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第159話:ジュビロ磐田のアクセント

[ 日本語雑話:アクセント ]

これは図書館勤務時代に書いたものです。ジュビロ磐田の「イワタ」のアクセントが共通語と地元で違うために、テレビその他の報道で使われている「イワタ」が、地元の方に違和感を抱かせて問題になったということがありました。その件についての内容や経緯に関して調べたものです。

ワタか、ワタか?

問題は「イワタ」のアクセントが共通語と地元では違うことにあるので、まずそれぞれのアクセントの違いを確認してみます。

地名はアクセント辞典には載っていませんが、共通語のアクセントは『日本国語大辞典』に載っていました。それによると、磐田は地イワタと平板に発音されることがわかります。
一方、地元静岡のアクセントを確認する資料としては『静岡県地名読み方おもしろ辞典』があります。市町村別に地名の読み方とアクセントが記されているので、磐田のページを開いてみると、「ワタ」と頭高アクセントで発音されていることがわかります。同じページに☆印をつけて「ジュビロ磐田」は「ジュビロワタ」であることが示されてもいました。

「イワタ」のアクセントと放送

『静岡県地名読み方おもしろ辞典』は静岡新聞社がSBS静岡放送アナウンス部と提携し、読みとアクセントを中心に、地名の「音」を記録するために作られたものですが、なかなかの労作です。
ページを繰りながら、制作意など確認してみようと巻頭を見ると、ジュビロ磐田の話題から「はじめに」が書き起こされています。全くの偶然ですが、その記述はそのままこのご質問の解答を示してくれていました。

それによると、Jリーグにジュビロ磐田が加盟した頃、地元とは違う平板型のアクセントが頻繁に放送で流れたために、磐田の読みが気になるという磐田市民からの声が静岡県内の各放送局に届いたそうです。
「各放送局はそれぞれのキー局に訂正するように連絡し、その結果、磐田の地名は全国的に地元の人たちと同じアクセントで発音されるようになりました」と書かれています。地元の声が放送に反映され、地元のアクセントで、「ジュビロワタ」と発音されるようになったことが確認できます。

別の資料でも確認したいと思い、「ジュビロ」「アクセント」の両面から当館の所蔵資料を検索してみましたが、磐田のアクセントに関する記述に行き当たることができませんでした。

DBで新聞記事を検索してみたところ、静岡新聞(1998年4月25日)にジュビロ磐田の活躍で、「当初はバラバラだった地名の読み方のアクセントまで周知徹底された」という記事がありました。

さらに、検索エンジンgoogleで資料を探すと、「岐阜女子大学紀要」第32号に神田卓朗氏が寄せている論文がヒットしました。地元の発音を尊重して欲しいと、「地元静岡のテレビ局から民放各局のアナウンサールームにFAXが届いた」としています。

また読売新聞社の「新日本語の現場」もヒットしました。新聞に掲載され、中公新書ラクレから同タイトルで出版されてもいます。そこにも『チームから「地元の発音で行ってほしい」という要望があったため』として、ほぼ同内容の記述がありました。

細部に記述の違いは見られますが、これらの資料からも、「イワタ」のアクセントと放送について、その経緯を知ることができます。

地元アクセント

全国的にも、地名は地元と共通語でアクセントが随分異なります。
例えば私たちは「ガノ」と発音しますが、地元では「ナガノ」と平板に発音するようです。
『NHK日本語発音アクセント辞典』は巻末の付録の中で、「青森」「栃木」「萩」などもそうした例として挙げていますが、『静岡県地名読み方おもしろ辞典』も、「地名研究入門」の中で、静岡市の「池田」は地元では「イケダ」と発音し、「沼津」は古くは「ヌマヅ」であったなどという例を紹介しています。

日ごろはあまり意識しませんが、地名の「音」に目を向けてみることも、豊かなふるさとの発見や継承につながるのかもしれません。
さて、「ジュビロ磐田」は今、地元アクセントで紹介されているでしょうか。今度じっくりと聞いてみてはいかがかと思います。

【参考文献】  
『静岡県地名読み方おもしろ辞典』
『日本国語大辞典』
『NHK日本語発音アクセント辞典』


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