#6 夫婦、音楽、ガンボスープ。
妻と大学ではじめて会った時、僕たちは音楽の話をした。
フィッシュマンズの話で意気投合して、それが仲良くなるきっかけだったと思っている。あとから聞くと、妻は別に意気投合したとは思っていなかったけれど。
まあでも、いかれたBABYがなければ僕たちは結婚していなかったのかもしれない。
フェスに行ったり、ライブのために広島まで行ったり。
僕たちにとって音楽はとても大切なものだ。
今日は僕たち夫婦が音楽を求めてニューオリンズまで行った話をしたいと思う。
・・・
妻が一番好きなアーティストは、BO GUMBOSというバンドだった。
僕たちが生まれたばかりの時に人気を博したバンドだ。若くして亡くなったボーカル「どんと」の息子さんは僕と同い年。
40代あたりに聴けば「ああどんとね」となるが、僕たち同世代でBO GUMBOSを聴いてるよという友達は一人しかいなかった。
彼は今アーティストになっている。それぐらいマイナーだった。
僕は大学時代、世界旅行をしたらなにをするかという話をことあるごとに妻にしていた。当時から夢見がちだったのだ。
「ガンボスープが食べたいな」
「どこの料理?」
「ニューオリンズだよ」
妻は言った。
ガンボスープはニューオリンズに住むケイジャンたちが食べているスープだ。
いつかそのスープを本場に飲みに行きたい。という話は、大学時代の僕たちにとって、未来を現す夢そのものだった。
きっとガンボスープ自体を飲むことは、日本だって叶えようと思えば叶う夢だ。
でも、実際にそこに行って飲むからこそ、意味がある。
ガンボスープを飲みに行けるような、意味の無いことに本気になれる大人になりたかった。
・・・
ボロボロの壁と暗い照明。廊下続きになっている外からばしゃばしゃと激しい雨音が聞こえている。
フレンチクォーターの中心街にあるガンボスープのメッカのレストランで、二人で一つのガンボスープを頼んだ。
茶色いとろみのあるスープはイメージそのもの。
でも、味はとても複雑で、醤油でもコンソメでも出ないような深みがあった。
思ったよりもスパイシーではなく、「ケイジャンにとっての味噌汁のようなもの」という形容も納得できる、飽きのこない素朴な味わいだった。
・・・
ガンボスープをすすりながら、フウロと僕が過ごしてきた月日のことを思った。
フウロとBO GUMBOSと出会ったタイミングは一緒だ。
付き合って、結婚して、いつかできたら…と思うことを一緒に実現できるだけの時間がすぎたのだ。
「夢の中。So predious.Down in New orleans」
二人でここまで来る道のりこそが夢のようだなと思いながら、二人でガンボをすすった。
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