伸びしろ大国 安宅 和人著「シン・ニホン」

私は40手前のアラフォー世代。自分が先進国に生まれ育ったことに疑いを感じることはなく、また豊かな生活の恩恵を受けて育ってきたという実感もある。しかし、子どもの時から今に至るまで、アベノミクスによる好景気はあったものの、バブル期のような勢いを感じることは一度もなかった。それどころか、過去には日本のお家芸であった分野で他国の追随を許し、競争力を失った事業も多い。そんな現状には忸怩たる思いを感じる。老後二千万円問題があれだけ炎上したところから分かるように、多くの方も将来に不安を感じているのだろう。

本書は、まだまだ日本は戦えると喝破し、そのために必要な施策を提示する。近年、日本はスゴい系のテレビが多く、その手の番組に出てくる日本の美徳は大事にしたいものも多いが、日本スゴいでは真の解決にはならない。悪いところ、問題点を的確に分析した上で、それでもこうすれば、という本書の指摘は一読の価値ありである。

本書は400ページ超の大作だが、とても読みやすい文章なので、ページ数の多さを感じさせない。しかしながら、内容は充実しており、人によって刺さる箇所は異なるだろう。私はなんと言っても、日本は15年間一人負けを続けたが、負けたというよりもそもそもゲームに参加すらしていない、日本は妄想では負けない、若者を信じて託す、そのために若者へリソースを、という強烈なメッセージが胸に刺さり、勇気をもらった。これだけでは何がなんだかわからないだろうが、本書を読めばきっとこれらのフレーズがつながり、私と同じように希望が湧いてくるだろう。

余談ながら、私はレオス・キャピタルワークスの藤野さんのファンである。彼はある分野で100点の専門家になるのはものすごい努力が必要だが、80点ならば比較的すぐに到達できる、という主張をしている。一方で、シン・ニホンではイノベーションを起こすには、ある程度の知識を持つことは必要だが、情報を集めすぎると知っていることで説明ができてしまうがゆえに、新しいアイデアが浮かばなくなるとしている。これだけ変化の速い時代には、一つのことを掘り下げるよりも、広く浅く知ることが重要ということなのだろう。胸にとどめておきたい。

本書の論旨は、今の日本はイケていないが、そもそもゲームに参加していない、宿題をやっていないことが主な問題であり、やるべきことさえやればまだ未来を明るくすることはできる、ということだろう。我が国を愛する人間の一人として、その言葉は信じたい。しかし、寄附文化が根付き、それを元手に基金を設立して、その資金を投資に回すことで研究資金を生み出す米国と、寄附や投資の文化が根付いていないどころか、社会福祉のために研究資金を削減しようとする我が国では彼我の差を感じる。残された時間は少なく、与えられた宿題は大きい。各々考えを持ち、議論することがスタートだろう。そうすればきっと選挙の意味合いも変わってくる。「伸び代」を「伸び」にするのはきっと各々の心持ちなのである。


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