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守るべきもの



僕は何故かぬいぐるみが好きで、かわいいぬいぐるみがあるとすぐに買いたくなってしまう。カミさんには「またこんなものを買って来てどうするの」と言われるのだが、なんだかつい手が伸びてしまいそのたびに顰蹙を買う有り様なのである。

かわいいものを素直にかわいいと思える心というのはとても大切なことだと僕は思い、ロバやウシやオルゴール付きの人形などをそばにおいて眺めては「かわいい」と温かい気持ちになるのだが、カミさんは「邪魔よ」と言いのけてその心情を理解しない。


当時3歳だった息子も全くそれを理解せず、ひどくぞんざいな扱いをして平然としていた。猫や犬は小さい子供を嫌うというが、放り投げてみたり、耳をひきちぎろうとしたりする子もいたりする。

いつぞやも息子は、僕が大切にしている「牛」のぬいぐるみを持ち出して来た。これは実はカミさんの誕生日に僕がプレゼントしたもので、普段は玄関に大切に飾ってあった。

転がすと「もー」というかわいい鳴き声をたてる。そこで僕はこれをモーモ-ちゃんと呼んでいるのであるが、こともあろうにオウマなどと言ってこれにまたがってズリズリと引きずり回した。

息子よりもちょっと小さめのぬいぐるみで、またがって乗るにはちょうど良い大きさなのだ。しかし見ている僕はたまらない。首のリボンはヨレヨレになって、あたかもモーモ-ちゃんの首を絞めているような感じではあるし、足はつぶれてブタの足のようにシワがより、口元にぶら下がっていた牛乳ビンはとうとう引きちぎれてしまった。

カミさんは「まあいいじゃないの」と言うのだが、僕には不憫でならず、哀れでならない。思わず「ダメ」と言って息子から取り上げ、玄関に戻しに行くと、こいつがまたコソコソと取りに行って来て、気が付くと同じことをやっている。

「ダメ」と再び取り上げて抱きかかえ、「これはお父さんののダイジ、ダイジなモーモ-ちゃんなの」と言うと、息子は「ぷん」と怒って挑みかかって来る。それでも離さないと今度は泣きながらカミさんの所へ行って「トータン(父さん)がオウマさんを…」と訴えたりもする。

三たび玄関に飾り直し、それでも人の目を盗んで取りに行こうとするのを「ダメ」と言うと、それからは何だか訳が分からなくなって、取っ組み合い状態になる次第であった。


人が闘うのは、たぶん、守らなければならないものを持つゆえである。


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