形から入りすぎない趣味のススメ 井崎英典著「世界一美味しいコーヒーの淹れ方」

私は、無趣味である。趣味といえるのは、小学校から続けてきたサッカーだけ。それも歳を重ねた今となっては、日本代表戦を見てワーワー騒ぐのみ。それはそれで悪くないが、定年退職後のことを考えると、そこはかとない不安を覚えたので、ここ数年何かを始めようとしてきた。

その一つが、美味しいコーヒーを自分で入れること。小学生の頃から毎朝コーヒーを飲み続けてきた私にとって、コーヒーは気合いを入れて資料を作成するとき、リラックスして本を読むとき、長時間車を運転する時、人生の色んな場面で欠かせない相棒である。趣味は好きなものから選ぶものだろうから、私にとって実に自然な発想であった。

しかし、長い間憧れていながらも、中々始められなかった。コーヒーは本格的にやろうとすると、多くの道具が必要であり、高いものほどオシャレで見栄えがする。形から入ろうという意識が強いと、全部揃えたくなるし、何十年も続けるのだから、と考えると高い道具にしようという意識がはたらく。その結果、初期投資がウン万円となり、それならやめようという繰り返しだった。

ある時、コーヒーを趣味にすると宣言した。その後、友人からコーヒーを淹れてほしいとせがまれ、ネスカフェしか用意できなかった自分が情けなかった。それで読んだのがこの本である。豆の種類、焙煎方法と味の関係、美味しい淹れ方、オススメグッズなど、初心者が始めるための情報が網羅されている。この本を読み、近所のコーヒー専門店でコーヒーを購入し、カリタのドリッパーとサーバーとペーパーフィルターという2000円程度の初期投資で、コーヒーをドリップした。それでも、これまでのインスタントコーヒーとはまるで違う味わいで、すぐに毎朝の楽しみになった。

「習うより慣れろ」という言葉がある。こうした指南本は、全体像を知るために有意義だが、一度目を通したら、最低限の初期投資で、すぐに始めてみることは大事だろう。意外と何とかなるものだ。その後に改めて読み直すと、より立体的に理解できる。初期投資でウン万円、と言われると尻込みするが、やってみてからここは極めたいからもう少しいいものがほしい、ということなら、計画的に資金を用意するだろうし、そのための節約は生活のハリになると思う。

ウン万円をかけるほどの情熱はないから、と諦めていたら、美味しいコーヒーを家で味わうことはできなかった。何かを始めるときは、ハードルを低くし、少しずつ高さを上げていく方が時間をかけて極める楽しみになる。水の硬度や豆の挽き方を追求するのは今後の楽しみとして、今はお気に入りの豆を探している。世界を席巻しているらしいゲイシャ種のコーヒーを飲むのが、私の次のステップである。

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