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忘れた星 |雑文|

仕事で障がい者施設に
出入りするようになって2か月。
取材の終わりが見えてきました。

この施設では朝とお昼にラジオ体操をします。

事務所で施設職員の方と
打ち合わせ中、
ラジオ体操の曲が聴こえてきて、
ちらりとその方向を見ると
みんな元気いっぱいに体を動かしています。

以前、noteで記事を書いた
Aくんには相変わらず
「元気?」と訊ねられます。
わたしは残念ながら小さな声で
「まぁ元気です…」と答えるのが
精いっぱいでした。

Aくん以外にも印象的な方は多く、
話を聞くたびに色々と考えさせられました。

例えばBさん。
長身の爽やかな男性。
その方はいつもノートをとっています。
かなり重度の記憶障がいということ。
いま話していたことをあっという間に
忘れてしまうのだそうです。
「はじめまして。入江と申します」
そう挨拶しても数秒で、
私の名前を忘れてしまう。
しかし忘れることを自覚しているので、
いつもノートに出来事や単語をメモしています。

その他にも、
喉の渇きが気になり、散歩中に道行く人が、
ペットボトルを持っていたら、それを奪い取って
強引にゴクゴク飲んでしまうCくん。

障がいと言っても千差万別です。
しかし、この施設は一見、
普通のOLさんや
工場勤務をされてるような中年男性など
私たちと何ら変わらない人ばかりです。

障がい者と呼ばれる人。
それは強い個性をもった人と
言い換える事もできるでしょう。
ただ、今の社会でひとりで生活していくのが
難しい障がいを抱えている人という事なのです。

近い将来、
記憶障がいのBさんなどは
眼鏡型のデバイスが進化すると
ひとりで生きていける社会に
なるのかもしれません。

障がいは
テクノロジーの進化を
含めた社会の有り様で、
いつか個性という
領域にスライドする
かもしれません。

当然ですが、
私たちにはみんな個性があって、
社会というフレームの中で生きています。

そして、もしかしたら、
みんな無理をして、
その枠組みに合わせて
生きているのかもしれません。

この障がい者施設での経験は
仕事で垣間見た姿ですし、
約2か月という短期間でした。

美しい話よりも、
施設のなかの人間関係や
ビジネスに絡む、
残念な想いを多く感じました。

障がい者の方たちは、
今日もラジオ体操を、
元気にやっています。

オフィスに帰る途中。
わたしはいつまでも、
元気と答えられない自分に、
なぜか涙がこみあげてきて、
空を見上げました。

きれいな夜空。
この日は満月。

月光が眩しくて、
いつもの星が見えません。

わたしは、
忘れものを
忘れている。

それはとても
大切な忘れもの。

そんな気がしました。





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