見出し画像

第71話:ぬいぐるみ

[子育ての記録と記憶]

■3歳8カ月を迎えている亮太は毎日が楽しくなければ許せないらしく、何か遊びを探し、何かに夢中になっている。

遊びには必ずカミさんをひきずりまわし、悪いことをしているときだけは隠れてコソコソとやり、カミさんに飽きると外に出てバイクの分解を趣味とする隣の部屋のお兄さんに張り付き、アンパンマンとドラえもんを見ているときだけは静かだが、おなじみのCMはほとんど暗記していて、CMになると大声でその台詞やら歌やらを叫びまくっている。

スーパーに行っても大声で歌いながら店内を走り回っているらしい。当然のことながら1年前に比べれば口は全く達者になり、言葉を話すサルといった感じの今日このごろである。


■かつてまだ言葉が分からなかった時には、早く意思疎通ができるようにならないかと思っていたのだが、常にピ-チクパーチク耳元でさえずっていられたのでは疲れた身に応える。

語彙もそれなりに増え、いろんな言葉や言い回しを操るようになっているが、すべて耳から覚えるわけだから微妙に訳の分からないものもある。
いつだったか「イカテン」「イカテン」と叫び回っていたことがあって、これが何を意味しているのか暫くの間分からなかった。「イカすバンド天国」の略で「イカテン」という言葉があって、これかとも思ってみたのだがそんなはずもない。「イカのテンプラ」ではなかろうかと馬鹿なことも考えてもみた。

苦慮の末、結局どうやらカミさんが亮太を叱る時の「いけません」という言葉の真似だということを発見した。イケマセン→イケテン→イカテンだったわけである。


■男の子はみんなこうなのか、気に食わなければむくれ、人をたたきまわる(アンパンマンの影響か?)。むやみやたらに反発するという時期は過ぎ、確かに怒るときにはそれなりの理由があって怒っているのが分かるが、パンチやケリも随分力強くなり、そろそろこちらも半ば本気の状態にならないと対抗できないほどになりつつある。
僕も元気な時にはそれなりにやり合うわけで、そうなるとほとんどどサル相手の喧嘩状態とならざるを得ない。


■唐突に全く話は変わるが、僕は何故かぬいぐるみが好きで、かわいいぬいぐるみがあるとすぐに買いたくなってしまう。
カミさんには「またこんなものを買って来てどうするの」と言われるのだが、なんだかつい手が伸びてしまいそのたびに顰蹙を買う有り様なのである。

かわいいものを素直にかわいいと思える心というのはとても大切なことだと僕は思うわけで、ロバやウシやオルゴール付きの人形などをそばにおいて眺めては「かわいい」と温かい気持ちになるのだが、カミさんは「邪魔よ」と言いのけてその心情を理解しない。

当時3歳だった息子も全くそれを理解せず、ひどくぞんざいな扱いをして平然としていた。猫や犬は小さい子供を嫌うというが、放り投げてみたり、耳をひきちぎろうとしたりする子もいたりする。

■いつぞやも亮太は、僕が大切にしている「牛」のぬいぐるみを持ち出して遊び出した。
これは実はカミさんの誕生日に僕がプレゼントしたもので、カミさんは自分の誕生日に何故ぬいぐるみが贈られなければならないのか怪訝そうな顔をしたが、それでもその日から玄関に大切に飾られていた。

ビーチボールを二つつなげたくらい?の大きさで、抱き抱える心地もちょうどよく、横にすると「もー」というかわいい鳴き声をたてる。
そこで僕は亮太にはこれをモーモ-ちゃんと呼んで示していたのだが、亮太はこともあろうにオウマなどと言い、これにまたがってズリズリと引きずり回した。

自分よりもちょっと小さめのぬいぐるみだから、またがって乗るにはちょうど良い大きさなのだ。
しかし見ている僕はたまらない。首のリボンはヨレヨレになって、あたかもモーモ-ちゃんの首を絞めているような感じではあるし、足はつぶれてブタの足のようにシワが寄り、口元にぶら下がっていた銀色の牛乳ビンはとうとう引きちぎれてしまった。

カミさんは「まあいいじゃないの」と言うのだが、僕にはモーモ-ちゃんが不憫でならず、哀れでならない。
思わず「ダメ」と言って息子から取り上げ、玄関に戻しに行くと、こいつがまたコソコソと取りに行って来て、気が付くと同じことをやっている。

再び「ダメ」と言って取り上げ「これはお父さんのダイジなモーモ-ちゃんなの」と言うと、息子は「ぷん」と怒って挑みかかって奪いに来る。それでも離さないと今度は泣きながらカミさんの所へ行って「トータンがオウマさんを取ったった」と訴えたりもする。

三たび玄関に飾り直すと、それでも息子は人の目を盗んで取りに行こうとする。
「ダメ!」
「僕のオウマ!」
と、それからは何だか訳が分からなくなって、毎度のことながら、ナグル、ケルの取っ組み合い状態になったのである。


■一体何をやっているのかとカミさんは眉を顰めるのだが、守らなければならないものは守らなければならず、これを破壊しようとする者とは、ウルトラマンのごとく戦わなければならない。

くれぐれも虐待ではなく、スキンシップであることはご承知いただきたい。

(土竜のひとりごと:第71話)


この記事が参加している募集

#子どもの成長記録

31,562件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?