36歳からの苦労に 小倉広著「33歳からの仕事のルール」「33歳からのリーダーのルール」

「私は部下歴は豊富だが、上司歴は短いド素人である。」上司と面談する時はいつもこのフレーズを話す。それなりにキャリアを積み、実務はこなせるようになった私だが、部下の育成はド素人だ。「名選手は名監督にあらず。」これはスポーツだけではなく、およそ世の中の殆どのことにあてはまる名言だと思う。

そんな話を肴に何度も酒を酌み交わしてきた先輩が、遠方に異動することが決まった。彼の激励会の最後に、贈られたのがこの2冊。当時私は34歳。その時は読む気にならなかったが、36歳になり、昇進することになった今年、読んでみることにした。

一口に33歳と言っても、立場は人それぞれだ。中小企業やベンチャーなら、社長や役員、部長クラスの方もいる。起業した人もいるだろう。一方で、大企業では、部・課で一番の下っ端、若手として扱われている方も多いだろう。私は大企業に区分される会社に所属しているが、たまたま前の課は所帯が小さく、役職は一般社員だが、33歳にして部下の管理を任されていた。

下っ端の頃には、楽でいいなと思っていた管理職だが、楽でいいなと思わせるほど部下に権限を委譲することや、全体を俯瞰したスケジュール管理、大局的に部門の将来を考えること、部下に力を発揮させることなど、管理職に求められる仕事がどれだけ難しく、メンタルをすり減らすものか、やってみてわかった。管理職としては大失敗という自己評価だが、35歳手前でこういった経験を積めたことは大きな財産である。

そんな経験を経てから読んだこの2冊は気づきの連発であった。「君はプレイヤーとして優れていたからリーダーになった」という記述には、みんな同じことで悩んでいるんだと思えて、心から救われたし、リーダーとしては今一つな自分をより直視できるようになった。

異動を経てたどり着いた今の部署では、私は一番の下っ端である。下っ端とはなんて気楽な職業なのだろう!ただ与えられたミッションを、上司の想像以上の出来でこなせば、花丸をもらえる。そんな最近の私は、体調がとても良い。しかし、いずれ管理職に戻らなければならないだろう。その時のために、これらの本から学んだ管理職の手法を、備忘として記しておく。とても長くなってしまったが、それだけ多くの気づきが得られたということだ。

リーダーは、成果を出すためには、(悪いこと以外)何でもする覚悟を持たなければならないというのが最大の気付きである。とすれば、仕事を任せる目的は、業務の平準化ではなく、チームとして最大限の成果を出すこと。不満が出ないように、メンバー全員に公平に仕事を振るというのは、本来あるべき姿ではない。全体最適の視点が必要だ。そこに気付けたので、次の私はもう少し管理職をうまくやれるだろう。

1.「33歳からの仕事のルール」
①意思決定時には最初に判断軸を決める
➜与えられたミッションのみに対応することを考えると、やっつけ仕事になるが、管理職はもっと大局的に議論をリードする必要がある。まずは方針について部内でコンセンサスを得るようにしたい。

②ゴネ得を許さない
➜すぐ弱音を吐く部下を甘やかさず、辛抱している部下を認める。これができず、過去に大失敗した。この主張は同意するが、未だに答えが出ていない部分がある。妊娠中の部下の弱音にはどう対応したらいいのだろう。ダイバーシティとにわかに言われる中で、対応は現場に任されている。妊娠中の人は仕方ない、で止めるのではなく、しっかり議論して制度設計する必要がある。コミュニケーションを取るようにしたい。

③大きな仕事は細かくブレークダウンする
➜大きなテーマを与えられると、すぐに回答したいと思い、最短距離で立ち向かおうとするが、大抵の場合はうまく行かない。まずはじっくり考えてブレークダウンしなければ、部下は困ってしまう。そこの道筋をつけるのは中間管理職たる我々の仕事である。大きな方針を語る上司の言葉を翻訳するのも同様である。

④部下に話を伝えるときには、伝え方を15分考える
➜コミュニケーションは難しい。どうしても自分のバイアスがかかった理解をするし、同じ中身のことを伝えても、言葉遣い、タイミング、抑揚など、様々な要因で伝わり方は変わる。相手にとって最適な伝え方を考える必要があるし、そのためには普段から定期的にコミュニケーションをとり、相手のことを理解するプロセスが欠かせない。

⑤「3流は無視、2流は賞賛、1流は徹底的に非難」
➜故野村克也元監督の至言である。3流、2流は成功体験も少ないので、成功できるように配慮し、1流には任せる。1流ならば糧にしてくれるような耳の痛い指摘も、2流、3流には逆効果だ。

⑥MUSTではなくWANTとCANで動かす
➜「やるべきだ!」では人は動かない。「なぜやるのか」を説き、やり方がわかっていない2流、3流には「できる」方法を一緒に考える。専門家たる1流には、なぜやるのかを握ったあとは、お任せするのがいい。

⑦会議では感想ではなく、議論を進める意見を言う
➜日本語は、はっきり物を言わない方向に進化してきた言葉であり、それゆえ断言が苦手な人を多く生んでいると思う。相手のことを考えて、遠回しな表現をしてきた私だが、相手や参加者の時間を奪うことの方がひどいことだと思うにいたった。ビジネスにおいて、過度な配慮は暴言と変わらないのである。余談だが、優柔不断な私も、外国で英語で対話すると、断言できるようになる。文法は大事だなあ。

⑧PREP法で話す
➜point(結論)reason(理由)example(例示)point(結論)の順で話すと論理的になる。こういう型は身を助ける。たくさん習得して、場面の中で最適なものを取り出せるようになりたい。

⑨プレゼンのポイント
➜私は人前で話すのは苦手だが、そろそろそんなことは言ってられないので、プレゼンの方法には、常日頃からアンテナを張り巡らせている。この本からは、自分の言いたいことは、反対のことと対比するとよく伝わること、話したいこと全てを話さないことといったテクニックが参考になったが、興味なさそうな人、眠そうな人はなるべく視界に入れないことは特に胸にとどめたい。プレゼンの巧拙はモチベーションだと思う。

⑩週に一度、「重要だが緊急性のない仕事」に取り組む時間を計画する
➜単純作業とか、目先の仕事はやらなければならないし、やれば達成感も得られる。しかし、これだけを続けていては、組織も個人も進歩がない。意識的に時間を作って、進歩していきたい。

2.「33歳からのリーダーのルール」
①リーダーはメンバーを変えられない。気づきを与えられるのみだ
➜今まで色んな上司に出会ってきたが、腹を割って話せたのは気づきを与えてくれようとしてくれた上司ばかりだった。自分のコピーを作ろうというような教育をしてきた上司には反感を持っていた。そんな教育を必死にしてくれた上司にはすまないが、私はあなたのコピーにはならない。部下に考えを押し付ける代わりに気づきをもたらすのだ。

②チームのために自分を投げ出せるか
➜以前の私は、うまくやろうとしていたが、本当の意味での必死さがなかったのだろう。すぐに努力を認めたふりをして、真に部下と向き合ってこなかった。場合によっては生活習慣の見直しから相談に乗り、部下が課題を乗り越える助けとなるような、身を投げ出せる上司になりたい。

③部下に100%を求めない
➜「なんでこんなことも…。」上司だった頃思ったことがある。良かれと思い、一度に複数の対策を伝えたが、当時の部下にはそれを理解しきれなかったのだろう。相手の能力や性格をよく見て、多くを求めず、行動変容を期待できるところから指摘していくことが、遠回りなようだが、結果的には成長スピードを速める。

④年上部下に遠慮しない
➜年上の部下には、実務はできるけど、マネジメントはできないので出世が遅かった方がいる。こんな人は多くを任せず、進捗だけ管理すればいい。実務に長けているので、いい相談相手になってくれるだろう。問題は、単純に能力が足りないケースだ。この場合は、遠慮しすぎ、全く遠慮しなさすぎ、どちらもうまく行かない。彼らを敬いつつ、最終決定は自分が行い、責任は自分がもつ。これかポイントである。

⑤反対されたからといって引っ込めない
➜仕事の成否=正しさ×情熱。金言だと思う。一番難しいのは実行すること、決めたことをやり抜くことである。情熱があればやり抜ける。やり抜けば何らかの成果は生まれる。それを振り返ることで次につながるもの。逆に、どんなに素晴らしい計画も、やり抜かなければ何も残らない。

⑥部下に任せる
➜部下を成長させることは、上司の大きな役目だ。しかし、誰でも簡単にできることではない。今まで、私は上司に恵まれていたと思う。皆私に仕事を任せてくれて、本番ではジッと我慢してくれた。何か失敗した時は、終わってから指摘してくれた。だから、重要な会議の前には、緊張感があり、しっかり準備をせざるを得なかったが、それが身になっている。一度任せると決めたらすべて任せる。口出しが必要なら、本番前に手間を惜しまずじっくり準備するのだ。

⑦ボールに群がるな
➜これも上司に何度も言われた。目の前の実務をこなすことは、仕事をした感が出るし、確かにゴールに近づく。仕事しているという安心感も得られる。しかし、全体を俯瞰することはできない。自分が1進めることで、全体の生産性を10下げてしまったら、本末転倒だ。ひと一人の実務能力なんてそんなもの。チームを効率的に動かすことがリーダーの仕事である。これは意識しないと難しい。心に刻み、習慣としたい。

⑧仕事を任せるときは、作業ではなく責任を渡せ。その上で親のようにフォローせよ
➜ある程度の大きさのプロジェクトであれば、思い描いたとおりに進むことなどない。想定外のことは起きるし、あとからより良い進め方に気付くこともある。そのため、プロジェクトを任せる時は、求める結果をコミットした上で、責任を委譲して進めるのがよい。そうしなければ、逐一手出しをすることになる。とは言え、部下は実務能力、経験が足りないのだから、状況は我慢しながらよく把握し、いざというときは最大限のフォローをする。そんな姿勢が求められる。

⑨面談を大事にする
➜プロジェクト、部下との連携、色んな場で面談の設定を意識的に行う。その場に向けて各自がミッションをこなすので、スピードが上がるし、部下の変化にも早めに気付ける。問題が肥大化する前に対処できるので、効率よく、質も高く、落ち着いてマネジメントできる。

⑩部下への報酬は物質的報酬ではなく、精神的報酬を使う
➜給料が増えるとうれしい。昇進すると、「こんなに?」と感じるくらい給料が上がる。でも、それは会社を辞めない、あるいはしがみつく理由にはなるが、日々努力する理由にはならない。毎年昇進する企業なんてあり得ないのだから。それよりも、部下の働く目的は、社会貢献、自己実現、人脈拡大など、人それぞれだが、それと今の仕事がどう結びつくかを伝えることが、モチベーションの維持に必要だ。もちろん、そのためには部下の目的を理解しなければならないので、コミュニケーションが必須である。
※部下を引きつける5つのインセンティブ
1.物質的インセンティブ:お金、福利厚生など
2.人的インセンティブ:魅力的な上司、同僚と接する機会
3.評価のインセンティブ:褒められる、認められること
4.自己実現のインセンティブ:能力開発やありたい理想の自分に近づく機会
5.理念のインセンティブ:仕事を通じて社会の役に立つ実感を得る
1のみ物質的、2〜5が精神的報酬

⑪チームの目標とビジョンの共有
➜チームの目標、ビジョンを設定する時には、どうしても素晴らしいものを出してしまいがちだ。しかし、それを本当にやるだけの覚悟とリソースが足りないことが往々にしてある。絶対にやり抜くんだという覚悟ができない目標は、目標になっていない。仕事においては、実行が最重要なのである。
こんなことを書いていると、15年前の就活のことを思い出した。新宿に本社があるIT企業の採用担当者から、うちは日本一は目ざさない。国から分離したような会社(=NTT)と戦っても、売上では勝てない。売上は5位くらいで良いけど、独自のポジションを築きたい、と聞いた。意識高い系を気取っていた私は、トップ目ざさないのかよ、と思ったが、明快な話しぶりが妙に気になり、申し込んたものだ。爽やかすぎるという理由で落とされたが。その会社は、今は絶好調。独自の地位を築いている。きっと、会社のビジョンか腹落ちした社員が、きっちり力を発揮しているのだろう。

今は管理職受難の時代だと思う。やり過ぎると、すぐにパワハラになる。しかし、時代が変われども、人はそんなに変わらないと信じている。熱意を持って正しいやり方で接すれば、きっとわかってもらえる。正しいやり方を知るために、役立つ方法がどっさり。リーダーシップとは何か、に悩んだらぜひ読んでみてほしい2冊。

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