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組織の未来はエンゲージメントで決まる

【何が学べるのか?】

皆さんは、「エンゲージメント」という言葉を所属する会社や組織で耳にしたことがあるでしょうか?働きがいや生産性の向上が経営課題として挙げられる現代、その言葉に触れる機会が前より増えたのではないでしょうか?私の所属する会社でも最近、エンゲージメント測定ツールが導入され、以前よりもエンゲージメントについて考える機会が増えました。
そこで、今回は「組織の未来はエンゲージメントで決まる」という本について、自分なりの考えも含め内容について、まとめていきます。
エンゲージメントとは何か?なぜ、世界の成長企業がエンゲージメントを重視しているのか?エンゲージメントを高めるためのキードライバーや日本企業の成功事例がまとめられている本です。約200ページ程度で読みやすい分量の本です。組織のエンゲージメント向上に興味のある方は、ぜひ一度ご覧になってください。

【著者について】

株式会社アトラエの代表取締役である新井佳英さんとグロービス経営大学院講師の松林博文さんの共著です。アトラエという会社は本書を通して初めて知る事ができたのですが、最近よくTVCMで目にするIT業界に強い転職サイトである「Green」というサービスや組織のエンゲージメントを測るツールであるSaaSツール「wevox」などを展開するHRテック(Peopleテック)の会社様です。Great Place to Work Institute Japanが毎年発表している働きがいのある会社ランキングで2019年に1位(小規模会社部門)を取得している会社でもあります。働きがいと”エンゲージメント”が関連する事が予想できそうですね。
https://atrae.co.jp/

【本書について】


■組織の抱えている課題

本書は日本で働くビジネスパーソンには「悲しいお知らせ」から始まります。。日本企業の驚くべき現実として、「やる気のない社員が7割」を占めるといいます。これは世界的に有名な調査会社のギャロップ社が調査したものです。また、日本は熱意溢れる社員が6%しかいなく、調査した139か国中、132位であったとレポートしています。また、組織のヒトについて最近の課題として「人材流出・採用難・定着難」といったものが取り上げられる事が増えています。
また、デロイトトーマツグループの調査では、ミレニアル世代という若手・中堅層に絞ると2年以内に退職を考える割合が37%まで高まっていると報告されています。もちろん少子高齢化という社会問題も重なって、リソースフローの課題は益々深刻化されていくでしょう。私が転職エージェントとして、仕事をしている中でも、そのような課題が浮き彫りになっている会社様と多く出会います。かつては採用に全く困っていなかった有名企業ですら人材流出や採用難に陥っているという事を経営陣や人事の方から相談を受ける事が良くあります。ベンチャーや中小企業においては、より深刻な問題で案件やプロジェクトはあるのに人材がいなくて、ビジネスを拡大できないという状況に陥っている会社様もあり、人材の確保・維持はかつてないレベルで大きな課題となっているでしょう。また、単に人材の確保・維持を目指すのではなく同時に生産性の向上にも焦点を充てる必要があります。日本の1人当たりのGDPは先進7か国で最下位。OECD加盟35か国中21位と決して褒められた順位ではありません。人材マネジメントの要素でいうと、リソースフローの部分を挙げている会社が多いようですね。

※人材マネジメントの各要素についてはnoteの別記事で紹介しています。

■エンゲージメントがカギ
リソースフロー・生産性向上が日本にある組織の重要な課題である事を改めて、認識することができました。このような重要な課題を解決するためのカギがまさに「エンゲージメント」にある。と本書は強く主張しています。すべてのカギはエンゲージメントにあるとまで言い切ってますね。

■エンゲージメントって何?

さて、多くの企業が悩む上記のような課題の全てのカギとなる魔法のようなエンゲージメントとはいったいどういうものなのでしょうか?
本書のエンゲージメントの定義は下記のように記載されています。

”従業員の1人1人が企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し、自発的に自分の力を発揮する貢献意欲”

よりシンプルに表現すると「組織への自主的貢献意欲」の事をエンゲージメントといいます。エンゲージメントを捉えるのに注意するべきポイントとしては、エンゲージメントは関わり合いや関係性が中核にある概念であり、つまり組織が戦略や目標を掲げるだけ、個人が力を発揮するだけではエンゲージメントは成り立たないという事です。
また、厳密にいうとエンゲージメントは「従業員エンゲージメント」と「ワークエンゲージメント」の二つがあり両者をひとくくりにエンゲージメントと表現していることが多いとのことです。
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(従業員エンゲージメント)
企業・組織と個々の社員の間の関わり合い。
組織に対する自発的な貢献意欲
(ワークエンゲージメント)
仕事の内容と個々の社員の関わり合い。
主体的に仕事に取り組んでいる心理状態を表したもの
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ワークエンゲージメントは高いけど、従業員エンゲージメントが低いといった現象は往々に起きていると予想できます。
もう少し、エンゲージメントについて理解するために、よくエンゲージメントと同じような意味合いで使われている言葉との違いを確認していきます。
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(従業員満足度)
職場環境や給与・福利厚生などへの満足度=組織があたえるもの
(モチベーション)
行動を起こすための動機=個人が感じるもの
(ロイヤリティ)
組織に対する帰属意識=上下関係が生み出すもの
(エンゲージメント)
主体的・意欲的に取り組んでいる状態=相互の対等な関係に基づくもの
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■エンゲージメントが高い事のご利益は?

エンゲージメントとは、何かという事は概ね理解できました。それではエンゲージメントを高める事で具体的にどのような事が期待できるのでしょうか?
ギャロップ社の調査によるとエンゲージメントの高い組織は下記図のように、本来高くあるべき数字はより高く、低くあるべき数字はより低く作用させている事が分かります。

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エンゲージメントと企業業績の関係
上位25%・下位25%のチームの中央値の差。

どの要素も企業の業績に直結するような要素ですので、エンゲージメントとの向上は効果的な組織運営に欠かせないと言えそうです。ちなみに、前述した従業員満足度については、上記のような要素との相関関係は見られない事がほとんどであるとのことです。

■やってしまいがちなミス

エンゲージメントとはどういうもので、実際のどのようなご利益がありそうなのかという事も理解できました。エンゲージメントを高める事ができれば、経営に良いインパクトを与えられる。言うは易しですが、実際にエンゲージメントを高く保てている会社がどれほどあるでしょうか?本書ではエンゲージメントを高めるためのコツと日本企業が陥りがちなミスについて言及していたので、まとめてみました。

①環境・業務・人材に合った組織のカタチになっていない。
エンゲージメントの高い組織とは、ティール型やホラクラシー型の組織のカタチであることが前提で、逆にトップダウン型のヒエラルキー組織は低くなってしまうと何となく想像していないでしょうか?本書では組織のカタチによってエンゲージメントが決まるのではなく、その時代に応じて自社のビジョンに合った適切な組織構造を選択する事が大切だといいます。例えば、大量生産・大量販売型の「規模の経済」が効く業界において、既存事業を継続するという前提であれば、一般的にはヒエラルキー型構造が適しているでしょう。一方でインターネット業界のように環境の変化が激しく、仕事の中でクリエイティビティが求められる企業の場合は、フラットなカタチがより適正ていると考えられそうです。主観ですが、特に従業員の多い大企業においては、特性の違う事業を展開している会社も少なくないので、事業ごとに組織のカタチを合わせる事もするべきなのかもしれないですね。私は金融サービス領域でエージェントをしていますが、伝統的な金融企業は従業員が非常に多く、それぞれの現場における環境・業務・求める人材は似て非なるものがありますが、(例えば投資銀行部門と商業銀行部門では全く違う状況)多くの会社の組織のカタチはヒエラルキー型となっています。結果として、エンゲージメントが低くなっていて、足元で離職率が高まっているのかもしれません。

②心に響くビジョンがない。ビジョンで人を選んでいない。
あなたは自分の勤めている会社のビジョンやミッションはご存じでしょうか?2017年にある企業で実施されたアンケートでは、自分の会社の企業理念を覚えているのは22%、全く覚えていないと回答した人は39%でした。覚えていればエンゲージメントが高くなる訳では無いですが、分かりやすく心に響くビジョンがある会社は自分の仕事の意味を理解して、やりがいを感じ、エンゲージメントが高くなります。有名なイソップ童話の3人のレンガ職人の話に通ずる部分があるでしょうか。↓
https://www.total-engagement.jp/808/
このようにビジョンに共感して自主的な貢献意欲を持ってくれている人達が働きやすいようにルールや仕組みを構築していくことで好循環が生まれるでしょう。ですので、採用活動において自社のビジョンへの共感度を重視していない場合は、入社時から会社と従業員の関係性であるエンゲージメントが低い状態になる可能性が高くなると言えるでしょう。

③働き方改革と称して、労働時間を削減する制度を作って満足する。
安倍政権が重要課題に掲げた「働き方改革」の議論ではいわゆるブラック企業の問題などを背景に、長時間労働をどう是正するかという点に目が向けられていましたが、本書では長時間労働を是正するだけで充分なのか?会社のストレスチェックテストを従業員に実施してもらい、ストレス度の結果を測定して、低減させていく計画を立てるだけで、組織とヒトの関係は良くなるのかは疑問であると言及しています。図のように労働時間が長ければ必ずしもブラックワーカーに位置する訳ではなさそうです。行き過ぎた長時間労働は是正するべきものですが、ストレス度ではなく、エンゲージメント指数を測りながら、長時間労働の課題に向き合う事で、より社員の自主的貢献意欲を高め、企業・従業員ともがより良い状態に向かうための施策が打てそうですね。

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■エンゲージメントの測定方法

それでは、具体的にエンゲージメントを高めるにはどうすれば良いでしょうか?まずは対策を打つ前に現在のエンゲージメントの状態について測定する必要があります。HRテックが企業に導入されるようになり、著書の新井さんが代表を務める「アトラエ」やビジネスSNSを展開するLinkedInなどエンゲージメントを測るツールを提供している企業は様々あり、それらのサービスを使用してエンゲージメントを確認する事ができます。しかし、エンゲージメントのレベル自体を測定するのはもっと簡単に出来るとの事です。次のたった一つの質問を聞くだけで診断可能なのです。

「あなたは現在の職場を親しい友人や家族におすすめしたいですか?」

この問いに対して、どの程度お勧めしたいかを10点満点で評価してもらいます。9or10点をつけた方「推奨者」の割合ー0~6点をつけた方「批判者」の割合がエンゲージメントの割合を表すeNPS(employee Net Promoter Score)となります。例えば、合計10人の会社で9or10点をつけた方が4人、7.8点をつけた人が3人、0-6点をつけた人が3人いた場合は、40%-30%=10%eNPSとなります。これだけで、eNPSが競合や過去と比較して高いか低いかは把握できますが、実際のどのような要因が結果に作用しているのか細かく見るためには、ツールに助けてもらった方が打ち手を見つけやすいでしょう。エンゲージメントを測る際のサーベイは「パルスサーベイ」と呼ばれる事があります。(pulse=脈拍)脈拍チェックのように定期的に高頻度でチェックするため、このように呼ばれています。エンゲージメントも日々変化しているので、脈拍チェックのように定期的なサーベイを実施して、状態を把握する事が非常に重要であるとの事です。

■エンゲージメントを高める9つのドライバー

エンゲージメントを左右する9つのキードライバーが本書に紹介されていました。個別の解説は省きますが、以下の9つがキードライバーです。自分で理解しやすいように、それぞれを勝手に3つにカテゴライズしています。
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自己:承認、成長、健康
他者:人間関係、支援
組織:風土、理念、環境、職務
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9つのエンゲージメントは互いに相関しながら、エンゲージメントが醸成されるようですが、自分が所属する組織は、どのドライバーが課題になっているのかを理解する事がエンゲージメント向上の打ち手を考える際の第一歩となるでしょう。

■エンゲージメントを高める方法は?

最後に、実際にどうすればエンゲージメントを高める事ができるのか?です。本書では、組織の問題は実に多種多様で決まった正解がある訳ではなく、エンゲージメントを高めるために有効な施策は会社によって異なるといいます。組織改善は自社で取り組むべき課題であり、外部のコンサルタント頼りにするわけでは無く、社員が当事者意識を持って組織改善に取り組む必要があるのでしょう。興味深いのは、著者の方の会社「アトラエ」はエンゲージメントを測るツールは提供しても、上記のような理由でコンサルタントのサービスは提供していないという事です。その代わり、DIO(Do It Ourselves)というメディアを設けて、様々な会社の組織改善事例を共有しているとのことです。もちろん、他社の事例をそのまま移植させる事は適切では無いと思いますが、自社に合った施策を作る際のアイディアにはなりそうですね。エンゲージメントを測定して課題を発見した後は、トップも含め従業員一人ひとりがどうすればエンゲージメントを高い状態にできるのか主体的に考え、発信していく事で、組織全体のエンゲージメントを高めていく事になるのでは無いでしょうか。

■学び

エンゲージメントって何?モチベーションのように似た概念と何が違うの?エンゲージメントを高める事でどのようなご利益があるの?エンゲージメント向上で失敗しやすいポイントは?大切な要素は?といったトピックでエンゲージメントについての概要を理解する事ができました。少子高齢化社会であり、また転職のハードルが低くなっている現代において、エンゲージメントを高く保つ事は、組織の重要な課題として今後も残り続けると思っています。ROIや株価、営業利益率など様々な重要経営指標がありますが、エンゲージメント指数も会社経営においてKPIの一つとして当然のように語られる時代がすぐそこに来ているのでは無いかと私は思いました。

また、ほとんどの方が「同じ時間働くのであれば、エンゲージメントが高い状態で働きたい!」と考えていらっしゃるのでは無いでしょうか?エンゲージメントは組織と個人の関係であるため、一人ひとりがエンゲージメントについて、より意識しながら仕事をするべきなのでしょう。私自身も、まず自分のエンゲージメントについて内省し、まずは職場の仲間とエンゲージメントについて話す機会を作ってみようかと思います。





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