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悲しみや寂しさを置いていく<夫婦世界一周紀91日目>

闇の重たい気配の中を2つのライトで切り裂くように、早朝3時からコナ空港へ車を走らせた。

街灯のないうねり道をハイライトで飛ばす。目印は、ぽつり、ぽつりと50メートル程度の間隔で備えられている対向車線の反射板のみだ。

真っ暗闇のなかに入り、しばらくするとあかりが現れ、吸い込まれるように近づいてきて、また闇に陥り、遠くからあかりが現われる。

その光景は、あの日千光寺で体験した49日法要体験の、極楽浄土への道のりのようだった。

・・・

ハワイ島がもたらしてくれたもの。

9年ぶり越しの夫婦世界一周旅行の夢を叶えてくれたこと。

サウスポイントの夕日を見せてくれたこと。

ケイコさんたちと再会できたこと。

僕たち夫婦のこれからの生き方、USを教えてもらったこと。

うーちゃんを亡くしたこと。

他の国では決して得られることのなかった、消化にはこの先何年もかかるような重厚な存在感があった。

コナ空港から離陸すると、機内の窓からハワイ島の輪郭が見えた。朝日に照らされた島は眩く、幻想的に光っていた。

あまりに美しくて、僕もフウロも音もなく泣いていた。苦しみや悲しみ、寂しさを全て浄化するための空のように思えた。

この空は、うーちゃんが火葬され、煙となって舞った空と繋がっているのだ。

ハワイ島がすっかり見えなくなると、涙は止まり、ずっと見えていたうーちゃんの形をしていた雲がどこにも見当たらなくなった。

心のつっかえが少しだけ解け、ああ僕たちは悲しみをハワイ島に置いてきたのだと悟った。

きっとこれから数年余りかけて、きっとハワイ島は僕たちの悲しみを浄化するのだろう。

そうして傷が癒え切った時に、僕たちはハワイ島に来て、大切なことを学ぶのだろう。

それは確信に似た感情だった。

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外に出ることが出来ない今、旅をできること自体に価値が生まれつつあります。僕たちが見てまわった世界はもうないかもしれないけれど、僕らが家にいる時にも世界は存在していて、今日もトゥヴァだってニウエだってある。いつか全てが終わった時に、あそこに行きたいと思ってくれる人が一人でも増えたらいいなと思って、価格を改訂しました。 無料で公開したかったのですが有料マガジンを変更することが出来なかったので、最安値の100円に設定しています。

2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…

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