“小金”ではなく“富”を築く不滅の原則 ジョージ・S・クレイソン著 「バビロンの大富豪」

冒頭からアンコンシャス・バイアスな物言いで申し訳ないのだが、我が国は0か1かでものを考え、答えらしきものを見つけると、そちらに全振りする人が多いと思う。先日のワールドカップでも「日本代表を応援するぞ!」と日本中が応援一色になったのも同じかもしれない。一度方向性が固まれば一致団結する。そんな日本が大好きだ。

しかし、ビジネスや資産形成など、お金に絡む話では、およそこのような考え方はよくない。世の中に0も1もほとんどなく、大抵のことは0.2だったり、0.5だったり、0.7だったり。ちょうどいいところで落とし所を見つけるものである。我が国には最近まで必死に働いてお金を稼ぐことが美徳であり、投資などでお金を得ることをあまり良しとしない風潮があった。それは高度成長を経てジャパン・アズ・ナンバーワンとなった成功体験によるものかもしれないし、バブル崩壊による失敗体験によるものかもしれない。一方、バブル崩壊ナニソレおいしいの?という世代も増えてきた。彼らは投資への関心も高く、アベノミクスで株価や地価上昇を目の当たりにして成功の疑似体験もしている。そんな彼らを煽るように、一攫千金で億り人だ!と言わんばかりのレバレッジを効かせた投資を勧めるメディア記事や広告が目につく。しかし、仕事だけしてあとは貯金というのは思考停止だが、身を滅ぼすようなリスクを負うのは投資ではなく投機だ。どちらか一方のみに振れるのは良くない。仕事をしながら身の丈に合ったリスクを負って投資をする。そんなちょうどよさが、一般庶民が富を築くための基本であり王道だろう。

さて、本書は3千年前に隆盛を誇った古代バビロニアを舞台に、その時代の石板の記述を題材としている。どうやら当時から金貸しがいて、お金持ちがいたらしい。そのお金持ちが石板に記した富を築く方法は、3千年を経た現代にも通じる不滅の原則だった。収入の一部を天引きして自分が理解できるものに投資する、目の前の仕事を頑張る、価値のあるものを買う、将来を見据えて準備するなど、改めて読むとそりゃそうだ、と思うことばかりだが、だからこそ3千年を経た今でも色褪せない原則であり、できていない人が多数派なのだろう。世界に七十億人以上もの人がいると、宝くじが当たった人もいれば、アップルに気まぐれで投資して億万長者となった人もいるだろうが、そんな例外を夢見てもそうそううまく行かない。大半の人の資産形成は辛抱強さにかかっている。

数年前に老後2000万円問題というものがあった。キャッチーなフレーズのため、メディアも飛び付き、「そんなに貯められない!国は年金で生活するのは諦めて自分で何とかしろというのか!」という批判が巻き起こって事実上撤回となった。また、最新の条件で同様の試算をすると必要貯蓄額がとても小さくなるそうで、変な安心感も出始めているらしい。しかし、本当にあの報告書を読んで批判した人がどれだけいただろう。私も改めて読んでみたが、老後に求める生活も、引退後に得られる退職金や年金も、引退後に住む住居も人それぞれバラバラな中で、漠然とした不安に悩むよりも、自分はどんな老後を送りたくて、そのためにはいくら必要で、どんな準備をすべきかを早めに考えよう。国に老後の全てを委ねる時代は終わったのだから。という至極真っ当なメッセージだと感じた。国も投資を歓迎するスタンスになってきており、非常に有用な制度も出始めている。準備は早いほうが良い。

そうはいっても何から始めたら良いのか悩む方は、巷に溢れる怪しげな投資本よりも、3千年を生き抜いてきた富づくりの教科書から入ることは一案になるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?