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【SH考察:014】イドイドとMärchenの時系列

Sound Horizonの中でも2つのCDから成り立つ物語。プロローグであるシングル『イドへ至る森へ至るイド』と、7番目の地平線であるアルバム『Märchen』。
全体を通して黒死病(ペスト)や魔女狩り、宗教改革の影響が垣間見える。そのため、そういったヒントを拾いつつ、実際の史実を参考にして、各局の時系列の整理を試みた。


対象曲

  • Prologue Maxi イドへ至る森へ至るイド 全曲

  • 7th Story Märchen 全曲

考察

薔薇の塔で眠る姫君:?

いきなりだが詳細な時代が特定しきれなかった。
そもそも曲中で115年も経過している上に、時代が推定できそうな要素も少ない。

登場したアイテムで特定を試みたが、印象的な糸車は1100年くらいからはあったようで、そこまで細かい時代の特定には至らなかった。

ただ強いて言うならば、賢女は"賢女"として重宝されており、魔女として虐げられている様子がないため、野薔薇姫が眠りにつく前は魔女狩りよりも前の時代ではないだろうか?

というわけで、いったん屍人姫の中では最も古い時代の人物と仮定した。

生と死を別つ境界の古井戸:1348~1352年頃

黒死病と言われたペストの流行時期と思われる。
これはコンサート演出のほうがわかりやすいのだが、曲の最後にネズミが駆け回る様子が入っている。
ペストはネズミ⇒ノミ⇒人間という経路で感染が広まった。
おそらく、井戸内もしくは周辺に巣くっていたネズミがペストを媒介したのだろう。

この点から、ペストが大流行した時期と仮定した。

ただし、イドルフリートの関与を完全には否定できないなど、いくつか気になる点もある。
今回は最もわかりやすい点としてこの黒死病を取り上げたが、細かい気になる点は別の記事にまとめた。

火刑の魔女:1500~1520年?30年?

これについては長くなったので、別記事にまとめた。

要約すると、主人公が修道院に入った後、宗教改革が活性化した後に死亡したと思われるため、生まれが少し前で1500年初頭、死亡時期が1520年以降?と推定。

黒き女将の宿:1524年~1525年頃

この曲は以下の3点からかなり時期が絞られる。

  1. 農民が戦争に参加している

  2. オッフェンブルグで参戦しているはずのゲーフェンバウアーがいる

  3. ミュンツァー、フッテン、ジッキンゲンが全員死亡している

ドイツ農民戦争とは、ミュンツァーが苦しむ農民を指導して起こした反乱。主にドイツの南部から中部にかけて発生した。
曲中、食糧難に悩んでいる様子があること、そして1.農民が戦争に参加していることから、この農民戦争が舞台になっていることが推測できる。
(ちなみに「人は信仰によってのみ救われる」という信仰義認を説いたのはルター。プロテスタントの主要な理念)

さらに、2.オッフェンブルグで参戦しているはずのゲーフェンバウアーがいることもこの可能性を高めている。オッフェンブルグはドイツの南部なので、農民戦争とも地理的に合致。

そして3.ミュンツァー、フッテン、ジッキンゲンが全員死亡している。
黒狐亭の女将が「愛した男は、皆儚く散った」と言いこの3人の名前を挙げていることから、彼らが全員死去していることがわかる。
彼らの中で一番最後に死んだのは1525年のミュンツァー。

これらの点から、ぶらん娘が遠くの町に売られるまでが1524年、黒狐亭で働いているのが1525年以降と推定できる。

イドイド:~1540年頃

これまた長くなるため別記事にまとめた。
要約すると、魔女狩りの活性化と、『火刑の魔女』より後であると推測可能であることから、メルツ死亡・テレーゼ火刑・エリーザベトがまだ子どもだった頃は1540年頃と推定。

磔刑の聖女:1550年頃?

イドイドで子どもだったエリーゼが、成長し、結婚を急かされている。
そのためイドイドの時期+10年程度と仮定した。

硝子の棺で眠る姫君:?

推定が難しい。
ガラスの加工技術とかでも推定できそうな気がするのだが、私にその知識がないし、調べても今のところまだよくわからず……。有識者、何か知恵があれば教えてください……。

青き伯爵の城:?

これまた推定が難しい。
青髭がアイアンメイデンを使っているような描写があるが、そもそも現実では、アイアンメイデン自体が実用されたのかが疑わしいとされている。(実在するものが近代復元されたとされるものばかり)

ただ、青髭が、

君を魔女として断罪した、恩知らずな豚共を、私は許しはせぬぞ!

Sound Horizon. (2010). 青き伯爵の城 [Song]. On Märchen. KING RECORD.
※書き起こしのため誤差がある可能性あり

とブチ切れているため、魔女狩りがある時代なのはわかる。

『光と闇の童話』が拾われたとき:1790年代末

曲そのものの年代の話では無いが……『光と闇の童話』の冒頭で、3兄弟が井戸の傍に落ちていた本を拾う。

不明(長兄)「待てよーヴィル!」
ヴィル(次兄)「遅いよ兄さん!」
ルーイ(末弟)「待ってよお兄ちゃ…うぇーん!」
不明(長兄)「ああ、ごめんよルーイ、痛かったなぁ」
ヴィル(次兄)「おい、井戸んとこになんか落ちてる!
不明(長兄)「お前なぁ…」

Sound Horizon. (2010). 光と闇の童話 [Song]. On イドへ至る森へ至るイド. KING RECORD.
※書き起こしのため誤差がある可能性あり
※台詞冒頭の喋り主の表記は暫定で付与

このうち次男と末弟は愛称で名が呼ばれていたが、その略はグリム兄弟の名前のをよくある愛称にした形と一致する。
(余談だが、グリムは4兄弟で、ヴィルヘルムとルートヴィヒの間にあまり有名ではない三男フェルディナントがいる。そのためこの3人も正確に言うと4兄弟のうちの3人なのかもしれない)

図:左から長兄ヤーコブ・グリム、次兄ヴィルヘルム・グリム、
三男フェルディナント・グリム、末弟ルートヴィヒ・グリム
出典:左から
Siegmund Friedlaender, Public domain, via Wikimedia Commons
Siegmund Friedlaender, Public domain, via Wikimedia Commons
Ludwig Emil Grimm, Public domain, via Wikimedia Commons
Ludwig Emil Grimm, Public domain, via Wikimedia Commons

グリム兄弟は長男がヤーコブ(Jacob)、次男がヴィルヘルム(Wilhelm)、末弟がルートヴィヒ(Ludwig)。
このうちヴィルヘルム(Wilhelm)の愛称は一般にヴィル、ルートヴィヒ(Ludwig)はルーイになる。

『光と闇の童話』のルーイはまだ幼い印象だ。
仮にもしこのルーイがグリム末弟という設定ならば、その生年は1790年。印象的には10歳にも満たなさそうなので、『光と闇の童話』は1800年より少し前に拾われたのかもしれない。

結論

推定できた範囲での時系列はこうなる。

表:実際の史実を参考にした時系列(筆者作成)
『硝子の棺で眠る姫君』『青き伯爵の城』はわからん

メルツが死んだのは1550年前後と考えると、死後姿を変えた形であるMärchenメルヒェン vonフォン Friedhofフリートホーフは、メルツが生まれる前の事象にも関与していることになる。

―――

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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。

更新履歴

2023/4/24
 初稿
2023/05/02
 歌詞引用元表記修正
2024/03/25
 全体的に改定
 『光と闇の童話』が拾われたとき:1790年代末 追加
2024/06/15
 誤字修正

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