世代交代に失敗している。何も計画が無かったのだからしょうがないと思う。うちの家族には、家族としての伝統らしきものは何もないし、両親が離婚してから家族が一堂に集ったのは弟の結婚式くらいだ。いつも何とかしたいと思っている。

何かあった時に、家族がいるというのは本当に心強い。昔は親戚が学費や療養費を出してくれたり、事業にお金を出してくれたりということが多かった。今は、困った時は銀行に利子を払ってお金を借りることの方が多いのではないだろうか? 家族が助け合えば、家族の結束は強まるし、家族として生き残る確率も上がるはずだ。

日本はどんどん核家族化していて、家族の存在意義が希薄になっている。これからの日本は貧富の差が広がって、ますます個人では生きづらい世の中になっていくだろう。この状況を改善するには、家族の復権が必要なんじゃないかと思っている。


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