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Sound Horizonの考察・調査記事まとめ

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ニンニ リズが書いた、Sound Horizonの楽曲や世界観に関する考察や調査記録記事のまとめ。
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【SH考察:093】青ひげの愛情は誰に向けられたか

Sound Horizonの楽曲のひとつ『青き伯爵の城』でしばしば議論される謎として「魔女として断罪された君」は誰なのか、という話があると思う。 今回は当時の時代背景を確認しながら、「魔女として断罪された君」そして青ひげの愛情について考える。 対象7th Story Märchenより『青き伯爵の城』 考察グリム童話では削除された『青ひげ』 『青き伯爵の城』は明らかに『青ひげ』という童話をモチーフにしている。 一応グリム童話に含まれていた時期もあるにはあるのだが、現在

【SH考察:091】黒狐亭のスパイとしての役割

Sound HorizonのMärchenの『黒き女将の宿』では、かなり不審な女将が登場したり、唐突に主人公の田舎娘が吊られたりと、不自然な点が多い。 これらは中世当時の「宿屋」であり「酒場」の機能を知ることである程度解消できる。 今回は中世の史実から、田舎娘に何が起きたのかを探る。 対象7th Story Märchenより『黒き女将の宿』 ※コミカライズ作品『新約Märchen』のネタバレを含む 考察そもそも「宿屋」か この曲の主人公である訛りの強い少女も、黒狐

【SH考察:090】『生と死を別つ境界の古井戸』の欺瞞を表す緑

Sound HorizonのMärchenの『生と死を別つ境界の古井戸』に登場する「健やかに悲惨な子」は緑色の衣服を着ている。 テレーゼが黒と青を着ていることに意味を見出せたように、あの子が緑を着ていることにも意味を見出せるように感じたため、ここにまとめた。 対象7th Story Märchenより『生と死を別つ境界の古井戸』 考察一般庶民の衣服 『生と死を別つ境界の古井戸』の主人公のことを便宜上井戸子と呼ぶ。 また、服の色味はジャケットイラスト及びAround 15

【SH考察:088】テレーゼが青の差し色がある黒き貴婦人である理由

Sound Horizonの楽曲に登場する母親のなかでも、ひときわその意志の強さが印象的な女性、Therese von Ludowing。 彼女は差し色に青が入った黒い服を身にまとっており、暗い森で目立たず過ごすには一役買っていただろう。ただ、その服の色に込められた他の価値観の可能性が考えられたため、今回まとめていこうと思う。 対象Prologue Maxi イドへ至る森へ至るイドより『光と闇の童話』『彼女が魔女になった理由』 考察黒き貴婦人テレーゼ イドへ至る森へ至

【SH考察:087】グリム童話との比較による『薔薇の塔で眠る姫君』の特徴発見

Sound Horizonの楽曲のひとつ『薔薇の塔で眠る姫君』は、グリム童話『茨姫』がモチーフだ。日本ではペロー童話としての『眠れる森の美女』としてのほうが知名度が高そうではあるが。 今回は『硝子の棺で眠る姫君』と同様に、原作と比較しながら、『薔薇の塔で眠る姫君』の理解を深めていこうと思う。 対象7th Story Märchenより『薔薇の塔で眠る姫君』 考察『眠れる森の美女』と『茨姫』 『薔薇の塔で眠る姫君』のモチーフは、グリム童話のタイトルで言うならば『茨姫(ド

【SH考察:085】グリム童話との比較による『硝子の棺で眠る姫君』の特徴発見

Sound Horizonの楽曲のひとつ『硝子の棺で眠る姫君』は、日本でポピュラーなグリム童話『白雪姫』がモチーフであることは明白だ。 しかし、『白雪姫』の原作を読んでいる人は案外少ないのではないだろうか?ディズニーの物語や、児童向けに簡単な和訳に置き換えられたもので覚えていたり、またそもそも幼少期に読んで以来で細部の記憶がうろ覚えな人もいるだろう。 今回は原作と比較しながら、『硝子の棺で眠る姫君』の理解を深めていこうと思う。 対象7th Story Märchenより『

【SH考察:083】『生と死を別つ境界の古井戸』の時代設定がよくわからない

Sound Horizonの楽曲のひとつ『生と死を別つ境界の古井戸』。 この曲がいつの時代を描いているのかを考えると、実は結構ややこしいことになるという点に気づいた。 そのため、今回はこの曲の時代設定の謎について考えてみた。 対象7th Story より『生と死を別つ境界の古井戸』 考察『ホレおばさん』 『生と死を別つ境界の古井戸』は、明らかにグリム童話の『ホレおばさん(Frau Holle)』という作品がモチーフになっている。 著作権がとっくに切れているため、原文は

【SH考察:078】『黒き女将の宿』の娘の出身地

Sound Horizonの『黒き女将の宿』にて、復讐を願う屍人姫の一人である田舎娘がいる。 彼女が生きた地域の情報が曲中にちりばめられているため、いつの時代にどこで生きていたかがおおよそ特定できそうだ。 対象7th Story Märchen より『黒き女将の宿』 考察時代と地域の特徴 この曲の復讐を求める屍人姫になる娘は名が判明していないため、便宜上ただの「娘」と呼ぶ。 『黒き女将の宿』は娘自身と周辺地域、時代に関する情報・特徴が結構たくさんちりばめられている。

【SH考察:070】森と井戸 死と衝動

Sound HorizonでMärchen以降しばしば登場するようになったイドという概念。 これとモリという概念について、それぞれが何を意味しているのかを理解したうえで改めて歌詞を見てみよう。 対象7th Story Märchenより『宵闇の唄』など 考察2種類の表記 歌詞中、「もり」と「いど」は2種類ずつ表記が入り混じっている箇所がある。 それぞれ森とモリ、井戸とイドの2種類だ。 例えばこの辺りなど、まさに入り混じっている。 森と井戸は表記そのまま、草木の生い茂

【SH考察:050】イドルフリート・エーレンベルクは何者か?

Sound Horizonの作中登場人物の中で、発売されている音源の中では情報が少ないが、ライブでは存在感があるという変わった人物、それがイドルフリート・エーレンベルク。 彼がどんな人物なのか、情報を繋ぎ合わせて考えてみた。 対象1st Renewal Story Chronicle 2ndより『蒼と白の境界線』『碧い眼の海賊』 7th Story Märchenより『硝子の棺で眠る姫君』『生と死を別つ境界の古井戸』 音源未発売曲『海を渡った征服者達』『T・N・G』

【SH考察:020】黒き死を「遡る」は「逆流する」ではない

Sound Horizonの楽曲『宵闇の唄』に登場するセリフ。 実は当初、私はこの「遡る」の意味を取り違えていた。 この「遡る」、逆流するという意味ではない。 その根拠と、楽曲が意図したであろう解釈・意味をまとめた。 対象曲7th Story CD Märchenより『宵闇の唄』 考察引用された楽曲 まずは、『宵闇の唄』内で引用されている各楽曲が、いつ誰によって作られたものなのかを確認する。 このセリフの後に連続で4曲、さらにその後ドイツ語のセリフを経てもう1曲引用

【SH考察:014】イドイドとMärchenの時系列

Sound Horizonの中でも2つのCDから成り立つ物語。プロローグであるシングル『イドへ至る森へ至るイド』と、7番目の地平線であるアルバム『Märchen』。 全体を通して黒死病(ペスト)や魔女狩り、宗教改革の影響が垣間見える。そのため、そういったヒントを拾いつつ、実際の史実を参考にして、各局の時系列の整理を試みた。 対象曲Prologue Maxi イドへ至る森へ至るイド 全曲 7th Story Märchen 全曲 考察薔薇の塔で眠る姫君:? いきなりだが

【SH考察:011】実在のルードウィング家・ヴェッティン家との比較

Sound Horizonの作中登場人物であるテレーゼやメルツのルードウィング家と、エリーザベトのヴェッティン家。 人物は架空の存在ではある者の、この2つの家系自体は実在する。 サンホラの世界と実在する家計の歴史を比較することで、サンホラの世界のストーリーがどれくらい現実と矛盾せずとらえられるかを検証した。 対象曲Prologue Maxi イドへ至る森へ至るイドの3曲すべて 7th Story Märchenから『磔刑の聖女』 考察曲中の出来事整理 イドイドの中は3

【SH考察:010】『火刑の魔女』の時系列に違和感があるかもしれない

Sound Horizonのシングル『イドへ至る森へ至るイド』とアルバム『Märchen』の時系列を検証過程で、『火刑の魔女』の時代背景に疑問がわいた。 具体的には主人公の幼少期と、成長後の時代の整合性が取れなかったのだ。その理由と、どうすれば整合性が取れるかを検討した。 対象曲7th Story Märchenより、『火刑の魔女』 考察端的に言うと、主人公、後に修道女になる娘の幼少期の話と、修道院に入ってからの話で、時代の整合性がとれない。170年くらい合わないのだ。