負けてはいけない会社 平井一夫著「ソニー再生 変革を成し遂げた『異端のリーダーシップ』」

日本にはこの会社は絶対に負けてはいけないと感じる会社がいくつかある。分かりやすいところではやはりTOYOTA。最近だとユニクロがそうなりつつあるかもしれないし、化学メーカーの人からは信越化学の名前が出てくるだろう。そして、本書のテーマであるSONY。過去のジャパン・アズ・ナンバーワンの象徴であり、あのスティーブ・ジョブズが憧れた会社。多くの日本人にとって、特別な存在である。

そんなSONYも、2000年代に韓国、そして中国メーカーの台頭により、長らく雌伏の時を過ごした。経営破綻や買収される噂が出るなど、過去の輝きを失っているように見えた。そんな有事の際に社長になったのが、プリンス平井氏。その後、SONYは過去最高益をたたき出すまでに立ち直るのだが、本書は彼がどうやってSONYに輝きを取り戻していったのかを克明に綴っている。

ご多分に漏れず、私はSONYのファンである。資金の縛りさえなければ、全てのAV機器をSONY製にしたいほどだ。そして、平井氏のファンでもある。同氏が社長を退任した後に、日経新聞の日曜版に見開きで登場したが、その写真が私の中では、ダントツで一番かっこよかった。写真一枚でSONYが蘇ることに納得させられた。そんな私にとって、この本は即買いであった。

平井氏が人間的な魅力を持っていることは、本書を読めばすぐにわかる。辛い仕事こそリーダーがやるというのは、リーダーがみな心に留めなければならないし、わからないことはわからないとはっきり伝える、異見を聞きながらも自分の信念や美意識に従って最終的な決断を下す、リーダーは自社製品の一番のファンであれ、などなど、会ったこともない平井氏が理想のリーダー像で、心の師になってしまった。SONYに転職したい笑。

さて、タイトルの「負けてはいけない会社」は、過去には我が国にいくつもあったが、バブル崩壊後、その輝きを失った会社がたくさんあるようだ。それらの会社はSONYのように輝きを取り戻すことはできるのだろうか。そのカギはリーダーが握っている。平井氏は幼少期を海外で過ごし、SONYの中では歴史の浅いいわば傍流のプレイステーションでキャリアを積んだ異端児である。しかし、だからこそ培うことのできた個性、アイデンティティが本書の至るところに感じられる。これを読んで、国境をひょいひょい越えながら、一方で日本人としてのアイデンティティを大事にしながら才能を発揮する大谷翔平選手、久保建英選手、堀米雄斗選手たちの姿が浮かんだ。第2、第3のSONYはこれからどんどん生まれるだろうと、彼らの姿は示してくれる。これからの日本には希望しかないと信じている。

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