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第100話:天の国に王様がいました

天の国に王様がいました。
王様は誰にも負けない
優れた人になりたい
と思っていました。

ある時
王様が街に出ると
屈強な身体をした
飛脚の若者に出会いました。
その脚が欲しくなった王様は
飛脚の若者に
自分の身体と若者の身体を
交換するように命じました。
若者がその命令に抗うことはできませんでした。
王様は大喜びです。
王様は誰よりも早く
誰よりも強い身体を持ち
王様と闘って勝つ者はいなくなりました。

次に王様は
ずっと生きられる強い命が
欲しくなりました。

山奥に仙人が住んでいました。
その仙人はとても強い心臓を持ち
何百年も生きられるという噂でした。
そこで王様は使いをやり、
仙人を山から呼び寄せました。
仙人をもてなし
一晩王宮に泊めました。
そして仙人が寝ている隙に
心臓を取り出し
自分の心臓と交換してしまいました。
王様は永遠に生きられる心臓を手に入れご満悦でした。

しかし
王様はまだ満足がいきません。
今度は王様は、
優れた知恵が欲しくなりました。

隣の国に何でもよく見通す
すばらしい目を持った占い師がいました。
そこで王様は
自分の娘と結婚させると約束し
自分の国に招待しました。
娘との婚儀の日
王様はその見返りとして
目を差し出させることに
成功しました。
どんな遠くでも
どんな未来でも
見通せる目を手に入れたのです。
娘は目の見えなくなった
その占い師にくれてやりました。

また王様は美しい女性を
王妃に迎えたいと思いました。
国中にお触れを出し
美しい娘を集めさせました。
ひとりのとても美しい娘に目が留まり、
結婚することにしました。

婚儀のために招いた楽団の中に、
何でも聞き分ける耳を持った
音楽家がいることを知りました。
王様はこの耳が欲しくなりました。
そこで王様は
音楽家に酒を無理やり飲ませ
演奏を失敗させると
罰としてその耳を切り
自分のものにしてしまいました。


一年ほど経ったある夜
王様が寝ていると
耳の中でわんわんと声が響いて
眠れなくなりました。
そんな日が毎晩続くようになりました。
よく聞いてみると
国中の国民が
自分の悪口を言うのが聞こえました。
いい耳を持ってしまったためです。

また、夢うつつの中で
自分が国民の手によって
火あぶりにされている幻覚を見ました。
そんな日が毎日続くようになりました。
未来を見通せる目を持ったため
自分の未来が予見されてしまったのです。

それを迎えた美しい王妃に相談すると
王妃は
「実は、私はあなたに捨てられ、
占い師にもらわれていった、あなたの娘だ」
と言いました。
占い師はほどなく亡くなったが、
王様への恨みを晴らすために、
自分の姿を変え、ここに遣わしたのだと。

王様は愕然としました。
そして自分がしてきたことを
痛切に後悔しました。
しかし、どうにもなりません。
刀で自分を切って死のうとしましたが
強靭な体を持ったために
その体は、刀の刃を折ってしまいました。

何日も何も食べず
水さえも飲まずに
餓死しようとしましたが、
死なない命を持ったために
死ぬことが許されません。

ある日、突然、
王様は走り出しました。
止まろうとしても止めることができず
どこまでも、どこまでも
走り続けました。
屈強な足を得た上に、
それを制御することができなくなって
しまったためです。

王様は
どこまでも、どこまでも
いつまでも、いつまでも
走り続けなければなりませんでした。
そして、とうとう
躓いたはずみに、天の国から地上に転げ落ちてしまいました。


多分ですが、それが今の人間なのでしょう。


■土竜のひとりごと:第100話

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